10倍9°の世界を覗いてみたくて無理してNikon WXを買った話をしたら、松本さんの製作魂に火が付き、そして本当に実現してしまった。それは、かつて見たことも無い奇妙な物体だが、分かる人は分かっている。これが革命前夜だと言うことを!(^^)
注意: これは望遠鏡を付け忘れたのでは無い。笑
仮称、スーパーワイドビノ(SW BINO)は、アイピースと望遠鏡の間にEMS(90°対空&正立化ミラー)を挟む既存の概念をぶち壊し、カメラ用レンズに直接アイピース接続し、対物レンズの外にEMSを配置して正立像を得る奇想天外な発想から成る。
通常はEMSの光路長を確保するために、鏡筒は250mm程度?以上の焦点距離が必要だったが、中間のEMSをバイパスする事で極めて短い焦点レンズでもピントが来る。
星見用・双眼鏡の王様、ニコンWXの超広視界、視界全ての星が点像という驚くべきスペックを凌駕するには、接眼部は是非ともNikon NAV-12.5HWか、NAV-17HWを使いたい。しかしアイピースには「正」のものと「負」の種類があって、複雑な光学系のアイピースの場合、アイピース本体の内側にピント位置が来る「負」の設計が多いらしい。Nikonは両方とも後者だった。となると、選ぶカメラ・レンズは、アイピースの内側まで到達するほどの長いフランジバックが必要だ。
レンズ選び
手元にあるカメラレンズ全部試してみて分かった事は、Nav12.5の焦点位置は、アイピース先端から44mm程度奥まった所にあると言う事、そしてNav17mmは同焦点化しているので分かるのだが、さらに17mmも奥に焦点がある事が分かった。どうりで自宅にあるほとんどのカメラ・レンズでは、アイピースとレンズボディを接触させてもピントが届かない訳だ。
半ば諦めかけたが、試しに押入れで眠っていたTakumar 135mm F3.5(M42マウント)だけがNAV12.5アイピースでピントが届くでは無いか!(ちなみに付属の専用コンバーターEiC-H10はNG、NAV-17mmも残念ながら届かなかった。)
松本さん製作のメガネフレーム。ここにカメラ・レンズの対物側のフィルターネジで固定し、高い剛性感がある。その代わり目幅は半固定式。
カメラ・レンズのフォーカスリングを無限遠に合わせた状態で、レンズ後端が42mmスクリューより飛び出していないレンズは、NAV12.5で1mm程度の余裕を持って無限遠に届く事が分かった。Takumar 55mm、28mm、zeissフレクトゴン35mm等は、無限遠だとレンズ後端が飛び出しているので、いずれもNG。(近距離へのフォーカスはレンズとアイピースを離していくので問題ない。)
そこで各社カメラメーカーのフランジバックを総当りに調べてみると、M42と同等以上なのは
M42 45.46mm
ペンタックスK 45.46mm
コンタックスN 48.00mm
ヤシカコンタックス 45.50mm
ライカR 47.15mm
ニコンF 46.50mm
オリンパスOM 46.00mm
T(T2) 55.00mm
中判や大判を除けばこれしか無かった。
うち、Tマウントは望遠しかなく、他社もAFレンズの場合は、無駄に重いし鏡筒径が太いので人間の目幅を超える。中判や大判は長大なフランジバックはあるが、レンズ鏡筒径が太過ぎて論外。(例外的に、Schneider super cineluxという古い特殊なレンズがあり、適切な鏡筒径、素晴らしい見え味と長大なバックフォーカスがあるらしいが、ebayで1本10万円前後と中古市場のプライスが少々高すぎる。)
Zoomレンズ
Takumar 135mmはなんと言っても激安で、数千円で買えるのでもう一本買っておいたが、そこで僕の悪知恵が沸々と湧き上がってきた。これ、ズームレンズ使ったら面白くね?(^^)
上記ブランドのマニュアル・フォーカスで鏡筒径が十分に細く、丁度良い焦点距離のズームレンズを探しまくってみつけたのが、Pentax SMC PENTAX-M ZOOM 75-150mm F4。一般的なズームアイピースは普通、視野が狭くて僕は好まないが、鏡筒がズームの場合はどの倍率でも見掛視界100°キープ!既に革命の匂いしかしない。(^^)
早速試すべくヤフオクで1本落札してみた。700円だった。送料が1400円だったけど。(笑)
ただ、F4通しレンズなんてカメラの世界では珍しく無いが、望遠鏡として使うとなるとちょっと不思議な挙動をする。
松本さんの製作速報より
NAV-12.5HWと合わせると、Takumar 135mm 9.26° 10.8x(射出瞳3.7mm)に対し、
Zoom 75mm端 16.67° 6x
Zoom 150mm端 8.33° 12x
までは良いのだが、どの倍率でも射出瞳が望遠側(3.2mm)固定となる。ズームを動かしても明るさも見掛視界も変わらないのは驚きのメリットだが、暗い方に固定なのは想定外だった。
NAV12.5をどうしても使いたいという僕のワガママのために松本さんが開発して下さった、ミニ・アイフォーカサー付き2インチスリーブ!こんな便利ツール、見たことがあるだろうか?これさえあれば未来の望遠鏡には、フォーカサーが不要になるかも?人類の誰も考えつかなかったアイディアが、毎日の様に松本さんから湧き出てくる。これだけでも傑作中の傑作だ!!松本さんこそ人間国宝に認定すべきだ!
EMSで正立化
EMSを外せば倒立像の超広角・双眼鏡として使えるが、双眼鏡ならやはり正立像が欲しい。ただし、EMS-ULもUXLも第二ミラー(小さい方)は全く同じサイズで、短辺が40mmなのでレンズ口径は40mm弱に制限される事になる。幸い有効口径は、135が、38.5、 ズームが37.5とジャストサイズだ。
装着しているのはAskar 120APO BINO用のEMS-UXLだ。無塗装のアルミシルバーが良く似合っていてお気に入り(^^)。EMSに追加した67mm保護フィルターが曇りやすいので黒厚紙で簡易フードを作った。それにしても工作が酷すぎる事は自覚している。小学生以下。(笑)
ニコンアイピースの100°視界を活かすならUXLがベターという事になるが、UXLの対物側の開口径82mmのままだと、対象と無関係の余計な景色が端に映り込む。67mmのステップダウンリングで口径を制限する事でこの問題はほぼ解消し、150mm端では完璧、75mm端でも若干蹴られるものの、大体16°は達成している。
増山26mmを使うと、理論的には29.4°、2.9x、射出瞳13.2mmとほとんどテレコンビノ状態になるが、残念ながらEMSで蹴られてしまう。かと言ってEMSを外して倒立像で星座を見ても、なんだか訳分からなくて学習にならない。
小海星フェス2024で覗く
松本さんに無理を言って、小海星フェス2024に間に合わせて頂いた。しかしつい最近になってフェスの話を聞いたので申込みもしていないし(笑)、僕のズボラな性格で2日間とも夕方から参加させて頂いた。1日目は奥のキャンプ場で15cmツインDuoや月面散策ツアーでご一緒したオオカミ王ロボさんの敷地を間借りして、2日目は観望エリアをご親切に譲って下さった方がいて、望遠鏡が並び立つ観望エリアで店を開かせて頂いた。
Nikon WX vs SW BINO
Zoom 75mm端 16.67° 6x
Zoom 150mm端 8.33° 12x(射出瞳3.2mm固定)
Nikon WX 10x 9° 10x(射出瞳5.0mm)
WXと並べて見比べると、16°視界の広さはもちろん圧倒的で、NAV-12.5の視野枠の大きさもWXを圧倒する。カシオペアの全景が100°同一視野に収まる。視界の広さだけならテレコンビノでも近い体験は出来るが、あれは各種収差のオンパレードで星像はお世辞にも褒められないし、倍率も小さ過ぎるし、おまけに瞬殺で曇ってしまう。SW BINOの場合は良像範囲100%、最終端まで完璧な点像!なんてったってNAV-12.5の素晴らしい見え味だ。これはまだ誰も見た事が無い、未体験の世界だ!
内側の円がNikon WX 10x 50、外側がSW BINOの広角側だ。(望遠側はWXとほぼ同じ。)実際にはEMS-UXLの67mmリングに若干蹴られて、この円よりもわずかに狭くなるが、カシオペアの端から端まで、アイピースの中で目をグリグリ見渡すと見えている。
コスパ最強説
コスト面でも、既に双眼望遠鏡を所有している方なら何かしらのアイピースとEMSが2本づつある。肝心のカメラ・レンズも、市場ではほとんどゴミ扱いされている素晴らしいレンズがヤフオクやメルカリに溢れている。タダ同然のレンズ + その創意工夫や労力を考えれば申し訳なくなるほどの松本さんの良心製作費でNikon WXと同等、或いは凌駕する双眼鏡が作れてしまう。
EMSから全部新規に揃えたとしても、工夫次第でWXの半額までコストを抑える事が出来る。NAV-12.5は高価なアイピースだが、ピントのテストは必要だが賞月観星さんの13mmなどは圧倒的なコスパなのにイーソスと遜色無いと聞いている。
射出瞳問題
しかしNAV-12.5と75-150ズームレンズの組み合わせは、やはりちょっと暗い。射出瞳の差が如実に出てしまい、口径差もあって星の光の線が細い。WXの方が星が明るく綺羅びやかで、見ていて美しい。このレンズと合わせるなら松本さんが使っておられるナグラー16mmの方がベターだろう。
ナグラー16mmと合わせるとこうなる。
Zoom 75mm端 17.49° 4.7x
Zoom 150mm端 8.75° 9.4x(射出瞳4.1mm固定)
性能的には申し分無いが、個人的には82°アイピースだとWXのスペックに僅かに届かない感じがするのが、どうにも悔しい。(^^)
このズームレンズ、像質はTakumar135よりさらにコントラストが高く解像感があるだけに惜しい!レンズ構成がTakumar135の4群4枚に対し、9群12枚も使ってるので光量欠損している可能性もあるのかな?。
射出瞳を考えれば100mm前後の短焦点で、8x固定で使うのが最も理想的かもしれないと、SMC Takumar 105mm F2.8も試してみた。ピントは届くのだが、F2.8という短焦点のためか、同社135mmより星像が甘くてこのレンズは却下となった。Fは3.5から4の100mmレンズを今後も物色してみる。
SMC Takumar 105 + NAV-12.5
11.9° 8.4x 射出瞳4.5mm。
一長一短
座って楽な姿勢で落ち着いて見れるのは、SW BINOのメリットで長時間観望に優れている。もちろん天頂付近も楽勝だが、使い勝手の部分はまだまだ試作品の段階だ。実際に使用して気付いた事を逐一松本さんに報告している。
内部に迷光処理をしていないので、月を見るとコントラストが落ちるのは対処可能として、UXLを乗せるとジンバル雲台に干渉して水平方向に向ける事が出来ない。高度20°までは下がるので、星見用としては取り急ぎ問題は無い。使っている最中は完全バランス・クランプフリーで使いやすい。
三脚と本体だけ持って出れば完了の手持ち双眼鏡の手軽さや剛性感も、SW BINOは遠く及ばないのは仕方が無い。重量的にもニコンアイピースもクソ重いし、さらにEMS-UXLそれぞれ二本だ。とても手持ちでは使えない。
SW BINOはピント合わせが煩わしい。カメラ・レンズにズームリングとピントリング、絞りリングまで付いていて、松本さんに作って頂いた2インチスリーブのアイフォーカサーリングもある。どこを触っても回ったり伸びたりする稼働部分で、どこかを抑えながらどこかを回すのが難しく、ゲストがいきなり暗闇で自分で操作するのは、まず無理だ。
目幅を変更するには六角レンチが要る。この辺りは既に松本さんに新アイディアが生まれたとの事。楽しい日々が続く(^^)。
イベントが半月の夜で、星の光が全体的に弱い事もあるが、視界が広すぎて、90度対空な事もあり今どこを見てるのかサッパリ分からないという声も多かった。WXの記事で紹介したiPad内蔵傾斜計による視野の同期作戦は、SW BINOこそ重宝しそうだ。1/4インチネジ穴を松本さんに今朝お願いさせて頂いた。
大口径、高倍率の夢の望遠鏡が乱立する中、初心者さんゲストは見向きもしないこのSW BINOが今回のフェスで一番の衝撃と仰って下さった方がいらした(^^)。この変態的なBINOに一番の衝撃を感じる事が出来るエンスー度と感性に脱帽です!(笑)ありがとうございます!
SW BINOはまだ開発が始まったばかりの新ジャンルだ。どの世界でも、人類の既成概念を打ち破るマイルストーンにリアルタイムに立ち会える事ほどエキサイティングな事は無い。いやむしろ、それこそが生き甲斐そのものと言ってもいい。
ここからどう発展していくのか、当分ワクワクを楽しめそうだ。(^^)