Leica M9-P, Summicron 50mm/f2.0 (ƒ/2.0, 1/4000, ISO 160) ©2019 Saw Ichiro.
APO-SUMMICRON-M F2/50mm ASPH.登場以降、なんとなくその廉価版的な存在になりつつあるノーマル・ズミクロン50が、今どんな意義があるのか再考してみる。ちなみにアポ50が価格コムで現在99万円、ノンアポが30万と3倍以上の価格差がある。
最も信頼する50mmは何かと問われて、ズミクロンの名前を挙げる写真家は少なくない。まさに世界のリファレンスと言うべき歴史を持っているし、僕がライカの世界に辿り着いたきっかけは、まさしくズミクロン50だった。
明瞭度を下げてちょっと柔らかくするのがマイブーム^_^。Leica M9-P, Summicron 50mm/f2.0 (ƒ/2.0, 1/250, ISO 160) ©2019 Saw Ichiro.
だいぶ以前に、ベストな標準レンズはどれだ!という探究心に火がついた。Sony α7を使っていた頃だ。何かをやり始めると思い切りハマる体質だった僕は、自由時間の99.9%を費やし、毎日様々な50mmレンズの作例をFlickrで見まくり、自分でも買いまくり、売りまくっていた。その当時の僕はZeissファンだったので、ビンテージからコンタックス、コシナ製まで、結構いろいろ試した。他の日本ブランドもいくつか試した。当時、高解像度で話題をさらっていた新生Sigmaシリーズなんかも一時期手元にあった。その多くは売ったり、壊したり、人にあげたりした。
今日は昔のα7時代の写真をいろいろ引っ張り出してみた。Carl Zeiss Planar T* 45mm F2(Sony α7)も面白いレンズだったが、湾曲が。。。^_^©2015 Saw Ichiro.
そしてズミクロンに行き着いた。解像度、発色、均一性、正確性、あらゆる局面で突出していた。当時の僕はレンズに何十万も払う感覚は無かったのだが、意を決して最初にSummiluxを選んだのは、単に口径が大きい方が偉いと考えたからだ。
ほどなくして第二世代ズミクロン50mmも手に入れた後、結局、第1世代(固定鏡胴)、第4世代現行と、世代違いのズミクロンを3本経験した。
ベルリン。Leica Summicron 50/f2.0 第二世代(α7)©2016 Saw Ichiro.
不思議な事にライカで撮られた平面写真は時々、両目で見ている様な錯覚に陥る描写になる。これをライカの立体感とか、海外ではLeicaの3D描写とか言われている事は後から知った。(一部の古いZeissにも近い印象のレンズはあった)
ズミクロンはそれまで僕が経験したどの50mmよりも解像力があるのに、絵が柔らかく自然だった。しかも軽くて小型と来た。僕の50mmレンズの旅の終着点は、疑いなくLeicaだった。
Leica M9-P, Summicron 50mm/f2.0 (ƒ/2.0, 1/4000, ISO 160) ©2019 Saw Ichiro.
Leicaを所有する目的は、その画作りや性能に感嘆したり、そのブランドの息遣いや哲学を垣間見る喜びだったり、カメラという物体そのモノを愛でる楽しみもある。でもせっかく素晴らしい道具を手にしたのなら、ある程度まじめに写真に打ち込む方が、もっと楽しい。
自分は素人だから。センスが無いから。単なる趣味だから、、、。
これらは自分の心が傷つかない様、予め保険をかけておくためのセリフだ。良い写真とは何かを考えるには、面白くない写真とは何かを考える事に等しい。何が人の琴線に触れるのか。僕は答えはさっぱり分からないが^_^、それを自分の頭で考え、試行錯誤する活動すべてが写真をやる本当の意義だし、それは自らの感性を研ぎ澄ます工程に他ならない。
ミニ三脚を忘れたので、地面に押し付けて1/2秒で撮った。Leica M9-P, Summicron 50mm/f2.0 (ƒ/2.0, 1/2, ISO 800) ©2019 Saw Ichiro.
ズミクロンよりボケるレンズはたくさんある。SummiluxやNoctiluxは、もっと3Dだし何を撮ってもそれなりに面白くなりやすい。アスフェリカル・レンズの方が解像度だけで驚かせてくれる場面も多い。
ズミクロンはそんな飛び道具的な味付けは何もない。今となってはズミクロンの解像度に驚く事も無い。僕にとってズミクロンは、ただ真面目にまっすぐに、撮り手が見たシーンを出来るだけ正確にごく「普通」に再現してくれる。
となると、少しでも写真を良くしたい意思があるならば、大口径レンズより超高解像度レンズより、もう一歩深掘りする事が要求される。ボケにも寄りにも頼れない場合、写真のもっと本質的な光と影に意識を向けなければ、ただライカ品質で「これは壁です」「これは猫です」と説明する以上の何も写ってくれない。
Leica M9-P, Summicron 50mm/f2.0 (ƒ/2.0, 1/4000, ISO 160) ©2019 Saw Ichiro.
ライカを使うと写真が下手になる様に感じるライカユーザーは少なくないと思われ(自分がそうだった^_^)、その多くはズミクロンの洗礼を受けたからじゃないかと思ったりもする。それはズミクロンを前に、使い手の本当の力量が露呈してしまったに過ぎない。自分がいかにボケだけに頼っていたのかを思い知らされるのだ。
構図と光の陰影を見つめ直し試行錯誤を続ける期間こそ、最も写真の深淵部に近づけるとするならば、ノーマル・ズミクロンこそ最高の先生じゃないか。そういう想いで、以前手放した現行を最近買い直した。
この理屈の良い所は、ただ小遣いが足りずにAPOズミクロンが買えなかっただけではないと、自分に言い聞かせる事が出来る(笑)とは言えズミクロンで撮れない人がアポズミクロンで撮れるはずもないし、100万円の究極レンズを手に入れるのは、球面ズミクロンをボロボロになるまで使い込んでからでいい。
ズミクロンは現行がベストか?
僕はフード内蔵バージョンの第4世代(現行)を買ったのだが、個人的には一つ前の第3世代にすれば良かったかな?と思っている。フードを引き出したまま固定する事が出来ない上に、フードの奥行きが非常に浅いために、レンズ保護としての役割を果たさない。
僕の様なレンズにフィルターもキャップも付けたくない派でも、流石にバッグの中でレンズが常に何かに擦れ続けるのは嬉しくない。うちの娘(小学生)がライカを貸せと言って撮りまくるのだが、テーブルとかにレンズをガンガンぶつけまくるし(笑)結局内蔵フードは収納したまま、39mm径の社外フードを装着する事にした。その方が万一カメラを落としてもレンズ保護になるし、安心してキャップ無しで裸でバッグに放り込んでおける。
社外フードを装着した第4世代・現行ズミクロン50。
何より第3世代はフォーカスレバーがあるのが最大のポイントだ。ファインダーを覗く前からフォーカスリングに触るだけで、最後に使った状態が最短付近にあるのか、1mなのか、無限遠付近なのか、大凡の距離感をカメラを構える前に当たりが付けられるのは、僕にとって6bitコードよりずっと大きなメリットだ。(現行はレバー無し)
この金属製社外フードをチョイスした。ズミクロン50でケラレ無い事を確認済み。
おまけ:SummicronとSummiluxの違いのイメージ
Summilux 50 とSummicron 50の詳細な違いが書かれたサイトはあまり見かけないと思ったので、持っている人は退屈かもしれないが、それぞれユーザーとして率直に感じていた違いを列挙してみる。
解像度
現行のズミルックスASPH.の中心解像度は、ズミクロンよりもちょっとだけ上に感じるのは、ズミルックスの描く線がより細く繊細に感じるからかも。とは言えズミクロンの解像力も他社のほとんどのレンズのそれより高いし、必要にして十分だ。むしろ長く使っていると、アスフェリカルが尖すぎると感じる様になったりする。
1970年に製造されたレンズとは思えない写りと、当時驚いた事を覚えている。Leica Summicron 50/f2.0 第二世代(α7)©2016 Saw Ichiro.
ズミクロンのメリットは中心と周辺の差がほとんど無く、例えば被写体をフレームの四隅に持って行く様な場面では、ズミクロンの方が安心感がある。今でこそ両者に大した差は無いが、オールド・ズミルックスは明確にオールド・ズミクロンに解像力で負けていた。
オールドズミルックスはよく言えばかなり柔らかい、悪く言えばフワフワで緩いので、人や植物を柔らかく撮るにはハマるが金属や風景を撮るなら解像度がイマイチ足りないので、後から明瞭度を上げたくなるかもしれない。
モンマルトルの朝。多分あとから多少いじっている。 Sony ILCE-7, Leica Summilux-M 2nd 1:1.4/50 (ƒ/1.4, 1/125, ISO 1600) ©2015 Saw Ichiro.
湾曲
ズミルックスは樽型の湾曲が結構ある。この点もズミクロンの明らかな優位性で、ズミクロンのビシっと決まった輪郭が、いかにも優秀なレンズ然としている。例えば建物を正確に記録する様な用途では、ズミクロンの方が線が気持ちよく直線に描かれると思う。(別にズミルックスでも問題はないけど)
Leica Summicron 50/f2.0 第二世代(α7)©2016 Saw Ichiro.
柔らかさ、優しさ
単純に被写界深度がズミルックスの方が狭いため、アウトフォーカス部分が画面を占める割合が多い。なのでズミルックスの方が全体的に柔らかく優しく見える。現行非球面ルクスの場合、その優しさに対するピンの鋭さの対比が面白く、女性ポートレートはズミルックスに一票。ズミクロンはあくまで全面に正確、冷静に記録する感じ。ズミクロンのボケはf2.0成りなので、当然フワトロのボケは期待出来ない。
Sony ILCE-7, Leica Summilux-M 2nd 1:1.4/50 (ƒ/1.4, 1/8000, ISO 100) ©2015 Saw Ichiro.
発色
ズミクロン50は40年間基本設計が変わっていないそうだが、世代により発色は結構違う。全世代試した訳では無いが、少なくとも第二世代までのズミクロンの発色は総じて淡白というか、渋めと言っていいと思う。一方、ズミルックスは初代貴婦人の後期(200万台以降)からどういう訳か鮮やかで、モノクロ時代だったにも関わらず、特に人肌がオールド・ズミクロンよりも血が通って素敵に見える事が度々ある。こういう事はスペック表では何も教えてくれない。
葉山のとあるセレクトショップにて。Leica M10, Leica Rigid Summicron 1:2/50 (ƒ/2.0, 1/125, ISO 100)
これは僕のピンが甘かっただけで、本来は瞳がもうちょっとシャープに映る^_^ – Montmartre, Paris. Sony ILCE-7, Leica Summilux-M 2nd 1:1.4/50 (ƒ/1.4, 1/125, ISO 1600) ©2015 Saw Ichiro.
フォーカスのしやすさ
例えばバストアップのポートレートをフレームに収めるくらいの距離感の場合、f2だとだいたい人間の頭ひとつ分程度の被写界深度がある。f1.4では片方の瞳にピンが来て、もう片方は外れる様な場面もあったり、ズミクロンの方が気楽と言えばそうなる。だからと言ってレンジファインダーのピント合わせは一目瞭然なので、余程視力に自信が無い訳でもなければ、f1.4でもさほど難易度が高い訳ではない。(走り回られると開放じゃお手上げだが^_^)
ライカMで速射性を求めストリートではf8.0、ピント固定で使う事を考えれば、どうせ絞るならより軽く小さく湾曲の少ないズミクロンを選ばない理由は無い。線が細く繊細なズミルックスに対してズミクロンは描写に力強さがある。ズミルックスは優しく上品に写るのが最高の美点だ。貴婦人とは古いルクスの相性だが、レンズの外見だけでなく被写体も貴婦人にしてくれる事がある。
ちなみに現行ズミルックスの内蔵フードは、マイクロビス一点留めで、携帯中に振動で外れてフードだけ脱落した事がある。(お持ちの方は時々増し締め確認をオススメします^_^)現行ズミクロンの内蔵フードは構造上、その様な心配は無い。
友人は立てていたルクスがパタンと倒れただけで、内蔵フードが変形してしまい悲しんでいた。内蔵フードのズミルックスは美しいが、こちらもやはりフードは外付けがベターと個人的には思っている。
懐かしいのが出てきた。昔はこんなコラージュで遊んでいた。Sony ILCE-7, Leica Summilux-M 2nd 1:1.4/50 (ƒ/1.4, 1/320, ISO 100) ©2015 Saw Ichiro.