
僕の愛用の70ED BINOはアイピース込みでトータル5.7kgに対して、8㎝口径がありながら、SkyMaster Pro ED 20×80はたった3.5kg。5㎝口径のNikon WX 10×50 IFの2.5kgと比べても、持った感じはむしろSkyMaster Pro ED 20×80が軽く感じるのは、持ちやすさ+大きなレンズとボディから来る想像とのギャップだろう。
小さいビデオ雲台にひょいと乗せて、ピントを合わせて覗くだけ。この一体型の剛性はハンドメイド双眼望遠鏡の比較にならない安心感があるし、何よりちょっと見てみたい、そんな瞬間にこの手軽さと速射性は何物にも代えがたい。クルマに積んでおけば、どんな高級双眼鏡より稼働率は上がるに違いない。

Celestron社の日本代理店様からオファーを頂き、ご提供して下さったSkyMaster Pro ED 20×80が届いた。(ありがとうございます!)その精悍な佇まいは、一目見てカッコいい!周辺像がどうのとか視野角がどうのとか言う前に、まずドS男の所有欲を満たす美しいボディに僕はやられた。w高級感と言うよりは、使う道具として必要十分な質感がある。
ガッシリとした一本のセンター軸が持ち手ハンドルと三脚固定足を兼ね、全ての機構の中心を一直線に貫く極めて合理的な構成で、サイドのEDシルバープレートが誇らしく輝いている。全長もノンEDモデルに対して少し長くなっていて、各所様々に変更があり高性能化を苦心した跡を感じさせる。

しかし実際にはED/Non EDともにF値はどちらもF4.1前後、焦点距離330mm、80 mm F4.1の対物 × 約16.5 mm接眼系と推測され、SkyMaster Pro EDが大きいのは、光量を最大化するために大型BaK-4プリズムを使っており、そのため大きなシャーシが必要だったとCelestron社自身が説明している。その恩恵はNon EDの実視界3.2° → ED版3.4°に拡大している所に現れているし、周辺光量にも影響しているだろう。

鏡筒内部の作りも、ノンEDモデルと比べて格段に丁寧な作り込みがなされていて、こういう細部の満足感は、持ち出す度に価格差以上に後からじわじわ効いてくる。
GPTによれば、BaK-4は双眼鏡のプリズム材としては上位の定番のランクだそうだ。
K9 ≒ BK7 < BaK-4 < 特殊高屈折率ガラス/高級専用硝材
ということだが同じBaK-4でも中国製双眼鏡のBaK-4は、高名なSCHOTT社製 N-BAK4と必ずしも同一硝材ではないとかなんとか。Celestron公式は一貫して「high-quality BaK-4 glass」とだけ書いてある。予め書いておくと、SkyMaster Pro EDは双眼鏡に何十万円も払うなんて頭がおかしいと思っている正常な感覚を持つユーザーのための道具であり(^^)、それでも10万円を切る価格で大人がちゃんと楽しめる事を目指したモデルだ。
その意味では、この箱は良くない。

箱の絵柄には高精細な木星とガリレオ衛生が描かれているが、20倍では絶対この様に見えないし、実際にはガリレオ衛生は見えるけど、木星本体は真っ白に眩しく光っていて縞模様の検出は厳しい。これは初心者の方に誤解を招く。

早速、SkyMaster Pro ED 20×80を近所の海辺に持ち出して、昼間の景色を覗いてみる。20倍の倍率は手持ちでも試してみたが当然ながら揺れまくりで落ち着いて見ていられない。そこでGitzoマウンテニアGT1542+Leofotoの小型ビデオ雲台に乗せてみたが、人間の目の高さまで引き上げるため、首をめいいっぱい引き延ばす必要がある。
そうなるとGT1542ではちょっと役不足で、SkyMaster Pro ED 20×80のフォーカサーがやや渋い事もあり、細い三脚だと視界が揺れてしまってピントを合わせにくい。特に星を見上げる際はアクロバティックな体勢になりやすく、もう少し最高長が高く、足も首も太い三脚の方がより快適だろう。(昔、ちゃちい三脚に乗せていた10cm双眼鏡を暗闇で誤って倒ししてしまい、バラバラに粉砕してしまった悲しい体験がある涙。重厚な三脚は、いつかそれに助けられる日がきっと来る。)

像質はEDレンズらしい端正な見え方で、基本はしっかりと抑えてある。視野枠は特段広くも無いが、狭苦しくも無い一般的な双眼鏡の視界だ。但し、SkyMasterの名前が示す通り、これは夜空に特化した双眼鏡で、昼間の景色は抜ける様な明るさという感じでは無い。地上風景を見るには倍率も過剰で、どうしてもキラッキラのカリッカリとはいかない。こいつの真価は夜空に発揮するのだが、それは後述。
流石に高級機と比べると、覗いた瞬間にEMSの2回反射の銀ミラーの鮮烈さに届かないと思ったが、これはプリズムの品質だけでなく、4mmの射出瞳径と20xの倍率に起因するかもしれない。70ED BINO(射出瞳5mm、14倍)と比べて、薄い膜が2枚くらいかかって見える。
周辺像も70ED BINO + UF30の組み合わせだと最終端まで99%点像だが、それに比べるとSkyMaster Pro ED 20×80は一般的なオーソドックスな設計で、周辺は穏やかに像が崩れていく。僕はそれほど気にならなかったが、F4.1が事実であれば、それは小型化のための相当に攻めた設計で、それでよくここまで補正出来たと言うべきかもしれない。色収差もEDモデルとは言え、それなりに発生する。これほどの単焦点の場合は、ノンEDのアクロマートモデルは収差がちょっと厳しいのでは?と想像したりもする。

話しかけてきた近所の散歩中のおじさん達に両方見てもらったが、70ED BINOを覗いて、あれ?こっちの方がよく見えるじゃん!と、いたって素直な感想を笑顔で言われてしまった(^^)。まあそうなるよね、、、
そもそもNikon WXは70万円するし、70ED BINOも接眼部のEMS-ULだけでSkyMaster Pro ED 2台分だ。こんなガチのマニア・アイテムと比較しても意味が無い。
ところがそんなリーズナブルな8cm大型双眼鏡は、夜空で本当の実力を見せてくれた。

その日の夜、僕の住む神奈川県の葉山町の空に久しぶりにオリオン座が美しく輝いていたので、仕事を早めに切り上げて、実際に二台並べて夜空を見比べてみた。葉山は東京、横浜から距離が近いので空は都心郊外の領域を出ない。せいぜい僕の目では3等か4等が肉眼で視認出来る程度の空だ。
そこでは、昼間の感想とは違う結果になった。
SkyMaster Proの射出瞳径4mm、70ED BINO + UF30の射出瞳径5mmが逆にもろに効いて、SkyMaster Proの方が背景が黒く締まっている。しかも口径8㎝ vs 7cmの1㎝の差がこんなにある事を僕は初めて実感したが、シリウス下のM41やM42オリオン星雲、スバルやふたご座M35、ぎょしゃ座M37など、何を見ても8㎝のSkyMasterの方が見栄えがする!8㎝の方が小さな星々がより明るく見えて、背景とのコントラストもあって星が輝いていて美しいのだ。特に散開星団が、7㎝では感じなかった微光星が密集していて見事だった。昼間感じた薄い膜は、星空の元では全く感じない。
70ED BINOの星像は小さく収束しているが、逆にこの程度の空では星の光の力が弱く寂しい。SkyMasterの星像が肥大している?と一瞬思ったが恐らくそうではなく、単純に口径の差の分、光量が多い見え方だった。
Nikon WXもそうなのだが、小口径が真の実力を発揮するのは満天の星空の下だけ。WXで見る葉山の空はちっとも面白くなかったりしてw、8㎝あると都心郊外でも楽しめることを今更ながら学んだ(^^)。口径だけでなく、倍率14倍と20倍の違いも大きいかもしれない。20倍あるとオリオン大星雲が、ちゃんと星雲の形が見えて来る。木星の模様は見えないけど、土星は辛うじて小さい輪が見えた。(70ED-BINO 14倍で見た時は、欠けた金星と見間違えたまま疑わなかった。w)
天頂部の対象を追う際は、当然直視型の宿命はある。天頂付近のぎょしゃ座を追うために、暗闇でオッサンが一人でプルプルしながらイナバウアーをキメてる姿は(古いかw)、周囲から見ればいかにも滑稽に違いないが、それでも導入支援などごちゃごちゃ用意せずとも、とにかくそっちに向ければ視界に入ってくる直視型は、なんとも気楽でイイんだよなあ。

関東では観測史上最長の曇り、雨続きらしい。梅雨の時期からずっと待ち続けていた新月の快晴の夜は、なんと10月まで待たなければならなかった涙。お陰で今年は夏の星座をすっかり見逃してしまったが、10月8日、遂にチャンスがやってきた!調べると長野、山梨は相変わらず夜半に雲が発生する予報。群馬に向かっていた途中で群馬も予報が怪しくなってきたために、急遽茨城に目的地を変更した。
遠征ブログをサボっていたのはもう一つ理由があって、Sonyから乗り換えたBlackmagic Cinema Camera 6Kが、なんと長時間露光が一切出来ない事に買ってから気づいた(笑)夜の写真が撮れない状態が1年近く続いていて、最近やっと手頃な写真機を調達した。(今日の写真は全部、Lumix S5II。)
茨城県常陸太田市にある高原のプラトーさとみさんの駐車場にお邪魔した。標高780メートルあるが駐車場は夜間閉鎖されていて入れなかった。巨大な風力発電が林立していて普段は強風エリアなのだろう。その晩は風車は回っていなかったが、発電所の低周波が終日鳴り響き、近隣住民の健康被害が心配になるほどの音量だ。電線も多く、トイレも無いためおすすめの星見スポットとは言えないが、その日の夜は恐ろしいほどの透明度で、全く星が瞬かない奇跡の空で迎えてくれた!

最高の空と相まって、久しぶりに出動する20cmF7 BINOが見せる視界一面の星のシャワーに、時間を忘れて見入ってしまった。イヤー、凄い空だった。やっぱり僕にはこの時間が定期的に必要らしい(^^)。沈みかけていたはくちょう座から、美しい散開星団が集まるとかげ座を経て、カシオペアを辿ってオリオンまで、天の川のかけら達を、そのほとんどをMasuyama 32mmで堪能した。まるで巨大な静止画のごとく、高コントラストの美しい散開星団が視界一杯にビタ止まりしている。マスヤマって、こんなに良かったっけ?
途中、SkyMaster Proで遊んでいる間にマスヤマが曇ってしまったのでNav-17HWに変更。焦点距離1400mmにはちょっと拡大率が高くて、今日はマスヤマの方が良かった。
その後、若い5人組の男の子達が隣に乗り付けて、何やらステラリウム片手に肉眼で星を見上げていたので、デカいので見ますか?と声をかけてみた(^^) それから薄明まで、アンドロメダやら土星やら、予期せず大勢でワイワイ観測を楽しめた。レジェンドからお預かりしている20cmF7 BINOを若い世代にシェア出来て、僕も嬉しかった。

一緒に連れていったSkyMaster Pro EDも、倍率が違うだけで大型双眼に引けを取らない感動体験が得られる。20cmF7 BINOの最低倍率はMasuyama32で44倍、1.9度。SkyMaster Proの20倍、3.4度は、大型で見ることの出来ない広視界を得るのにとても都合が良い。デリケートな取り扱いが一切不要で、セッティングの手間も何も要らない特性が主鏡のお供にとても扱いやすく、星像も全然問題ない。大きな双眼望遠鏡が無かったとしても、これ一台で一晩中遊べると思った。むしろ倒立像の望遠鏡より、これの方がメシエマラソンとか楽しいと思う。
なんと言っても左右の光軸合わせやら、クルマの運搬中のあちこちのネジのゆるみを心配する事も無く、クソ重い架台もアイピース・コレクションも無縁だし、目幅の違う友人と交代するたびに発生する面倒なプロセスも一切ない。ああ、なんて楽なのだろうw。
10万円以下で(使いやすいソフトケース付き!)この体験が出来るなら、普通はこっちがおススメだよね。納得です。初心者の方はもちろん、ベテランや写真派の皆さまも、撮影中の待ち時間に眼視も楽しむお手軽BINOとして、また都心近郊でも遠征でも守備範囲が広いED 8cmBINOとして、SkyMaster Pro ED 20×80以上に手軽な選択肢は他に無いかもしれないと、思うに至った夜だった。

PS: 以下は変態マニアの妄想ですw。
SkyMaster Pro ED 20×80の見かけは視界61.4°だが、接眼部の機構がシンプルで、見れば見るほどアイピースを交換出来そうに見えるんだよなあ(笑)82°のTele Vue Nagler Type 5 16mmか、同じく82° Sky Rover UWA 16mm、76°のBaader Morpheus 17.5mmや、85° Masuyama 16mmとか、31.7mmベースで選択肢が色々ある。これがうまく行ったら、全く別の双眼鏡になるよなあなんて、悪知恵が湧いてこないわけでもないw。
シンプルなレンズ構成が売りのMasuyamaは一番広視界だが、F4.1と合わせると恐らく周辺像放置で悪化方向、Nagler 16mmは改善方向に進む可能性もあるが、この高級アイピース一個でSkyMaster Pro ED本体と同価格。ナグラーよりは視野円は小さくなっても、Morpheus 17.5mmなら4.1°視界が得られるかも?アイレリーフも長くて見やすそう。そもそもプリズムや接眼部の開口によって周辺光束がケラれて性能を発揮できないかな?やっぱり素直にそのまま使うのが良いかw。


























