長野県麦草峠より
天体は、たしなむ程度の趣味のつもりだったはずが一週間も夜空が曇るとムズムズしてくる(^^) とにかく喧騒から離れて宇宙を静かに鑑賞したい「宇宙病」が進行中。僕は生まれも育ちも東京新宿区だが、10年前にこの趣味を始めるまで天の川が実際どんなものか知らなかった。考えてみればTokyoこそ地球最大の都市なんだから無理も無い。天体は右脳を刺激する美の欲求と、知的好奇心に響く左脳的欲求の両方が強い常習性となって出現する。双眼望遠鏡を検討している方は十分注意が必要だ。(^^)
先日は長野の麦草峠、白駒池駐車場に一人で行ってきた。当初目指していた麦草峠公共駐車場は、すぐ近くまで高い木が迫っていて空の視界が狭い。駐車場自体も狭く、望遠鏡を広げるには迷惑かなと、ちょっと下った広い方に移動した。標高は2100mあるが、駐車場は道路に面しているし深夜まで車の往来も結構あって眩しい。みんな車で仮眠している様だしこちらも人様のご迷惑にならない様に遠慮しながらで、あまり落ち着かない感じだった。空も伊那の1800mの方がちょっとだけ良かったかもしれない。
立て続けに遠征し過ぎて(^^)、何を見ても「ふーん、まあこんなもんだよね」という感じで、長野の高山の見え方も最近では当たり前になってきてしまっていて、あまり収穫が無かった。現地のまばゆいばかりの星空の下に行くと、つい無意識に賑やかな方向に望遠鏡を向けてしまい、いつもと同じ見栄えの良い対象ばかりに目が行ってしまうが、それに少し飽きてきた。
この日はブーツを忘れてしまい、気温3°の環境下でまさかの葉山スタイル、ビーサン(笑)寒いとゆっくり楽しめない。夜半から雲が出てきて、しかもまたもやポータブル電源のトラブルで、残量は十分あるのにDCポートもUSBポートも給電されなくなり、レンズが真っ白に曇ってしまって止む無く2時ごろ撤収。いろいろ微妙だった。
修理を依頼したら、完売&部品調達不能という事で返金対応となった。これで2回目だ。半年で壊れてしまっては4000回以上充放電が出来るリン酸鉄リチウムイオンバッテリーの意味が無い。ポータブル電源はまだまだ黎明期という事だ。完成形が使い物にならないなら自作するしか無い。その話はまた次回。
星雲銀河を追いかけるなら、苦労して新月期に大荷物積んで往復7時間とか移動に費やす必要があるが、観望対象を少し変えると都市部近郊のベランダでも意外と楽しい事に最近気がついた。
国際宇宙ステーションを観る
スペースシャトル「アトランティス号」から撮影されたISS ©JAXA/NASA
国際宇宙ステーション(ISS)は晴れれば都内でも見れるはずだが、まあまあの倍率で生で見るには結構緻密な準備が要る。ISSの軌道はSkySafariで把握出来るが、ISSは自分では発光していないので、地上は夜でISSだけ太陽光を浴びているピンポイントの時間と場所を抑えないと観ることが出来ない。
https://lookup.kibo.space/observation/yokohama/
このサイトで日本から見える時刻と方位を確認出来る。
だいぶ昔にISSの太陽光パネルをはっきり見た記憶だけが残っているのだが、このサイトも知らなかったし、どうやって見たのか全く覚えていない。たまたま視界に入ってきた?
伊那のキャンプ場でリクエストがあった時には失敗したのだが、今回はうまく行った。通過予定ポイントで待ち構えていると、見落とすはずも無いほど圧倒的に明るいISSが100倍の視野の中に飛び込んできた。数十秒間手動で追いかけ、途中自分の姿勢を動かした所で見失い、再び導入出来た。追いかけるのが忙しく、NDフィルターが必要なほど眩しくてじっくり観察出来ない。太陽光パネルとラジエータ?と本体が連結されている様はバッチリ見える。でもそれ以上のさらに詳細な観察、例えば日本のきぼうモジュールがどの部分か?とかは難しかった。
次回はNDフィルター入りでもう一度チャレンジしてみるか。本当は200倍くらいで見れたらモジュールに張られた国旗まで見えるかな(無理か(^^))、150倍でも追尾はちょっと速すぎて難しいかもしれない。揺れまくってかえって見にくいだろう。20cmF7を乗せているTTS-160はISSの自動追尾は出来ないのかな?
紙の星図を見直す
今までSkySafariだけに頼っていたが、紙の星図もイイと思った。K-NebulaさんのDSO観望ガイドブックにはお世話になっているが、今回は本に折り目を付けなくても開きっぱなしで置いておける、耐水性のリング製本限定で探した。こういうモノは自分で整理してまとめるからこそ意味がある。自由にガンガン書き込むべきだし、書く事で記憶が定着する。
2015年に購入した「Sky & Telescope’s Pocket Sky Atlas」を無くしてしまって、いくら探しても見当たらない。仕方無く再度購入しようと思ったら、なんと今では廃盤になっていた。しかも程よく小さいモノが他に無いので中古にプレミア・プライスがついている。ほとんど眺める事もなかったが(^^)、確かに可愛い本だった。
ならば逆境は武器に変えねばならない。さらに見やすい紙の星図を探してみた。
散々物色して僕が選んだのはこれ。「野外星図 Field Star Atlas」は全部で8ページしか無く、全貌を把握しやすいし何より情報が程よく少ないのがイイ。我々眼視派にとって観る事が不可能な天体まで並列に網羅されるより、これは面白いよと優先順位を付けてもらう方が有り難い。耐水性とえんぴつ書き込みが両立していて、現場の赤ライト下では星座線が薄くなる配慮がされたりしていてニクい。大きな一枚紙だが、安いので破れたらまた買えばいいし、トイレに貼っても楽しいかも(^^) 現場で新聞紙の様に開くのは邪魔なので、ハサミで8分割してホチキスで止めて使う事にした。
二重星も網羅されているし、星座名が日本語表記なのが地味に有り難い。LEPと見ただけでうさぎ座!AUR=ぎょしゃ座!と英語略字で星座名が即答出来ない僕の様な素人には、学習の敷居が低い。実際の導入はどうせSkysafariに頼るので、描画されている星も6等星までとスッキリ見やすい。
ミラク・ゴースト(NGC404)やステファンの5つ子銀河は載っていないが、NGC7331は記載がある。メシエ天体全てと明るいNGC、IC天体は抑えていて実際ほとんどこれで十分だったりする。8ページ目の南天も、海外遠征して数日かけて制覇するのに適量に見える。
もう一歩進んで淡い対象を網羅した辞典としての星図を探そうとすると、また沖田さんが貴重な資料を公開して下さっていた。先人が歩んだ道を惜しみなく公開して下さっていて有り難い限りだ。
https://okita-tenmon.com/bibliography/starchart/starchart.html
そこで彼の緻密な検証で全ての条件を満たしている「interstellarum Deep Sky Atlas: Field Edition」を僕も購入してみた。高価だが少し真面目に勉強してみる気にもなるか。勿体なくて書き込めないかも(笑)イギリスから発送されている様でまだ届かない。
無料の素晴らしい星図PDFを公開して下さっているツワモノも居る。世の中には凄い人が居るものだ。最近Ver.2にアップデートした様で、無数の天体写真がリスト形式で網羅されていたりして、黒バックのフィールドエディションなども充実していて本当に凄い!100ページ以上ある星図に10等星までビッシリと描画され、眼視派には縁の無いPK目録、UGC、ICなど含めた無数のDSOのテキストで埋め尽くされている。
ただいきなりこれから入ると、天体の光度の強弱がつかめず、とんでもない情報量に圧倒され前に進めないかもしれない。ページ数が多過ぎてプリントしても行き来がシンドそうにも思える。メシエ天体などは探すまでも無いシリアス・オブザーバーでなければ、Ver.1がスッキリ色分けされていたりして見やすいと思う。微に入り細に入る前に全貌把握だ。
“TheSky” Deep-Sky Atlas – 1st Release (Ver.1 A4プリント用)
http://www.deepskywatch.com/deepsky-atlas-release1.html
Deep-Sky Hunter Star Atlas (Ver.2 A3プリント用)
http://www.deepskywatch.com/deep-sky-hunter-atlas.html
deepskywatch.comより
学習の準備も整い、賑やかなエリアも満たされてきたので、ようやく次はエリダヌス座とか、いるか座とかこうま座、や座とか普通の人は「は?なにそれ」というエリアをじっくり散策してみる気になってきた。
神奈川県の海辺に位置する我が家のベランダでは、僕の視力では3等星も見えないほど空は駄目だ。くじら座からエリダヌス座辺りまで肉眼では星なんか一つも見えず寂しい。Nikon Nav-12.5で112倍、射出瞳径1.8mmでも流石に深遠の銀河はいずれもショボいが、普段見落としていたNGC253がこんな空でも存在が確認出来たりして、かなり巨大な楕円銀河でびっくりした。今度長野でじっくり狙ってみたい。
NGC253。
とかげ座の散開星団NGC7243、7209なんかも都市部近郊でも十分美しく見応えがある。NGC7662(青い雪だるま星雲)なんかも光害地でも意外なほどよく見える。
二重星もわざわざ遠征先で積極的に見る気になれなかったが、Skysafariの検索窓の中にある「二重星ベスト・セレクション」が便利な事を発見した。片っ端から二重星巡りするのも、僕にとっては新鮮で先日の長野遠征より楽しかったりして(^^)。
ベランダの何がイイって、遠征だとせっかく来たのだからと、いつもどこかで焦ってしまうのだが、星図片手にじっくり腰を据えて落ち着いて見るにはベランダ最強説。全然寒く無いしここは何故か夜露がない。海風の影響か、或いはコンクリート壁の放射熱で鏡筒が露点温度まで達しないのだろう。Kaneさんの星空ガイドを聞きながら、M45プレアデス星団(すばる)の一つひとつの星をギリシャ神話の娘たちと照らし合わせて眺めるのもまた一興だ。
それにしても、ギリシャ神話のお話を聞けば聞くほど「全知全能」とは聞いて呆れるほどゼウスの程度が低い(^^)。ちょっと美しい女を見つけると手当たりしだいに騙したり、動物に姿を変えたりして、平気でどこか遠くの島まで誘拐したりしてほしいままにしてしまう。当然、行方不明になった相手の家族が悲しみにくれたりして、この老害の悪行のせいでみんなが滅茶苦茶迷惑してる。神という絶対権力を笠にやりたい放題だ。
ちょっとは相手の気持ちを考えろ!!と僕が神なら真っ先にこのエロ親父を叱り飛ばすが(^^)、神様がこの有様なら人間が清い行いなど出来るはずもない。戦いに勝ったゼウスの様な暴力の強い者が世界を支配するのでは無く、武田邦彦先生に神様を代行して頂いた方が、世界はよっぽど平和になるだろう。
Nikon NAV-12.5HWがあまりにも素晴らしく、パワーメイトx2 + Masuyama 26mmと比較すると星像の品質が2ランク違う事が分かった。ただ覗くだけで何を見てもアイピースのやる描写に感動してしまう。イーソス以来の久しぶりの100°視界も実に気持ちがいい。こんなもの見せられたら誰だって沼に引きずり込まれて、究極の星像を求めて、しまいにはタカハシTOA130辺りを双眼にする以外に選択肢が無くなってしまう。危ない!
泣く子も黙る?TOA130。見たことも無い様な収差特性で世界を圧倒する。安心の日本製だが15cm旧モデルの鏡筒を流用していて13cmとしては無駄に太くて重い。1本61万〜77万円。こんな大袈裟なフードも鏡筒も不要なので問い合わせてみたが、対物レンズ単体や分割式では販売してくれないそうだ。
まあ最高級品まで行かずとも、20cmF7 BINOの口径を13cmに絞るとF10.7となり、大変見事な高倍率像が得られる。こうなると、月や惑星が俄然楽しくなってくる。先日も熱烈なご希望で、近所のママ友ご一行様にも太陽系のいくつかをご覧頂き、喜んで下さった。
海王星の衛生トリトン(海王星最大の月)も見えた。口径20cmの分解能が0.58秒角、極限等級13.3等のはずなので実視等級13.7のトリトンは理屈上は20cmでは見えないと思うのだが、何度目をこすっても見える。しかも神奈川県で。いや、本当は位置関係から海王星2番目の月ネレイドが見えたと思ったのが、こちらは直径340kmしかなく、19.3等級なのでいくらなんでも見えるはずが無いのでトリトンだった事にしている。何かの間違いか?
半年前に20cmF7 BINOで確か494倍でシリウスBに挑戦した時は、青い炎の様な盛大な色収差で(^^)見える気がしなかった。13cmに口径を絞りNikon NAV-12.5+パワーメイトx2(224x)で再挑戦だ。口径を絞るとディフラクション・リングなる物が何層にも渡ってキレイに見える。みんなこんな細かいモノを精密に見ているのかと感心した。もう少し倍率が欲しいが付属のコンバーターEiC-H10を装着すると、バレル長が長すぎてパワーメイトを底突きしてしまうため使えないし、x4では倍率が高すぎる。それに接眼部が重すぎてEMSがモゲそうだ。5mmくらいの良いアイピースをまた探さなければならない。
リゲルの伴星は楽勝。肝心のシリウスは神奈川の海辺では、見えるべき位置を把握していれば気合いで微かに見える、というレベルだった(^^) Bは想像以上に小さく暗かった。半分心の目で見ているかもしれないので、よい空で再挑戦してみる。その流れで冬以来のオリオン大星雲と久々にご対面。今まで4つしか見た事がなかったトラペジウムを6個楽に見る事が出来た。ベランダ観望でもいろいろと収穫があって楽しい(^^)。
次の課題は、20cmF7で馬頭星雲を観る!
前回K-Nebulaさんに60cmで見せて頂いた網状星雲が凄すぎたので、OIIIフィルターを物色している。(それどころか、本当はドブソニアンもちょっと気になっているw)
星雲・銀河などの面光源の限界等級は口径とは全く関係が無く、空の明るさのみに依存する事がわかってきた。またいつもの如く我々の先入観を正反対に覆してくるやつだ(^^)。暗い対象を視認するためには背景と対象とのコントラスト比だけが問題で、口径90cmだろうが9cmだろうがコントラスト比は変わらない。見える空では両方見えるし、見えない場所はどちらも見えないという事らしい。
両者の違いは集光力ではなく分解能で、例えば黒から白への濃淡の表現が8ビット(256色)なのか16ビット65,536色を表現出来るのかの違いに似ている。Youtubeの画質で言えば240pで見るか、4Kや8Kハイレゾリューションで鑑賞出来るかに近いと思われる。
そのため対象が点光源の微光星の場合は、大口径はより小さい回折環を再現出来るために、より暗い恒星を描写する事が出来る。この事があたかも集光力が増すかのような口径差となって現れると僕は理解している。つまり球状星団の分解能に明瞭な違いが生じるという訳だ。この事は沖田さんやラムダさんが詳しく検証、解説されている。
https://okita-tenmon.com/discussion/limitmag.html
https://m-lambda.blogspot.com/2020/02/b-hr24toe33radian4xo5-25czj-4-o.html
実際、前回の福島遠征で60cmで見せて頂いたM74、M77等の銀河は20cmツインと見え方がほとんど変わらなかったのは、同じ空の下なのだから当然という事になるし、以前、僕の7cmフローライトBINOでM42を覗いたベテランの先輩が、「これスゲー!」と叫んで人だかりが出来た事がある。40cmドブの隣で。(笑)40cmと7cmの違いは分解能だけで実際対象の明るさは全く同じに見えていた事に、当時の僕は気が付かなかった。
昔愛用していたBorg 71FL BINO。見え味が素晴らしかった。
60cmで見たM17や網状星雲は20cmと大きな差があった訳だが、それは空と対象のコントラスト比を変えるOIIIフィルターに依るモノだったという事で理屈が通る。(その上で微細なガスの濃淡を詳細に観察出来る分解能が感動的な訳だけど)
僕もこの事は最近まで完全に誤解してきたが「集光力」というキャッチで望遠鏡の販売を続ける限り、この誤解の蔓延が溶ける事はないと思われる。
以前、乙女高原で40cmで馬頭を見せて頂いた時には、周囲のベテラン勢はみんな見える、と仰ったが正直、僕だけ何も見えなかった。真っ暗だった。だから僕は未だかつて自分の目で馬頭を見た事が無いし、40cmで見えないんだから20cmじゃ無理に決まってると勝手に諦めていた。しかし口径に依存しないとなると、巨大な大砲を用意せずとも10cmや20cmで馬頭星雲を十分狙える事を意味している!実際に9cmで馬頭を見たという報告もある。
僕の作戦は最大光量を確保するために(人間の瞳径を最大限に活かすために)その望遠鏡の最低倍率付近の適切な射出瞳になるアイピースを利用する。そしてそのままでは見えるはずも無い暗い対象なので、Hβフィルターを使ってコントラスト比を数十倍に上げる。しかも日本の空で限界に挑戦するなら、考え得る最高のHβの透過率を持つフィルターを使用しなければならない。やれる事は、あとは最高の空の元に行くだけだ。つまり限界の星雲の見える見えないを決定するのは、どんな口径に依らずフィルターこそが要となる。
Astronomik_H-beta
フィルター探し
見たい光の透過率は1%も無駄に出来ない。その前提だと選択肢はほとんど無い。僕が知る限り最大透過率96%以上をうたう、ドイツAstronomik社しか選べない事になるが、日本で買うと一枚3万円超えの高級フィルターだ。馬頭星雲用のHβとOIIIを双眼用に2枚づつ揃えると12万円。なかなかシンドイ。特にHβなどは馬頭を観る以外に使い道が無いのだ(^^) しかし馬頭こそ限界への挑戦だ。ケチって見えないのでは何の意味も無い。
同社から直輸入すれば2インチで€167.23(24000円)ほどで、送料等も含めても円安の今でも4枚となると差は小さくない。
https://www.astronomik.com/en/visual-filters/h-beta-filter-visuell/astronomik-h-beta-2-m48.html
厳密には反射式は2回のミラー反射時に光量損失が発生するし、並のドブではびっくりするほど欠損している可能性が高い。屈折も対物レンズ一枚ごとに数%づつ光を失う事になり、さらにEMSの2枚の銀ミラーも反射率100%では無い。アイピースを構成する全てのレンズでも同じ事が起きる訳で、微かな貴重な光をロスする要因は沢山ある。
フィルターの透過率だけにこだわるよりも、構成レンズ枚数の少ないアイピースを選択する方が最終的な光量が優位になる可能性も考えられるし、それ以上に暗い空の方が遥かに重要度は高いだろう。
そこでまた冒険心がムクムクと湧いてくる(^^) サイトロン社の写真用のDual Band PassフィルターのOIIIの透過率が、Astronomikに近い様に見えるではないか。網状をこれで眼視で観るとどうなるのか。
HαやSIIは、写真には活きるが眼視では見えないので関係ない(多分)。同社のQuad Band Pass FilterはOIIIとHβの両方を透過する仕様らしい。この図でははっきりと95%の透過率を示している。これ、AstronomikのOIIIの代わりに使えないかな・・・価格もそれぞれ2万円とそれなりにコスト削減にはなる。しかしこれで全然駄目だった場合、結局Astronomikまで全部揃える羽目になったら馬鹿丸出しだ。
僕はこの記事をここまで、サイトロンを試してみるつもりで書いていた。しかし!よく見ると、サイトロンのフィルター透過特性図には変な注釈が付いている。
「※上記透過特性は設計値によるものです。」
つまりこのグラフは単なる理想値であり、実際の測定値は非公開となっている事に気がついた。これって、ほとんど騙しじゃないか。もし本当に素晴らしい透過率を達成したのなら、そこを売り文句に堂々と書くはずで、つまりまともな数値が得られなかったので、この様なフェイク・グラフを公開しているのだろう。これは良くない。
Astronomikもどこまで正確なグラフなのかは不明だが、少なくともこんな不誠実な会社から買い物は出来ない。このアイディアは早くも却下。写真の人はこれでも露出時間を増やせば使えるだろうが、確かに眼視にも使えるとはどこにも書いてない。ここに限らず、望遠鏡業界は詐称や収差図改ざん等が常習化している。こんな事では業界全体が衰退するのも無理は無いが、神様がああなんだから仕方ないかw。
追記(2023.01.29)
時々勉強させて頂いている天文リフレクションズさんから、素敵なオファーを頂いた。このページに当ブログ記事を掲載して下さるそうだ。他に掲載されている皆様は松本さんを始め、ベテランの有名人ばかりで僕の様なド素人の悪あがきの記事が載って大丈夫かとても心配だが(笑)大変光栄です。ありがとうございます!
そして、上記の件で編集長の山口さんが僕とは違ったご見解を教えて下さったので、許可も頂けたのでここに紹介します。
“メーカーの立場としては、商品ページに個々の製品の実測値を記載
細かい話ですが、特に狭帯域の干渉フィルターでは個体差がそれな
なるほど、山口さんのご指摘もごもっともと納得。確かに上記の僕のモノ言いは驚いた勢いで、ちょっと攻撃的に過ぎたかもしれない。ゴメンナサイ。山口さん、率直なご指摘、誠にありがとうございます!
それならこれはどうだろう、サイトロンさんのグラフはAstronomikのそれと同等の透過率で表記されているので、実際に両者を眼視観望で比較してみるとか。ユーザーにとって本当の問題は、その差が公差の範囲内かどうか、実際どうなのかだ。コスパに優れたサイトロンフィルターがAstronomikと堂々と戦える事が確認出来れば、我々眼視ユーザーにも大変嬉しいニュースだ。もっと手厳しいかな、、(^^)。
僕はサイトロンさんに何の恨みも無いし、日本の天文業界の発展のために何か少しでもお役に立ちたいと願っている。そのためにはユーザーが忖度してしまっては逆効果だし、品質を白日の下に晒して、本当に良いモノを作らないと売れないという厳しい環境下でこそ、イノベーションが生まれると思っている。その環境作りは我々ユーザーの役目。
1922年に来日したアインシュタインは「私はいつもこの広い世界のどこかに、一ヶ所ぐらいはこのように尊い国がなくてはならないと考えてきた。我々人類に”日本”という国を作ってくれたことを、神に感謝する。」とまで言っている。
かつて日本の製品には、日本人の精神が宿っていた。モノ作りの世界で、品質で劣ってはダメでしょ?(^^)
(追記ここまで)
なんだか後味が悪くなってしまったので話題を変える。また大変なコストがかかってしまうし、特に双眼にこだわるなら考慮すべき問題点が多すぎて僕はドブソニアンに行く気はさらさら無かったのだが、これはカッコいい!!Made In ItalyのDoc Telescope社。社長と相談しながら一台一台オーダーメイドで注文するらしく、定価やスペックという概念が無い。まさしく洗練の極みだ。同社の35cmドブで撮影された木星像には度肝を抜かれた。
DOC Telescope社
http://www.doctelescope.com
大口径ドブソニアンにも興味が出てきたが、口径に依存しないとなれば馬頭への挑戦は、左右脳コンポジットによりドブソニアンより何よりも、屈折双眼望遠鏡こそ最も有利に展開する可能性すらあり得る。20cmF7 BINO製作者である松本さんも、このBINOで馬頭を観るのが夢だったと語っておられた。その夢を叶えるためにも散財するしか無い!奮闘はつづく、、、(^^)
追記(2022.10.18)
テレビューがBandmate Nebustar TypIIというOIIIとHβ両方を透過するフィルターを出していた。製造はAstronomik。バンド幅が多少広いのでアメリカではUHCフィルターとして公表している様で、OIII単体よりコントラスト効果は多少控えめだろう。日本代理店経由では税込み¥55,000と書いてあるが、米国ではどこも相場は$282の様だ。いつもB&Hは配送対応が早くて安心だ。
OIIIとHβが一枚で済むなら、暗闇でいちいちどっちかな?と探さずに済むし財布にも優しいし良いことずくめだが(^^)、ジズコさんのTyp Iの解説では、馬頭には使えないという記載がある。そうなの?10年保障ということで自信のほどが伺えるが、テレビューの単体のOIIIとHβは、モノ自体はAstronomikのOEMじゃないかな。こんな事ばっか遠慮なく書いてたら、そのうち業界からこのブログは干されるかも。(^^)
https://www.tvj.co.jp/10shop_televue/00124filter_b.html
本家サイト
https://televue.com/engine/TV3b_page.asp?id=24&Tab=_spec
UHCでいいならバーダープラネタリウム社UHC-Sネビュラーフィルターという選択肢もある。このフィルターが馬頭星雲にも多少効果がある報告もあった。僕もどこかの安物のUHCは持ってるが、多少の効果はあるが劇的ではないので、高級品と見比べてみるのも興味がある。
さてどうするか。OIIIとHβ、二兎追う者は一兎も得ず?
さらに追記(2022.10.20)
急遽、K-Nubulaさんと観望をご一緒させて頂いた。場所は新五合目。須走口は何度か行った事があったがここは初めて。神奈川からだと2時間の立地で、長野に比べれば圧倒的に気楽だ。標高2400mもあり天頂から北側の空はなかなか暗いのだが、南側の街明かりの光害が激しく、高度(仰角)30°くらいまでは真っ白だった。眼下に雲海が発生し街明かりを遮断すると最高らしいが、雲マップでそれを予測するのは難しい。北側は空は暗いが富士山があるのでもっと高い所まで見えない。
間違えてISO10万で撮影してしまった(^^)
新バッテリーが間に合わず20cmF7 BINOはお休みで、Zeiss50 BINOで参戦。60cmドブソニアンで観せて頂く気満々だ。(^^) ここは夜露が付かないらしく、夜半から風もすっかり止んで見やすい。時折クルマも上がってくるが、やがて駐車場は我々二人以外誰も居なくなった。
反射式に使われるパラコアの有無による見え方の違いを実演して下さったり、高価なフェザータッチ・フォーカサーですら、接眼部にちょっと荷重がかかるだけで思い切り光軸がズレてしまう様子をレーザーコリメートで示して下さったり(つまり、2インチ双眼装置+Nav-12.5 2本は実質不可能な事がよく分かった)、この日も実に様々な事を教わって猛烈に勉強になった。全部自分で経験していたら数年分の価値がある。心から感謝申し上げます!
上記NGC253もしっかり観る事が出来た。空が明るいエリアのため理想的では無かったが、銀河の中の複雑な暗黒帯まで観る事が出来た。前回リクエストさせて頂いたNGC7479は、この空ではやはり難物だ。中心付近は明るいが腕の視認がなかなか難しかった。そして今日の目玉はもちろん馬頭!
K-Nebulaさんのフィルター・コレクションが凄い。Hβだけで何種類もお持ちで、前回観せて頂いたOIIIもAstronomikだった。様々なアイピースやHβをトライして下さったが、ここの空ではやはりちょっと厳しいらしい。しばらく格闘したが結果的には僕の眼は確信には至らなかった。
僕が馬頭を見えない理由は、ドブソニアンの倒立像での見え方が全く想像がついていない事に依る。今、視野円は具体的にどの部分を見ていて、どの位置にあるのかが分からないのだ。だから、いつの間にか対象が明後日の方向に移動している事にさえ気づかない(笑)
えーと、アルニタクがここにあって、倒立像だから、、、燃える木は右上に見える???等ととても混乱したので、帰宅後、周辺の倒立像をシミュレーションしてみた。
多分、こういう事じゃないかな。近い雰囲気に写真を加工してみた。(^^) 燃える木すら視認が難しかったのは、空が明るいため?いやHβが入っているからかな。
アルニタクを視野から外して、馬頭そのものを探すのではなく、ぼんやりと広がるIC434をそらし眼で眺めていると、スコっと穴が抜けると教えて下さった。恐らく視野円は赤丸の感じだったと思う。となると馬頭の黒い穴はまあまあな大きさで観えるのかも。目印は黄色の四角と右側の恒星の列。馬が逆さまに見える事になる。よし、位置関係はバッチリ分かった。次回は20cmF7でリベンジ!
ちなみにM57リング星雲が青〜緑、淵が赤い色付きで見えた事がネット上で話題になっていたが、僕がその話をする前に「さっきM57色付きで見えましたよ〜」と当然の事の様に仰った(^^)。特に斜鏡も主鏡も銀ミラー仕様の彼のドブソニアン45cmで色が良く見えるらしい。M42も褐色に見えるそうだが、ここでの低空のM42ではちょっと厳しかった。
4時頃撤収する時には、マイナス4.5°だった。流石、標高2400m。もう冬だ。