Leica CL, Summilux f1.4/50mm 1st (ƒ/1.4, 1/60, ISO 125) ©2020 Saw Ichiro.
日本国内ではいつまで待っても、どこにもちっとも入荷されないハッセルのニューレンズ45Pが、NYに頼んだらあっけなく届いた話。まだ使い始めたばかりで日が浅いが、少しレビューを書いてみる。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/4, 1/90, ISO 200) ©2020 Saw Ichiro.
ほぼ無加工Raw撮って出し。
近所を少し歩いたファーストショットで、そのクリアで鮮烈な描写に、久しぶりにちょっと感動させられた。開放f4.0と控えめな設定と引き換えに、世界最軽量の中判レンズの称号を手に入れた訳だが、こいつのアドバンテージはどうやらサイズとプライスだけでは無いらしい。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/4, 1/125, ISO 400) ©2020 Saw Ichiro.
僕がオーダーしたのはB&Hという、英語圏では超メジャーな会社だ。9月15日にオーダーして、予告通り26日に配送済みメールが届き、僕の手元に届いたのは10月1日なので、所要時間は約2週間。価格はどこも一律$1099、現在1ドル105円換算で約115000円と、現行ハッセルレンズとしては破格の戦略的プライスだ。
下のロゴに45Pのダイレクトリンクを貼っておくので、ご興味あれば。ちなみに送料は28ドル、Tax89ドル、合計1217ドルで、マップカメラで買うよりちょっとだけ安い事になる(^^)。
Leica CL, Summilux f1.4/50mm 1st (ƒ/1.4, 1/60, ISO 100) ©2020 Saw Ichiro.
左がXCD90、右がXCD45P。このサイズ差はイカンともし難い。これだけコンパクトになるとライカM型と本当に変わらなくなってくるし、重さだけで無く威圧感もだいぶ気楽だ。X1DIIの稼働率が上がるのは間違いない。
ちなみにLeica Mシステムと重量を比較してみると、
Leica M9 (585g)+ Summicron50(240g)= 825g
Leica M Typ240(680g)+ Summilux 50 f1.4 ASPH.(335g)= 1,015g
Hasselblad X1DII(766g)+ XCD45P f4.0(320g)= 1,086g
こう並べてみるとだいたいイメージしやすいだろうか。わからんか(^^)
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/4, 1/90, ISO 400) ©2020 Saw Ichiro.
換算35mm画角となる中判45mmは日常で使いやすい事もあり、X1Dの多くのユーザーは最初にXCD 3,5/45を手に入れる。ところが後発の45Pはさらに軽量化、画質向上、そして安くなったという。静音処理が施され、シャッター音やAFの動作音も静かになった。
特にシャッター音はほとんど無音で、設定が電子シャッターになっている?と何度か疑った(^^)。僕の記憶に残ってるM10Pより無音に近く、相手からしたらレリーズにかける指を凝視していないと、いつシャッターを切ったか全く分からない。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/4, 1/1600, ISO 100) ©2020 Saw Ichiro.
描写の美しさとしては、3.5/45も最初から素晴らしかったので、解像度がちょっと上がったとか上がらないとか、あまり関係無い気もする。比較した事は無いので正確な事は分からない。でも気のせいかもしれないが、何が違うとも言い表しにくいのだがXCD90よりも絵が凄い気がしないでもない。いや、気のせいかもしれないが(^^)、感覚的になんか驚きが大きい気もする。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/4, 1/80, ISO 800) ©2020 Saw Ichiro.
45Pの最短撮影距離は35cmと、相当寄れるのも有り難い。XCD90は70cmとライカMレンズと同等、XCD3.5/45は40cm。ちなみにXCDシリーズで一番寄れるのはXCD21の32cmで、物理的にはXCD120マクロ(43cm)よりも寄れる。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/4.0, 1/640, ISO 100) ©2020 Saw Ichiro.
ここまで縮小してしまうと伝わりにくいかもしれないが、なんでもない写真もデカいエンジンのトルク感の様な、情報量の余裕みたいなものを感じる。Leica CLと二台持って散歩したのだが、中判の恩恵は確かに何かある。
先輩の言葉を借りれば、写真は潔い割り切り、ほどほど感が大切で、だからこそ楽しいCLとは対局にあるX1Dは、DxOMarkのベンチマーク・レコードを記録する様なカメラだ。ちょっとした絵でもやはり実力差は認めざるを得ない。
APS-Cとデジタル中判では、このセンサーサイズ差だ。まともに比較しては可愛そうだ。革ケースも含めるとボディ全体では言うほど大きさの違いが無いとも言えそうだ。(左:Leica CL、右:ハッセルX1DII)
ハッセルのRawはコントラストが浅めに記録される。動画をやる人なら、Log撮影ほどでは無いがそれに近いイメージだ。テキトーに撮っても白飛び、黒潰れしにくく後からいじれる自由度が高いため、Rawの用途として理にかなっている。
ここに載せたX1DIIの作例の多くは、コントラストが10〜50(PhocusのMax)に上げている。それくらいでだいたいLeicaのデフォルトのコントラストと似た感じになるイメージだ。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/4, 1/90, ISO 100) ©2020 Saw Ichiro.
ちょっと露出を現像時に上げてみたが、白が真っ白に撮れるのがなんだか妙に清々しい。当たり前の様だが、それって意外と難しい事なのだ。Leicaでは良くも悪くも着色や陰りが写り、それはそれで味があってそっちを強調したくなる。対してハッセルはクリアさを見たくて、それ以上何も変えたくない心境になる。
BodyのAutoホワイトバランスがそもそも素晴らしいし、ハッセル専用の現像アプリ「Phocus」のカラープロファイルや発色再現性が見事だ。Lightroomの方が便利だし操作性も良いが、X1Dの現像にPhocusを使わないのはもったいない気もする。ただし、Phocusはjpg書き出し時に若干コントラスト低下が見られるため、これで良いと思った所からプラス5くらいコントラストを高く書き出す必要がある。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/8.0, 1/100, ISO 400) ©2020 Saw Ichiro.
まだ検証が必要だが、XCD45Pは逆光にメチャ強いかもしれない。XCD90は日光の直射を受けるとコントラストが劇的に落ちて真っ白になってしまうのだが、45Pでは元々フードすら付いていないのが、逆光で破綻した様なショットが今のところ一枚も無い。必要無いから付いていないのだろう。
ただ僕の場合、レンズキャップを付けたり取ったりするのが嫌いで、しかも保護フィルターも付けたくない。なので裸でバッグに放り込んでも直接バッグとレンズが当たらない様、社外フードを試してみた。
Leica CL, Carl Zeiss Frektogon 35mm f2.4 (ƒ/2.4, 1/60, ISO 2000) ©2020 Saw Ichiro.
オフィシャルで推奨されてる訳ではないが複数の選択肢があって、海外で言われていたのはこれ。FUJIFILM XF23mmF1.4R用レンズフードをちょっと工夫して使えるというやつ。
下も同じ使い方で少し安価だ。実際試した先輩のご報告によれば、
僕の場合は人柱として(^^)、もう一つ別の選択肢を試してみた。所有しているXCD90が67mm径で、62mmの45Pと径が微妙に異なりフィルターの共有が出来ずに不便だ。そのため62mm-67mmのステップアップリングを挟んで、67mmの似た形のフードにしてみた。この組み合わせが上の装着写真だ。
こちらはバヨネットではなくネジ込み式なので、特段の工夫は必要無い。回転式の受けリングが最初からフード側に付いていて、四角いフードをまっすぐに調整して固定出来る仕組みだ。
ちょっと冒険だったが67mm径にフードを装着してもレンズ外径をはみ出す事は無く、まるで純正の様に違和感無くカッコいい。材質も金属製で高級感もあり、開放から全閉、最短と無限とどの状態でもケラれずに使用出来た。これでTiffenのBlack Pro-Mistフィルターや、偏向フィルターがXCD90と共用出来る。
ちなみに偏向フィルターだけは、良いモノを使った方がいいというのが持論。ただし、偏向フィルターを回転させると当然フードも一緒に回って、フードが縦になったりする(笑)それでもケラれない様で、珍しく一発でうまく行った(^^)。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/4, 1/1000, ISO 100) ©2020 Saw Ichiro.
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/4, 1/2000, ISO 100) ©2020 Saw Ichiro.
PCの現像作業が面倒な方は、jpg撮って出しで全然OKな絵が手に入る。Rawの方がちょっとだけ感動が大きい気もするが、ほどよくコントラストと周辺減光を加えた絵が出てきて、とても自然で絶妙なセッティングがなされている。ちなみに上の写真はRawから少しいじったモノ。このページのほとんどの写真はフィルターを使用していない。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/4, 1/2000, ISO 100) ©2020 Saw Ichiro.
なんとなく出てくる絵がキレイなので、とにかく後から何かする気が起きない。その意味ではあんまりクリエイティブに尖った作品を作りにくいカメラと言えなくも無いが、最初だけか(^^)。撮影者本人がカメラから出てくる絵に喜んでるうちは、まだテスト撮影段階だ。
今の所の個人的な結論は、XCD45Pは今まで使った事のある35mm画角レンズの中で、一番驚いたかもしれない。中判なのでズルいけどね(^^)。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/4, 1/400, ISO 100) ©2020 Saw Ichiro.
描写は最高だがトラブルもあった。新しいファームウェアあるという事で早速アップデートを試みて、まさかの失敗エラー。その後レンズを全く認識しなくなり、撮影どころか再度アップデートを試す事も出来なくなり、まだ2回しか撮ってないのに完全にお手上げとなった。
本国スウェーデンに問い合わせた所、このトラブルは各所で起きている様で、すみませんが買った所に送れと言う。まさかの国際郵便の往復!NYに送ってさらにスウェーデン行きか?、、、と最悪の事態を覚悟したが、原宿のハッセルブラッド・ジャパンさんがいろいろと神対応をして下さった。ハッセルさん、今までさんざん悪口書いてゴメンナサイ(^^)。現地に行ってみたら全然ちゃんとしていたし、とても感じの良い方だった。以前の電話は誰だったのだろう。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/4.0, 1/1600, ISO 100) ©2020 Saw Ichiro.
とにかく45Pのファームウェア・アップデートはご法度だ。貴方になんの落ち度が無くとも、レンズ内の基盤交換コースになる可能性がある。恐らくこれで世界中で不具合が多発して、流通が遅れに遅れてるのだろう。ちなみに他のXCDレンズでその様な事は無いらしい。
(以下、XCD90の写真もいくつか含まれている。)
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 3,2/90 (ƒ/3.2, 1/80, ISO 200) ©2020 Saw Ichiro.
ついでに一番気になっていたXCD65も触らせて頂いた。AFの静粛性に関しては45Pと同じく後発組のXCD65にも共通していて、設計が古いXCD90と比較するとモノ凄くスムーズに感じて羨ましくなる(^^)。並べてしまうとXCD90はギーコギーコと騒々しく、国産カメラの数十年前のAFの感じだ。
ただAFスピード自体は新設計シリーズもそれほど変わっていないらしい。
Leica CL, Summilux f1.4/50mm 1st (ƒ/1.4, 1/60, ISO 500) ©2020 Saw Ichiro.
左:XCD65(727g)と右:XCD90(619g)のサイズ比較。重さはf2.8の65mmが100gほど重くなるが、レンズ本体もフードも短くなるのでちょっとだけコンパクトだ。持った感じ、どちらも重いしデカイので、体感的にはそれほど大きな差は感じなかった。
描写も室内で数枚試写してみたが画角以外、両者違いが見いだせなかった。逆光耐性とかもしかしたら使い込めば違いがあるかもしれない。
今になって思う事は、X1DIIの一本目のレンズは、100g差なら90mmより65mmを選択するのはありだったかなと思ったりもしている。X1DIIは高感度耐性は強いが、f2.8はやはり魅力的だし、最短50cmも地味に嬉しい。まあ45mmと併用するなら俄然、90mmの意義が大きくなるが、f2.8の65mmと、f3.2の90mmでポートレートの背景の分離の感じなど、いつかじっくり比較テストしてみたい。
Leica CL, Summilux f1.4/50mm 1st (ƒ/1.4, 1/60, ISO 320) ©2020 Saw Ichiro.
そうそう、同じく入手困難が続いているCFV II 50Cデジタルバック+907X(以下、907x)も触らせて頂いた。こじんまりとしたBodyがやはり魅力的で、なんと言ってもウェエストレベル撮影がとても新鮮で興味深い。個人的にはなんとかしてこれを買わない理由を探そうと頑張っているがw、丁度いいちょっと気になる理由をいくつか発見した。
個人的にX1DIIにはあって907Xに無い一番重要なモノ、それはレリーズ半オシ以外のAFボタンだ。これがあるお陰で、X1DIIでは基本はMFモードにしておいて、オートフォーカスが必要な時だけAFボタンを押して作動させる事が出来る。被写体との距離が変わらなければ、最初の一枚AFがFixしたら、後はシーンが変わるまでフォーカス無しで撮り続けられる。
この方法はAFが完全にFixするのを待つこと無くレリーズが切れるので、レンズが迷いまくっていちいち撮影テンポを阻害されるストレスが無い。これは実はSの時から実感する神ボタンなのだが、907Xにはそれが存在しない。割当も不可能だそうだ。
この問題は個人的には小さくない。専用の別売ハンドグリップを取り付ければ可能らしいが、それではかえってシステムがデカくて大袈裟になる。
Leica CL, Summilux f1.4/50mm 1st (ƒ/1.4, 1/60, ISO 320) ©2020 Saw Ichiro.
もうひとつは、現在使用していて有り難さを実感している、広大な背面液晶が907xは一回り小さくなってしまう。まあこちらはそれほど重要な事では無いが、EVFと並んでX1DIIの明確なアドバンテージと言っていい。
縦構図の撮影も構造上、ウェストレベル撮影は不可能で、目の前に持ち上げてスマホ・スタイルで撮る事になる。これも昼間なら問題にならないが、室内や夕暮れ時、なんとかしてシャッタースピードを稼ぎたい場面では、5000万画素の中判デジタルでは手ブレの問題を無視できない。
特殊な構え方でX1DIIなら1/15sでも手持ちでなんとかなるが、907Xではそうは行かない。普通の構え方でも90mmともなれば1/125sでも手ブレを防げない事もあるのに、顔から離して持ち上げた状態で、どこまで耐えられるか。いや、もしかしたらこの構え方で907xも縦も横も完璧に対応出来るかも。
Leica CL, Summilux f1.4/50mm 1st (ƒ/1.4, 1/60, ISO 320) ©2020 Saw Ichiro.
XCD90(左)とXCD45 f3.5(右)。
実機を触ってみて、細かい所がいろいろ分かってきた。各種問題はいずれも工夫すれば乗り切れると思うが、周囲にユーザーも情報も非常に限定的なだけに、自力で解決していく覚悟が必要だろう。棲み分けとしては、ポートレートのX1DII、風景やストリートは907xといった所だろうか。なんと言ってもフィルムのハッセル500シリーズの資産が電子シャッターに頼らず完璧に運用出来るのは、907xの代えがたいアドバンテージだ。
今のところ僕はX1DIIが自分のスタイルに合っていると思われるが、907xもMFで使えば何も問題無いし、他に類の無いウェストレベル・スタイルはその人の個性になり得ると思う。それに、907Xは可愛い(^^)。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 3,2/90 (ƒ/3.2, 1/80, ISO 1600) ©2020 Saw Ichiro.
原宿までドライブしたついでに、友人と少し撮り歩いて遊んだ。X1DIIでイチローを撮ってくれていた。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/8, 1/80, ISO 3200) ©2020 Saw Ichiro.
45mmレンズならストリートスナップにも普通に使えるのか試してみたいと思っていた。シャッターが無音なので、ノーファインダーで遠慮なく押しまくってみた(^^)
いつものf8.0固定、Auto ISO作戦で行けそうだが、考えてみればLeica Mレンズの様に距離計のプリントがある訳では無いので、フォーカスを5mに合わせて固定したり、何mに合わせておけば無限遠までフォーカスエリアに入るとかを事前に確認する事が出来ない。目見当で適当にその辺にピントを合わせて、トライ&エラーでやってみる事になる。
それからSSが1/60だとちょっと遅過ぎて歩きながらではブレるのは当然だ。出来れば1/250くらいにしたいのだが、この暗さだと既にISO3200のため、何かをトレードオフしなければならない。そもそも僕はストリートはあまりやらないが、引き続きいろいろ実験的にトライしてみたい。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/8, 1/90, ISO 3200) ©2020 Saw Ichiro.
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P (ƒ/8, 1/125, ISO 12800) ©2020 Saw Ichiro.
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 3,2/90 (ƒ/16, 3s, ISO 100) ©2020 Saw Ichiro.
なんとこのブログも、気がつけば記事が100を超えていた。よく飽きずに書いていると自分でも感心した(笑)いつも読んで下さる皆様には、心より感謝申し上げます。
何の意味があってこれを続けているのか分からないが多分、やっぱり誰かの背中を押したいのかな。ライカもハッセルも確かに高いし、我々一般市民からすればこんな贅沢は正気の沙汰では無い。でもこんな時代だからこそ、苦しい時ほど本気で遊ぶ事が大切と、自分に言い聞かせている(^^)。
We don’t stop playing because we grow old, we grow old because we stop playing.
年をとったから遊ばなくなるのではない。遊ばなくなるから年をとるのだ。
by Bernard Shaw