秋の乗鞍より。FUJIFILM GFX100S, GF50mm f3.5 R LM WR ©2021 Saw Ichiro.
Leicaの世界ではM11一色だが、僕の頭の中は望遠鏡一色だ。(^^) 逗子・葉山青年会議所が、僕と20cmF7-BINOを取材して下さった。何かの本?だかに載せて下さるらしい。ありがとうございます!
今日は夜露によるクモリ対策と、鏡筒内気流を抑える優れた解決策をあるサイトから教わったのでご紹介してみる。
「常識とは、18までに身に着けた偏見のコレクションである」とアインシュタインが示す通り、僕は常識を全く当てにしていないし、一般的なイメージや先入観がいかに正反対の結果をもたらすか、本職の音の世界で何度も何度も経験してきた。だから非常識で異端な、つまり人と違う主張を持っている人にしか僕は強い興味が沸かないし、本当にそうなのか?と「当たり前」を疑える人にしか、現状を打破する様な偉業は成せないと思っている。
FUJIFILM GFX100S, GF50mm f3.5 R LM WR ©2021 Saw Ichiro.
初心者が最初に悩まされるのは夜露の問題で、ひどい時は一時間もするうちにレンズが曇ってしまう。観望が続けられなくなるため、USBヒーターなどの対策が必須だ。また日本列島の冬場は大気の気流の影響で像質が悪化する事も、当然の知識として語られてきた。この夜露と気流の対策に関して、通説とは違う事を実証している人を発見して、僕は大注目している。
電磁波(遠赤外線)からなる放射冷却により、鏡筒やレンズが周囲の大気温度よりも低くなってしまう事が鏡筒内気流や夜露の根本原因で(冷えたモノに湿った空気が触れると結露するのは、冷えたビール缶が汗をかくのと同じ原理)大気よりもむしろ望遠鏡の冷却が筒内で強烈なエネルギーとなって像質を悪化させているというのだ。物質に熱が残っているからではなく、冷え過ぎた時に悪さをするとは、またもや我々のイメージを正反対に覆すいつものパターンだ。
対策に必要な費用は数百円。温度順応を促進させつつ、鏡筒の放射冷却を抑制するために薄い避難用保温シートを望遠鏡に巻くだけと言われる。(断熱のためでは無い)早速試してみない手は無い。
夜露の付きやすさは「プラスチック ≧ 塗装された金属 > アルマイト >> 金属表面」という事で、確かに先日の-7°の山梨遠征でも夜露で白く凍りついているのは、よく見ると金属以外の部分だった。さらに興味深いのは材質では無く、表面が大事という事だ。金属でも塗装がされていると、材質は金属でも放射率は塗料のものになると言う。樹脂塗料は非常に放射率が高いのだ。
メーカーの屈折鏡筒は大抵、美しいパールホワイトに塗装されているが、こんな話はメーカーも誰も知らないのだろう。これが事実なら鏡筒は放射率の低い=反射率の高い、ピカピカのアルミ鏡筒むき出しが理想的という事になる。
氷が夜露を見事に視覚化してくれていた。フォーカサー周辺はアルマイト済みのアルミ丸出しのため、夜露の被害が見られない。遠赤外線を放出している人間が近くに居る影響もあるかもしれない。対物レンズが収まっている寸胴鍋も材質はアルミだが、近くでレンズ・ヒーターが効いているにも関わらず夜露が付着しているのは、表面に貼ってあったカーボン調のシールにより放射率が高まったという理屈で筋が通る。真っ白になってしまった鏡筒は、軽量化のために塩ビの筒全面にやはりシールが貼られていたものだ。
という訳で、放射冷却のメカニズムは僕は全く知見が無いのでとりあえず光路全てにざっくり貼ってみた。テキトーに切って、両面テープで前後端を止めただけ。順応が済んでから貼るなんていう面倒な事は僕には無理。張りっぱなし。
金・銀の2面が色が違うのを選んで、外側を金色にしたのはもちろん特に理由は無い(笑)。金も銀も大した違いは無いだろうと考えた。先入観が反対の結果を招くと書いたばかりだけど。(^^)
昨年クリスマスに打ち上げられ、先日鏡の展開作業が完了したジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡っぽいカッコ良さを期待していたのだが、ちょっと馬鹿っぽいか(^^)。黒鏡筒より反射して恥ずかしいほどに目立つので、暗闇で後から来たクルマに跳ねられるリスクは減りそうだ。とりあえずこの対策をジェイムズ・ウェッブ仕様と呼ぶ事にした。
鏡筒の片方が半分なのは、完全遮光+鏡筒内への空気の侵入を抑えるフル鏡筒とシースルーのハーフ鏡筒とで、屈折式でどういう違いがあるかの実験も兼ねている。いっぺんにいろんな事を試しているので、どれがどういう効果があったのか分かりにくい(笑)。
ジェイムズ・ウェッブは口径6.5mのカセグレン式、重量6,200kgだそうだ。こんなモノをロケットに積んで打ち上げてしまうのだから、話のスケールが違う。ちなみにこれらの写真はHASSELBLAD H5D、H6Dで撮られているらしい。
結露実験も兼ねていたので、レンズもアイピースもヒーター無しでテスト観望に臨んだ。結構雲が多いし、今夜か明日には関東地方にも雪が降る予報という事で空は全然ダメ。1時間ほど放置してから諦めモードで念の為、月に向けてみた。ところが!44倍、107倍、215倍で月面を見てビックリ。多分過去最高にクリアな見え方に驚愕。アペニン山脈が恐ろしいほどの鮮烈な解像感でそびえ立っている。金シート巻いただけなのに、ウソでしょ??
こんな見え方は過去のどの鏡筒でも覚えがない。「大口径はシーイングの影響を受けやすく、滅多に口径なりの能力は発揮できない」という事になっていたはずだが、何それ?という感じ(^^)。屈折式でこれだけ違うのだ。光路を2回も3回も往復する反射式はさらに劇的な効果をもたらすだろう。(屈折と反射の違いに関してもLambdaさんが明快な解答を示して下さっていて、目からウロコが落ちまくり。これは価値ある資料だ。)
ちなみにフル鏡筒、ハーフ鏡筒共に前回経験したクモリ問題は発生しなかった。もしかして、ジェイムズ・ウェッブ仕様ならヒーター不要?というかヒーターの熱がかえって鏡筒内の気流を乱している??左右の見え方は、相変わらず僕の目には違いを見い出せない。ハーフ鏡筒でもEMSが曇っている様子も無い。
ただこの20cmF7−BINOは、寸胴鍋(対物レンズ)をクルクルネジに回して装着することで左右の平行度を担保しているのだが、ペナペナの金シートを巻いていると手がすべったり、シートごと剥がれたりしてレンズを落っことす危うさを感じた。幸いこの部分は元々アルミなのでカーボン調のシールは剥がして、アルマイト地むき出しで行く事にした。表層のアルマイトも剥離出来たら完璧だ。
こうなったら、貴方もお手元の全ての望遠鏡をホイル巻きにするか、今すぐ表面塗装を剥がしてピカピカに磨いた方がいい!(^^) これ、アイピースにもやった方がいいんじゃないか?EMSが銀ミラーに置換されて以来のパラダイム・シフトだ。
とにかく、素晴らしい研究結果をシェアして下さったLambdaさんに心から感謝!
もう今月の新月期のチャンスはほぼ終了。月なら葉山の自宅のベランダでもよく見えるが、深宇宙は可能な限り暗い空を求めて遠征しなければならない。月が沈むまではディープ・ギャラクシーは拝めないので(月の光が明るすぎて、星を消してしまう)次の新月までお預けだ。
遠征先の雲の状況を事前に把握するために、僕はこのサイトを愛用している。天気予報から一歩踏み込んで、雲の発生状況の予想を視覚的に確認出来て便利だ。週末に仕事があるので平日日帰りの最後のチャンスを狙っていたが、これにより今週の遠征は諦めざるを得なかった。
天文屋御用達、GPV気象予報。
Light Pollution Mapサイトは世界の光害の深刻度が確認出来る。このマップの暗い部分が星の観望に適しているが、もちろん僕の住む関東近県は絶望的だ。仮に、光害の深刻度はその地域の人口に比例すると仮定し、少し検証してみた。
ウィキによればトップ11位までが100万人オーバーで、いかにしてここから遠くに離れるかが最重要だ。
順
位 |
都道
府県 |
市(区) | 法定人口
(人) |
0 | 東京都 | 特別区部 | 9,733,276 |
1 | 神奈川県 | 横浜市 | 3,777,491 |
2 | 大阪府 | 大阪市 | 2,752,412 |
3 | 愛知県 | 名古屋市 | 2,332,176 |
4 | 北海道 | 札幌市 | 1,973,395 |
5 | 福岡県 | 福岡市 | 1,612,392 |
6 | 神奈川県 | 川崎市 | 1,538,262 |
7 | 兵庫県 | 神戸市 | 1,525,152 |
8 | 京都府 | 京都市 | 1,463,723 |
9 | 埼玉県 | さいたま市 | 1,324,025 |
10 | 広島県 | 広島市 | 1,200,754 |
11 | 宮城県 | 仙台市 | 1,096,704 |
12 | 千葉県 | 千葉市 | 974,951 |
僕が住む神奈川県から遠征に向かう先で、よく行きそうな辺りの人口を調べてみた。
15位の静岡県浜松市790,718人、20位の静岡県静岡市693,389人が凄い。なんと21位の千葉県船橋市、22位の埼玉県川口市よりも人口が多いのは意外だった。91位の静岡県富士市245,392人も96位の松本市を上回るし、122位の沼津市189,386人も甲府並で、194位の富士宮市128,105人と続き、富士山周辺は理想的とは言い難い。
ちなみに伊豆半島は395位の伊東市が65,491人、533位の伊豆の国市46,804人、630位の熱海市34,208人、696位の伊豆市28,190人、761位の下田市20,183人と驚くほど人口が少ない事が分かった。
長野県の人口上位は全国53位の長野市372,760人がトップ、ついで96位松本市241,145人、153位が上田市154,055人、266位の佐久市98,199人、267位の飯田市98,164と続く。でも飯田市近郊のスポットは星は相当美しいので、10万人を切る街は単体ではそれほど気にしなくてもいいのかもしれない。388位の塩尻市67,241人、393位の伊那市66,125人、457位の茅野市56,400人、513位の諏訪市48,729人という感じだった。
山梨県のトップは121位の甲府市189,591人がダントツで、あとは347位の甲斐市75,313人、378位の南アルプス市69,459人、391位の笛吹市66,947人、535位の富士吉田市46,530人、557位の北杜市44,053人となり、あとは全て600位以降だった。事実上、問題は甲府市だけと言っていいが、それより東京や神奈川から近い事の方が影響が大きいのは伊豆半島も同じ。
やはり関東から本気で暗い空を求めるなら、上記Map通り松本〜飯田の中央道沿線がベストポジションか?標高も高いし。東北方面は神奈川からは東京縦断にかえって時間がかかるので僕は遠征先に選んだ事が無い。
FUJIFILM GFX100S, GF50mm f3.5 R LM WR ©2021 Saw Ichiro.
(2022年2月14日追記)
大変恐縮ながらLambdaさんを質問攻めにさせて頂き(^^)、ご親切に様々な面白い事を教えて下さった。ああ、化学って素晴らしい。Lambdaさんって素晴らしい!ありがとうございます!
この一覧はあくまで相対的な比較という事で参考程度に考えるべきだが、アルミむき出しと比較して、アルマイト(強度に酸化)は10倍、樹脂塗装は50倍近く!放射冷却が進行する。つまり夜露がつきやすく、筒内気流を乱して像質を悪化させる元凶という訳だ。塗装はこの表によれば黒も白もカラーによる違いはほとんど無く、どうやら艶消しである事の方が放射率が高まる。(夜露が付きやすい)アルミも鏡面磨きすると酸化して素地の3〜5倍放射率が高くなってしまう。
ちなみに銀ミラー(メッキ)はアルミ素地の2〜3倍程度で許容範囲としても、問題はレンズ(ガラス)の放射率が40倍もある事だ。どうりでレンズがクモる訳だ。
これまではレンズ・ヒーターを当然の様につけっぱなしで運用してきた訳だが、夜露は消えるがヒーターによる陽炎が像質に悪影響を与える事も十分考えられる。今回の実験ではヒーター無しでのテストだったため、ヒーターの害悪からも同時に逃れられていた可能性も否定出来ない。純粋な金ピカ仕様だけで屈折でどれくらい違いが出るか、他の方の報告も待ちたい。
Lambdaさんは放射率を逆利用して、屈折レンズの夜露を防止する物凄いメカニズムも考案されていたりして、あの方の科学的知見と応用力にはまさに脱帽!それはフード周りに大規模な改造が必要だが、そこまでは出来なくても水分は軽く湿気が抜けた空気は重たいため下に落ちる性質を利用して、敢えて放射率の高いフードで夜露をたっぷりしみこませてフードを天然除湿器として利用し、レンズ表層には乾いた空気を溜めるヒーター・レス作戦が現実的か、現在しつこくLambdaさんに質問している(^^) (その代わりレンズ直前の陽炎はフード冷却により悪化方向に進むと思われるが、どのみちレンズ自身の放射によりレンズ前の陽炎が避けられないのならば、ここは除湿を優先するアイディアだ。)
鏡筒のアルマイトを外側だけヤスリで手で削れるのか、実験も兼ねてZeiss 50/580 BINOで試してみた。外見だけの理由で結局半鏡面にしたが、あまりにも大変過ぎてもうやりたくない(^^)。電動ドリルを鏡筒にねじ込んで鏡筒の方を回転させながら研磨した。この作戦が無かったら無理だった。この美しい対物ユニットを初めて見た時から、放射率はともかく絶対シルバー鏡筒にしようと企んでいたが、まだ磨きが甘いもののメチャクチャカッコいい。♡
最初に60番でガリガリ削り落としてやると黒は取れるが、これだけ長いともう手がヘロヘロだ。今後は外側だけ薬品で剥離する作戦を考える事にする。
ご無理を言って、20cmに装着されているEMS-UXLを塗装なしのアルミダイカストのハウジングに置換する事も松本さんに相談中。なんだかおもしろ過ぎて他の仕事が手に付かない(笑)。