このところ新月+天候+スケジュールに恵まれなかったが、昨晩久しぶりに遠征を楽しんだので記憶が新しいうちに少し書いてみる。しばらく前にNikon WX 10×50 IFを入手していたが、やっと最高の夜空を拝む事が出来た!
WXはリリースされてからだいぶ経っているし、あちこちにレビューもあるのであまり詳しく書く事も無いが、EMS双眼望遠鏡ユーザーの視点で少し比較などしてみた。
何より、このコピーがイイじゃないか。(^^) 僕はこのコピーにやられた。(丁度やっていたセールにもやられたw)このコピーに偽りは無いし、こんな素敵なメッセージが書けるほどの偉業を達成したニコンの技術者達に、僕は拍手を贈りたい。
口径50mm、10x、実視界9°というスペシャルなスペックを持ちながら、その広大な視野の良像範囲は文句無しに100%だ。スカッとヌケが良く何を見ても気持ちがイイ。コレコレ!これですよ!(^^)
視野枠の大きさが市販双眼鏡と比べて異次元に広く、見た瞬間に感動と喜びが呼び起こされる。4回反射のアッベ・ケーニッヒ型プリズムは優秀そのもので、銀ミラー2回反射のEMSと昼間の景色を見比べても遜色無い。光学系もシャープネスもコントラストも非常に高く、いかにも現代的な見え方だ。
比較実験
Askar 120APO-BINOとサイドバイサイドでじっくり検証してみる。倍率が違いすぎるので余興としての比較だが、いろいろ興味深い事が分かった。
実視界 | 倍率 | 射出瞳径 | |
120APO+NAV-17HW | 2.06° | 49.4x | 2.4mm |
120APO+Masuyama32 | 3.24° | 26.2x | 4.6mm |
WX 10×50 IF | 9.0° | 10.0x | 5.0mm |
昔、K-nebulaさんに見せて頂いた時は、WXの視野枠の大きさに驚いたのだが、よく見比べて見るとWXはマスヤマ32mmの視野枠サイズとほとんど同じで、比較すると同じくニコンの実視界100°アイピースNAV-17HWの方が視野枠は圧倒的にデカかった。
NAV-17HWの後にWXを覗くと視界が狭く感じる、と言えば贅沢すぎるが(^^)、NAV-17HW(NAV-12.5HWも同じ)の視野枠はほぼ人間の視界の外に出るため、脳がその場に接近したと錯覚する。周辺を見るには中でキョロキョロ覗き込む感じになる。
WXの周辺では普通に色収差が見られ、端に対象を持ってくると色が見える。なんだ、双眼鏡の王様もこんな感じなのねw。僕は元々その辺はあまり気にならないが、むしろAskar 120APOの方が色収差は軽微なのはF7だから?
何度も何度も見比べると、コントラストは若干WXの方が高いと言えるかも。黒がより黒に見えるが、120APOがコントラストが低いとは全く感じないので、もしかしたらそれは拡大率の違いかもしれない。月を見るとWXはゴーストが出る時があるのは若干気にはなるが、雲間に見え隠れする月を見た時には、周辺の雲も含めて息を呑む美しさだった。
WXも完璧な解像力を持っているが、120APOを覗くとその拡大率によりさらに驚きがあるのは、口径120mmの分解能のアドバンテージ。どちらも物凄い景色を堪能出来る事は間違いない。
関係ないが、偶然この商品をAli Expressで見つけた。以前にこのブログで紹介した僕んちのベランダの120APO写真が、勝手に商品写真になっている笑。まあ、カッコいいと思ってくれたのだろうし別に使っても構わないが、商品写真のトップに使うのは新しい!笑 しかし21万円ってどれのこと?wこの国は魔界村か?ww
商品管理、顧客対応全てが同程度のモラルと推測出来る。こういう会社が混じっているのでAli Expressは要注意だ。
決め手は荷物量!
仕事の合間に、一服がてらベランダに出てみたら満天の星だったり、天候が怪しいはずが雲間が開けた瞬間に居合わせたり、そんな瞬間に双眼望遠鏡を組み立てている時間は無い。
双眼望遠鏡を出そうと思ったら、
鏡筒x2
ピラー
架台
アイピースBox
工具入れ
バッテリーやらウェイト
椅子
これら全てを運び出すために、部屋とベランダを両手に大荷物を抱えて7往復とかする。さらに組み立て、バランス取り、光軸調整、iPadのSkySafariとの同期など運び終わってから見始めるまでに少なくとも20分はかかる。
一方、双眼鏡の場合は、三脚とWXボックスを両手で一回運んで、WXを乗せれば終わりだ。この手軽さは手持ち双眼鏡の圧倒的なメリットだ。
観望会で皆にシェアする際の、自動導入式Askar 120APO-BINOの全荷物。(^^) どれもこれも重いんだこれがw。中軸架台だと荷物は半分になるけどね。そもそもアイピースケースがデカすぎるか。(手前黒)
超お手軽・双眼鏡向き導入支援!
実視界9°の直視型ともなると、双眼鏡に導入支援は必要無い。気になったエリアにヒョイと向ければ、視界に入ってる。
星図と見合わせながら散策するのが超楽しいし、何より倍率が低いので、マニアックなピンポイントの対象というよりは、空全体を俯瞰した位置の把握や、星座の並びがとても勉強になる。高倍率よりも先に低倍を楽しんだ方が、学習が早い。
冒頭写真の古いマンフロットのビデオ雲台に乗せてみると、2.5kgのWXでは反発力が全く足りずに勢いよく倒れてしまって使い物にならない。そこでLeofoto BV-5 VTR用雲台を購入してみた。小型軽量でソコソコ反発力が強く、前後をひっくり返して使用すればド天頂まで向くし、取り敢えずはこれで良さそうだ。
仰角に応じて頻繁に双眼鏡ごとセンターポールの高さを変えるので、軽量な雲台は大変有難い。ただBV-5は根本的に仰角が上がるほどに反発力が増していくチープな機構で、これではフリーストップなど実現出来るはずが無い。天頂付近は反発が強すぎてクランプを閉めないと使えなかった。
この雲台を選んだもう一つの理由は、稼働部分のサイドに1/4インチネジがある事で、これで試してみたい事があった(^^)。
導入支援は不要と書いたが、天の川を流していてちょっと気になる対象があったりして、あれ、なんだっけ?となった時に、便利な方法を思いついた。
エンコーダー等を何も使用する事なく、iPad内蔵のコンパス、傾斜センサーを利用して、双眼鏡が向いている方向をSkySafariで表示してみる(^^)。これが結構うまく行った!以前こちらで紹介した、双眼鏡で楽しめる重星一覧とか、使い道は色々ある。
iPadを手で持っているのも邪魔だし、手袋をしたまま地図内を移動するのも煩わしいが、これで見ているエリアが常に同期しながら最強ガイドに付き切りで教えてもらえる。さらにiPadの設置位置を工夫する事で、雲台のバランス取りにも貢献出来る。一石二鳥!
もちろんiPhoneでも利用出来る。
使い方は、目立つ明るい星を導入し、SkySafari画面右上のコンパスマークを押して、SkySafari上でその星がセンターに来る様にモバイルの角度を動かして固定するだけ。多少ズレは生じるが広視野なのでほとんど問題ない。これは双眼鏡ユーザー全員にオススメだ!
WXは僕は無改造で使っているが、夜露防止に黒の厚紙フードを巻いた。金属では無くあえて厚紙にしたのは、天然の除湿機として作用させるため。乾いた空気は下に貯まるので、横や下に向けて置いておかなければ、これだけで恐らく一晩中曇らない(と思うw)。同じ方法で厚紙を巻いた僕の等倍ファインダーは、一度も曇った事がない。
それにしても、WXの三脚アダプター TRA-5が非合理的で不格好に見えるのは僕だけだろうか?どうしてこの形にしたのだろう。せっかくボディをここまで洗練させたのに、質感もデザインもボディとの親和性が無い。正直、見た目が台無しじゃない?(^^)
対物側先端の突起は無駄でしか無いし、握りにくいし持った際のバランスも最悪。アンバランス過ぎて持ち上げた時に接眼部をゴツンと二回ほどやってしまった。不必要に天面に物体が突き出していて収納の邪魔だし、以前のバージョンは性能に問題すらあったらしい。
あと、アダプター台座底面にネジ穴を用意してくれていたら、脱落防止滑り止めネジを入れられるのに。(アルカスイスなら当たり前に付いている。)彼らは光学性能にしか興味が無いのか、アイピースにしても世界一の性能なのに使い勝手に関する部分はいつも思慮を欠いていると思う。松本さんが設計したら、遥かに理にかなったシンプル化、合理化が果たせるはず(^^)。
ニコンが松本さんをアドバイザーとして招き入れたら面白いのになあ。
観望会でもWX大活躍!
このAskar 120APO-BINOとWXは、実は既にあちこちの観望会で活躍してくれている。この日は横浜の建設会社の大社長様が葉山の広報誌で月面散策ツアーを見て下さり、オファーを下さった。70人以上の人々に月と土星を楽しんで頂いた。
撤収時にWXの対物レンズがベタベタに触られて超汚い事に気がついた笑 まあ楽しんでもらえたのだから、良い事にしよう。次回からは絶対触れないくらい深いフードを用意しなければヤバい(^^)。
最近では観望会に報道の方が来て下さる事が多くなった。ありがたい限りだ(^^)。これで少しでも僕の浪費癖が正当化出来ると、僕も嬉しい(笑)。
この二ヶ月は本当に忙しかったが、音楽のお客さんも雲が晴れたら夜は大抵、観望会になる。この日、Zeissのオールドアイピース x パワーメイトx4の組み合わせで見た木星は、過去一素晴らしかった。
こんなに多くの人に見てもらえるなら、僕が所有する意義もあるだろう。(^^) こんな双眼鏡(究極の世界)を覗く機会は、普通無い。
しばらく更新もしていなかったから、とりとめもなく載せてみている。先日の紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)も何日か見たが、いつもWXがその場の誰よりも早く彗星を発見し、周囲の見知らぬオジサン達にも8万年に一度の景色楽しんで頂いた。こういう時もSkySafariのカンペと実視界9°が効く。
これはWXにiPhoneを押し当てて撮ってみた。
遠征!
昨晩は遂に新月と晴天とスケジュールが噛み合った奇跡の夜だったので、久しぶりに20cmF7 BINOとニコンWXを積んで美ヶ原(標高1940m)まで遠征した。終点の道の駅駐車場は自動販売機が煌々と眩しいので、近隣の潰れた?レストラン跡地駐車場を拝借した。
眼下にはあちこちに雲海が見える。中途半端な高度では雲に覆われていたかもしれない。ある意味でここまで足を伸ばして正解だったが、アウトドアチェアが倒されるほどの強風で、美ヶ原はいつも風だ。転倒の危険を回避するため、20cmのフードも中間筒も外してスケルトンで楽しむ事にした。
何もかもが凍りつく世界が懐かしい。1年ぶり。大の大人が真っ暗闇の吹きさらしで、一晩中クレイジーな遊びをやっているこの感じが、嫌いではない(笑)。
しかもまたガソリンが足りない事を知りながら、こんな所まで登ってきてしまった笑。6時間近くマイナス2°の強風に晒されているが、帰り道が心配で車で暖を取る事も出来ない。何より途中でガス欠になったら大変だが、まあ下りなのでなんとかなるだろうとタカをくくっている。でも良い子の皆様はちゃんと満タンで山に挑んで下さい(^^)。
しばらくは望遠鏡の向きが変わるほどの風で、視界が揺れて大変だったが徐々に落ち着いてきた。その代わり雲も出てきてしまったので、写真を撮って遊んでいる。
それにしても物凄い空だ!久しぶりの屈折20cmツインのやる景色も、12cmとはやはり別世界だ。思わず真夜中に感嘆の声が漏れる。「嗚呼、美しい!」
実視界 | 倍率 | 射出瞳径 | |
20cmF7 + NAV-12.5HW | 0.89° | 112x | 1.8mm |
20cmF7 + NAV-17HW | 1.24° | 82.4x | 2.4mm |
20cmF7 + Masuyama32 | 1.94° | 43.8x | 4.6mm |
アンドロメダはNAV-17HWの80倍、1.2°程度で眺めるのが最近の好みだ。視界全てが銀河だが、さらに対象が大きくはみ出していて巨大な腕がこちらに迫ってくる大迫力の絵が楽しめるし、近所のM110も立派な巨大銀河である事を実感する。
中間のミラクと、ミラクゴースト(NGC404)、アルマクの重星を楽しみつつ、対岸のM33に移動すると、淡いながらもデデンと鎮座する大迫力の銀河は、グルグル巻きだ。M33はほとんどアンドロメダと同じ距離感に位置するらしい。
ぎょしゃ座の中を中倍率程度で散策するのも実にリッチな体験で、メジャーM天体やNGC番号が振られていない、名前の無い領域全てどこを切り取ってもドラマがある。同様にとかげ座からケフェウス、カシオペアに至る領域も筆舌に尽くし難い美しさで、これらは双眼で眺める最高の絶景の一つだ。網状星雲やM57リング星雲、M27あれい状星雲、NGC7293、神の目なども一通り楽しんだ。これらは今年は見納めかな?
夜半過ぎに雲が増えてきたので20cmを片付けて、WXに切り替える。そして片付け終わる頃にまた晴天に戻るというオチ。笑
この夜、初めてWXで完璧な空を眺めたのだが、その素晴らしい事!神奈川の自宅のベランダで眺めても、まあ5cm双眼鏡だしこんなもんかな?と思っていたが、双眼鏡の低倍・広角が本領発揮するのは、最高の空に持ってきた時だ。(逆に大口径は都会でも遊べる。)
5cm双眼鏡で二重星団がこんなに美しく見えるの?とか、M42の形が双眼鏡でこんなに楽しめるの?と言った具合に、大口径のそのままの景色の縮小版という感じで、実にイイのだ。双眼鏡では見えないと思っていたカシオペアのふくろう星雲(NGC457、ET星団)なんかもハッキリと見えたし、OIIIを押し当てて見るとバラ星雲がバッチリ見えちゃうじゃないか!これは面白い!
目立つ対象が少なくて望遠鏡ではほとんど見た事が無かった、おおぐま座の足先のエリアやら、やまねこ座やら、あちこち3時間近く双眼鏡で回って過ごし、大変学びが多かった。
何より視界全てが星に埋め尽くされていて、その感動量は20cmツインのそれとなんら遜色が無い。
これからもこの双眼鏡で沢山の発見や喜びがありそうだ。老人になって身体が動かなくなったら、僕はWXだけで生きていけるかもしれない^_^。
まだ興奮が冷めやらないが、とても贅沢で満ち足りた晩だった。
さて、あとは無事に帰れるだろうか。笑
(最寄りの24hスタンドを検索し、松本市までまっすぐ降りて無事に給油。1時間以上遠回りしたが、無事に蓼科のビラに朝5時に到着したとさ。めでたし、めでたし。)