口径:42mm 倍率:8× 実視界:7.7° 見掛け視界:62° アイレリーフ:19mm 射出瞳径:5.2mm
スワロフスキNL Pure 8×42とNikon WX 10×50 IFが凄い事は、前回K-Nebulaさんに見せて頂いて良く分かった。ところが星空をライカNoctivid 8×42で新五合目で覗かせて頂いて、驚いた。あれ?これ42mm口径なのに、妙に明るい!50mmのニコンに全然負けてない?あれ、これスワロより見やすい??あれ、、、これ、良くないですか!?そのまま翌日には勢いに任せてポチってしまい、久々のライカ・ユーザーに回帰したのであった。(^^)
先立って成功を収めた実視界102°のアイピース、NAV-HWの光学系を継承したというNikon WXは、そりゃイイ筈だ。制作チームがこのアイピースの性能に驚いて、重くてもいいからこれで双眼鏡作ったらヤバくね!!?というノリでこの名作は生まれたのだろう。WXは恐らく現代双眼鏡の頂点に立っていてこれまでの双眼鏡の概念を凌駕した。それに触発されてスワロがNL Pureで追従し、ZeissやLeicaは彼らに一歩遅れを取る形になっている、というのが僕の乏しい双眼鏡の認識だ。
ところがどういう訳か、僕が一番感動したのは想定外のLeica Noctividだった。当然、NL PureもNikon WXも何度も星空を見比べた。オリオンベルト周辺に散りばめられた微光星が見事に美しく、何度見比べてもニコンと遜色無い様に見える。もちろん昼間の景色で三脚固定で厳密に比較したら、視野の広さや良像範囲など結構違うはずなのだが、手持ちの星空ではその差が僕には気にならなかった。むしろ、WX(重量2.5kg!)を持った後にNoctivid(860g)に持ち帰ると、拍子抜けするほど軽く、手軽に感じた。
同時に比較したNL Pureは倍率が10倍だった事も、ライカが見やすく感じた要因だった。forehead rest付きでも手持ちで10倍はちょっとブレが厳しいし、射出瞳径の違いもライカに有利に働いたと思われる。
葉山は湘南国際村で、皆既月食を大勢で楽しんだ。
しかも悪い事に、プライスが今ならニコン、スワロ双璧の約半額。ズミクロン50mm一個分な事を知ってしまい、さらにKyoei Osakaさんがセールまでやっていて(^^)、円安の現在、ドイツから直輸入するよりリーズナブルではないか。
本家カメラのLeica M型の新レンズ群のプライスは近年、文字通り「うなぎ登り」で軒並み1本100万円前後のタグが付いている。2016年9月発売のNoctividは既に6年が経過しており、そろそろ次の新機種に入れ替わってもおかしくない。そうなると今の国内在庫が払底したら、Leicaもフラッグシップ機はスワロと同等の売価を付けてくると予想され、この値段で今後買える事は無いかもしれない。望遠鏡や双眼鏡などのニッチな業界ではカメラ・レンズよりも圧倒的に玉数が少ない。心に響いたらすぐに行動に移さないと売り切れたら最後、あの双眼鏡は良かったなあという永遠の羨望の記憶と共に余生を過ごす事になる。
僕の場合は新五合目の星空の感動だけがLeicaを選んだ理由であって、究極の性能を求めている訳でも無いし、頂点を巡る競争にも感心が無い。鳥にも全く興味無いので、双眼鏡は星にしか使わない。でもせっかく世界の御三家の一角を初めて手に入れたので、少しレビューっぽい事を書いてみる。
ちなみにNoctividに関するレビューは世界的にほとんど見る事が出来ず、特に日本語はK-Nebulaさんを除いては皆無だ。この当時のLeica社は歴史とブランド名だけでやって行けるためか、マーケティングがテンデ駄目だ。(^^)
Noctividのカラバリは黒とオリーブ・グリーンがある。僕はM型カメラは黒を何代も経験して、今は深緑のサファリモデルがカッコよく見えたりして、双眼鏡も暗闇での使用前提なので迷わずオリーブグリーンをチョイスした。
昼間に覗いて見ると、キラキラと輝く海が実に明るく美しい。高いコントラストがありながら影を落とす岩肌の質感も見事だ。船に座る釣り人やGoProを先端に装着してSUPを漕ぐ男性、漁船やヨットなど、いつまでも無意味に眺めていられる。
1億画素のデジタル中判カメラを持ってしても、この様な広いラチチュードの美しさを全く表現出来ないので、反対にぐちゃぐちゃのイメージ写真にした(^^)
デザインはNL Pureの方が洗練されていてカッコよく見える。スワロを覗いたのは短時間だが、手前の葉っぱにピントをあわせるのか、奥に合わせるのか、鮮烈なシャープネスを楽しみたくて頻繁にピントを触りたくなるのに対し、被写界深度がスワロ(x10)より広いのだろう、Leicaも十分なシャープネスを備えながらピント合わせに神経質な感じがない。
陽が落ちてくると俄然Noctividの本領発揮だ。とにかく視界が明るく、クルマや街頭の明かりが煌めいていて溜息モノだ。
良く見ると周辺像は流れているし、昼間の意地悪な状況下での周辺には少し偽色も見える。NL Pureやニコンでは文句の付け所が無かったので、やっぱり最新鋭と比べれば一世代前の感は否めない。この辺の性能を求める方は違う選択になるかもしれない。
ただライカの場合は、強烈3DのM型レンズSummiluxやNoctiluxなどの銘玉を生み続けた100年の歴史がある。周辺像に対する造詣は我々素人が考えるそれより遥かに深いはずで、立体感演出などのトレードオフの結果だろう。名前の通りNoctividはNoctiluxの3D思想が根底にある様に感じた。道具を楽しむという事は、作り手の哲学を味わうのと同義だ。
なるほど双眼鏡の場合は、周辺像の乱れが望遠鏡ほど気にならない理由は、手持ちで見たい方向に双眼鏡ごと自然に向けるので、わざわざ目線だけ向いてる方向とは違う四隅を見る意味が無いからだ。三脚固定した場合は、そうはいかないが。
ちなみにNoctividは三脚に設置するためのネジ穴は無いので、Berlebach(ベルレバッハ)Binoculars Supportを試してみた。手持ちだと8倍でもやっぱり落ち着かずに、視界の揺れがどうしても気になるが、三脚に固定すると双眼鏡は広角望遠鏡に変貌する。
ベルレバッハの底面にアルカスイスを装着し、ビデオ雲台にワンタッチで装着出来る様にした。自分の身長より三脚を高く伸ばし、立ったまま三脚を抱きかかえる様に覗くと思ったよりも天頂付近も不快感無く覗ける事が分かった。視野が静止していると、じっくり眺められ細かい部分が見えてきて楽しい。
皆既月食でも早速大活躍してくれた。近所のママ友やら通りすがりのカップルやら(^^)、知ってる人も知らない人も、20cmF7BINOが人だかりで見えなくなるくらい沢山の人に月食や惑星を楽しんで頂いた。普段、地域貢献の「ち」の字もお役に立てていないハズレモノな僕としては、細やかながら人様に喜んでもらえて嬉しかった。みんな帰った後、20cmF7BINOとライカNoctividのしっかりとお役目を果たした後の佇まいが、どこか誇らしげに見えた(^^)
ひとつ残念だったのは、Zeiss50BINOも持って行って倍率の大中小、3台体制で迎え撃つはずが、架台を忘れていってしまいZeissだけ全く見る事が出来なかった。月食を見るのに最高なBINOなのに!ゴメン!!
誰かが20cmF7にiPhoneを押し当てて撮ってくれた。もう天王星が潜ってしまった後。肉眼の視度にピントを合わせているため、写真にするとボケてしまう。
ちなみに月食はだいぶ面白かった。赤い月が新鮮で、地球が丸い影を落としているのが実に不思議だ。本当は地球は丸くない地球平面説「フラットアース」論が、全くの誤解である事は月食を双眼鏡で見れば一目瞭然だ。(^^) 木星、土星、火星も巡ったが、やっぱり土星の人気は圧倒的で観望者が変わる度に歓声が上がる。(^^)
興味本位でNoctividと手持ちのHinodeさんの5×20 A4 11.0°と比較してみた。これは、いつか偶然星祭りの様な会場に立ち寄った際に、下の娘がどうしても欲しいというので買い与えた双眼鏡だ。これは見た目よりもずっと良く見えて驚いたモノだった。
見比べてみると、流石にこれは比較にならなかった。あらゆる点でNoctividは別次元だったが、価格も別次元なので仕方がない。
このLeica双眼鏡はもっと注目されるべきだし、Noctividは星見に最高の双眼鏡と思っているが、僕もEMS双眼望遠鏡ユーザーだ。この双眼鏡のやる美しさを素直に堪能すると同時に、逆の意味で新たな発見もあった。
x8、見掛視界62°(実視界7.7°)は快適だし狭さは全然感じないが、双眼望遠鏡の見掛視界80〜100°アイピースに慣れきった眼には、特段広くも感じない。Noctividの3Dビューも、さらに鏡筒間が広い双眼望遠鏡の方がもっと強烈だし、小口径単焦点のフローライト鏡筒でEMS双眼望遠鏡を作成したら、同等の倍率であらゆる点で市販の高級双眼鏡を凌駕してしまうとも思った。
焦点距離540mmのZeiss50 BINOは倍率のフィールドがもう少し高く、僕の手持ちのアイピースで17〜64倍なのでx8と単純な比較は出来ないが、並べてみると面白い。どちらも恐ろしくシャープだが、長焦点アクロと特殊な高透過レンズとそれぞれシャープネスの質が違って個性がある。対象によってZeissが面白い場合もあるし、その逆もあってどちらも楽しいが、12枚ものレンズ構成のNoctividに対して、Zeissは対物2枚、マスヤマ32mmの場合は3枚、計5枚に、銀ミラー2回反射によるノン・プリズムの抜けの良さは流石だ。そもそも直視型より上空を覗きやすいし、倍率を自由に変えられる魅力は、計り知れないアドバンテージと言える。EMS双眼望遠鏡というのが、いかに贅沢で究極的なモノなのかを、改めて思い知った。
とは言え、海辺や町中にわざわざデカイ三脚を立てて、双眼望遠鏡を乗せて、アイピースも2個乗せて、光軸調整して、片目づつピントを合わせるか?と聞かれれば、ほとんどの場合Noだ。持って行かなければ持っていないのと同じで、双眼鏡の最大のメリットは兎にも角にも手軽さに尽きる。この手軽さで、双眼望遠鏡に近い映像美を我々の眼に届けてくれる事に意義がある。