Leica M10 + Leica Summilux-M 1:1.4/50 ASPH. (ƒ/2.0, 1/90, ISO 100) ©2018 Saw Ichiro.
クラシック・ライカの速射性は以前、アンリ・カルティエ・ブレッソンの「晴れた日はシャッタースピード1/125s、絞りf8、距離は10feet(5m)に固定」していた逸話から考察してみたが、露出計が内蔵されている現代のデジタル・ライカで、最も合理的な方法とは何かを考えてみた。
ブレッソンがf8、1/125sとしたのは、f8ありきで1/125sが決まったと僕は考えている。マニュアル露出は絞りで行う方が速いため、SSダイヤルは1/125s固定。f8は彼のエルマー5cm f3.5の絞りのちょうど中間地点であり、f8で待機していれば絞りだけで明暗二段づつのマージンが取れるからだ。
f4〜f16をどれか選べと言われると、やたら選択肢が多く難しそうに感じるが、f8を中心として、太陽方向にカメラ向けるなら4クリック左に回し、日陰に向けるなら4クリック分右に回す。(半段刻みの現行レンズの場合。クラシック・ライカレンズはもっとシンプルに一段刻みだ。)ちょっと開けるか絞るか、もっと開けるか絞るかと考えると、とたんに簡単になってくる。ストリートにおいてf5.6とf8.0の被写界深度の違いなどどうでも良く、露出と速射性だけを求めた非常にシンプルな理論であった気がするのだ。
この仮説が正しいとしたら、これこそマニュアルの速射性において最も合理的な解だし、被写界深度的にもピントを外すリスクを軽減できる。しかし、このやり方だと特に現代のアスフェリカル・レンズでは全面がバキバキに解像してしまい、立体感や柔らかさと言った表現とは少し違ったものになる。
Leica M10 + Leica Summilux-M 1:1.4/50 ASPH. (ƒ/1.4, 1/180, ISO 100) ©2018 Saw Ichiro.
ズミルックスの開放、つまりf1.4は被写界深度が浅いのでストリートではピントを外すリスクは高いが、しかし狙った所にドンピシャでピンが来た時の猛烈なシャープネスとフワトロが3Dで共存する美しさには、代えがたい独特の魅力があるのも事実。三振覚悟でホームラン狙いの長嶋茂雄打法と言うべきか。
そこで僕は必殺技を考案した。「絞り回し上げ」ww、もしくはAutomatic Aperture Rotation, 略して「AAR」だ(笑)名前はなんでもいいが、とにかくライカ本来の速射性とズミルックス開放の美味しい所を、瞬時に切り替えながら両方得ようという作戦だ。
Leica M10 + Leica Summilux-M 1:1.4/50 ASPH. (ƒ/2.0, 1/750, ISO 100) ©2018 Saw Ichiro.
昼間野外の場合。まず、SSダイヤルは「A(オート)」に固定。つまり絞り優先。絞りの初期設定は開放。ISOもAuto。
普段はゆっくり開放のふんわり描写を楽しむ。そして、例えばこちらに向かって走ってくる子供など、精密なピント合わせが不可能な被写体をみつけたら、絞り回し上げの出番だ。
カメラを下ろしている状態で左手で絞りリングを掴む。この時親指をレンズの頂点、人差し指をレンズの下側を支える様に掴む。(親指と人差し指が垂直)そのまま流れにまかせて絞りリングを左に回しながら、顔の前にライカを右手で持ち上げ、親指と人差し指が水平になる時、自然とf8付近にセットされる技を会得した。(と言っても2,3回やってみただけだがw)
これで絞りの目視無しでズミルックスを開放からf8辺りに瞬時にセット出来る。タイムラグほぼゼロ。あとは通常通り、ピントリングに持ち替えて、被写界深度がカバーしてくれる事を期待して、ピントはラフで撮る。撮り終わったら開放に戻す。
結局シャッタースピードAutoに頼る訳だが、この方法の最大のメリットは、絞り開放の風合いと速射性の共存が、速攻で絞りをクルっと適当に回すだけという点に尽きる。絞りを変更した分のSSダイヤル補正を手動でやっていたらシャッターチャンスを逃すので、やはりオートに勝手にやってもらえる方が都合がいい。
ISOまでオートにする理由は、うっかり絞りを適当に回しすぎた場合、ISO100固定だとシャッタースピードAが1/60sを切ってしまう可能性があるからだ。普通はISO100、F8なら日向なら1/125sを切らないはずだが、勢いでF11とかに達して、かつ日陰にカメラを向けて撮ってみたら1/30s以下でチャンスを逃しちゃった、という事故をISO Aが防いでくれる。
開放時でも日中なら自動で常にISO100で維持されるので、昼間にISO Aは、絞らなければ実質上ISO100と同義で、何も問題無い。さらにNDフィルター装着時でもいくら絞っても安心だ。
結構よい事を思いついたと思ったが、当たり前かw
ところが、僕はほとんど無意識に常にズミルックスを開放で使っていたのだが、フィリピンの写真を改めて見返してみると、f8.0まで行かずとも、開放よりむしろf2.0辺りが良い結果が得られたのでは無いか、というショットが少なくない事に気がついた。
例えばこれ。
これも開放で撮ったが、f2.0なら右の子も十分フォーカスエリアに入ってきたと思われる。
いずれもジャスピンから微妙に外していたので、後補正で多少誤魔化した^_^。左の子はフォーカスよりもチャンスを優先した。右の子は現場ではもっとアンダーで、瞳の二重像がよく見えなかったため、頭の頂点あたりのコントラストの高い部分で適当にフォーカスした。
これも惜しかった^_^ 歩きながら片っ端からシャッターを切っていたが、これは特に彼女に気づかれる前にシャッター押したかったが間に合わなかった。構えからレリーズを切るまでに許される時間は、感覚的には一秒ちょっとくらいか。
個人的にはこのあんちゃんがフォトジェニックに感じて、完全にあんちゃんにフォーカスしたのだが、後から見ればこれではボツにせざるを得ない。(本人的にはまさか自分が撮られてると思わずに、赤ちゃんを前面に差し出してくれたw)これはF4くらいで許容範囲に入ってくるかもしれない。うん、結構ある(笑)レンジファインダーではこの辺りが、現場での咄嗟の判断が難しい。フィリピンがきっかけで、f2.0の意義を再認識したのだった。
フェイスブックのライカM10研究会で、ベテラン先輩諸氏に教わった被写界深度表。
1mの距離で開放でピントの合う範囲(m) / 被写界深度(m)
- APO-Summicron-M 50mm f/2 ASPH. : 0.974〜1.027 / 0.053
- Summilux 50mm : 0.982〜1.019 / 0.037
- APO-Summicron 75mm : 0.988〜1.012 / 0.024
2mの距離で開放でピントの合う範囲(m) / 被写界深度(m)
- APO-Summicron-M 50mm f/2 ASPH. : 1.899〜2.112 / 0.214
- Summilux 50mm : 1.928〜2.077 / 0.149
- APO-Summicron 75mm : 1.954〜2.048 / 0.095
3mの距離で開放でピントの合う範囲(m) / 被写界深度(m)
- APO-Summicron-M 50mm f/2 ASPH. : 2.841〜3.178 /0.482
- Summilux 50mm : 2.778〜3.260 /0.337
- APO-Summicron 75mm : 2.897〜3.110 / 0.213
被写界深度・計算ページ
http://shinddns.dip.jp/
なるほど1mではたったの3.7cm。APO75mmに至っては2.4cm。ピントを合わせた後、フレーミングのためにカメラをパンニングする時に発生するコサイン誤差で、このくらいすぐに変化してしまいそうだ。2mの距離ではズミルックスf1.4の深度は15cm以下だが、ズミクロンf2.0なら人間の頭一個分くらいの深度が得られる。
となると、上の作戦をアレンジして、待機時は開放では無く、f2.0で待機しておけばOKという事になる。f1.4からf2.0に動かす場合はクリック数を数えるか、目視が必要になるが、f2.0で待機しておけば、開放で撮りたい時は右に回しきるだけで済むからだ。それに、急いでる時こそ絞りを触る時間が無い。(この考え方で行くならば、絞り回し上げ作戦も、開放待機では無くf8.0で待機すべきか。どちらの使用頻度が多いかで決めればいっか。)
この記事に掲載したフィリピン以外のショットは、実はほとんどズミルックス50mmをf2.0に絞ったものだ。今後もしばらく「ちょい絞り」を意識してみる。
ズミルックスのf1.4開放(左)とf2.0(右)。開放では奥側の瞳がアウトフォーカス気味になる。でも後ろが抜けている場面では、言うほど印象は変わらないか。(この二枚は確か若干トリミングした。)
Leica M10 + Leica Summilux-M 1:1.4/50 ASPH. (ƒ/1.4, 1/180, ISO 100) ©2018 Saw Ichiro.
Leica M10 + Leica Summilux-M 1:1.4/50 ASPH. (ƒ/2.0, 1/125, ISO 100) ©2018 Saw Ichiro.
では、夜や室内ではLeicaはどの様に準備しておくべきかを、考えてみる。
SS 1/60s固定、絞り開放固定、ISO Auto。
これしか無いと思われる。SSもオートにすると、最大ISOで間に合わない場面で、ライカMは人間が決めた最大シャッタースピードを勝手に割ってしまい、無理やりカメラが考える適正露出にされてしまう。手ブレ防止のため1/60sを切ってほしくないし、1/60sでオーバーしてしまう場面は夜間ではまず起きないため、事実上、1/60s固定で問題ない。
この時にISO Autoの上限を1600程度に制限しないとISO25,000とかなって、盛大なノイズと共に昼間の様に変に明るくされてしまう。見たままの明るさで撮りたい場合は、結局はISOダイヤルを駆使してトライ&エラーしなくてはならない場面も多い。昼間より夜の方がカメラの向きで露出が目まぐるしく変動するので、手動ではどうしても露出をいじる頻度と手間が煩わしい。夕刻も同様だ。
夜も「絞り回し上げ」は使えるかもしれないが、ノイズ耐性の強いM10と言えどもf4くらいまでが現実的だろう。
もっと良い案があったらどなたか教えて下さい^_^
Leica M10 + Leica Summilux-M 1:1.4/50 ASPH. (ƒ/2.0, 1/60, ISO 800) ©2018 Saw Ichiro.