重い荷物を抱えて何度も往復したりすると、翌日から一週間くらい腰が痛くなるようになった。笑 望遠鏡一式だけならまだしも、長野のVillaは音楽スタジオも兼ねてるので、車に一人しか乗れないほどの音響機材と双眼望遠鏡のフル積載が常で、毎回の積み下ろしがマジで辛くなってきた。構想は随分前からあったが、手軽にベランダで楽しめる双眼望遠鏡スペシャルが、遂に鳥取から僕の手元に届いた。
Sky Rover UF30の大きな見口を覗き、左右のピントをゆっくりと合わせてみる。このBINOから初採用となった超軽量2インチ・アイフォーカサーは左右対称式操作になっていて、極めてスムーズで快適だ。
レンズの向こう側には雨上がりの新緑が、朝の陽を浴びてキラキラと視界いっぱいに輝いている。時折、見たことの無い美しい鳥達が5.1° 14倍の視野に入ってきて、久しぶりの晴れ間を楽しんでいる。いつまでも眺めていたくなる雄大な生命の景色に、この地上に生を受けた喜びを禁じ得ないのは僕が年をとったからだろうか。(^^)
対物レンズは笠井の7cmED。BLANCA-70EDと同じと思われる420mm F6のFPL51レンズだ。最初はBorg FL72を考えていたが小遣いが足りず(^^)、1個3万円のリーズナブルな対物で十分とする松本さんのご提案に従った。
事前予想では像質は流石にNikon WXに負けるだろうと思っていたが、サイドバイサイドで見比べてもなかなかどうして遜色無いどころか、恥ずかしながら僕の目にはいくら覗いても優劣が分からない。
70ED BINOは鏡筒から丸ごと松本さんの手によるフルオーダーメイドだが、鏡筒内部の黒塗りは、僕の超テキトー素人仕事である(^^)。コントラストはWXの方が上に違いないと思ってアラを探してみても、70EDの方が若干描写が優しいか?と思う瞬間もあってWXに戻ってみると、あれ?やっぱり同じか、、、などと繰り返しているうちにどうでも良くなってきた。いずれにせよ、どちらも子供の頃の視力に戻った様な、ため息ものの鮮烈な描写が楽しめる。
鏡筒の下のネジは、平らな所に並行に置けるようにするために、ホームセンターで買ってきてアルカ裏面に付けてみた。
視野枠の広さも両者互角。どちらも最周辺まで完璧な解像度を維持していて、視界全体がスカっと抜けていて実に気持ちがいい。両目で覗いている間は広さの違いを意識出来ないが、iPhoneを押し当ててみると70ED BINO + 見掛視界70°のUF30の方は明確に視野枠が写るので、実際はWXの方が広いかもしれない。アイピースに見掛視界85°のマスヤマ32mmや、102°のNikon NAV-17HWを持ってくるとこの差は逆転する。UF30で合わせると、両者どちらも瞳径5mmと同一。
左、70ED BINO、右、Nikon WX 10×50 IF。それにしても、iPhoneで視野を撮影してみても、肉眼で見られる感動の100分の1も写らないのはなんでだろう(^^)
70ED BINOのやる強烈な立体感は、市販双眼鏡では得られない双眼望遠鏡の真骨頂。WXの10倍と14倍ではそもそも倍率が結構違うが、被写界深度も70EDの方がずっと薄く、眺める木々を移動するたびにピント調整したくなる。色収差が出そうな景色を探してみると、どちらも枝の縁に紫は見えるが、流石にWXの方が軽微で面目を保った。
70ED BINOの変遷の数々。MATSUMOTO-EMS 製作状況速報より
一見、普通の小型BINOに見えるこの新型70ED BINOは、可搬性に優れる一体型・小型軽量に留まらず、松本さんの創意工夫が随所に散りばめられている。何ヶ月も毎日の様に松本さんとディベートを繰り返しながら、次から次へと生まれる松本さんの斬新なアイディアによって、それ以前の案を実現するために注文して下さっていたパーツが容赦なく無駄になっていく。笑
中でも一番の目玉は、市販アルカスイスを利用した目幅スライダーだろう。と言ってもアルカを利用する前例は過去にも沢山あったし、僕もBorg 71FL BINOを自分で組み立てられたのもアルカのお陰だったが、そこには少し問題もあった。
昔、自作した今はなき、Borg 71FL BINO。
一本のバーに左右鏡筒をそれぞれクランプさせると、確かにスライドは出来るが鏡筒やアイピースの重量に負けてバーがたわんだりして、光軸やトータルの剛性感がどうしても不安定になる。腫れ物を触るようなデリケートな取り扱いを余儀なくされるのが普通だったが、今回の新しいアイディアはそれとは似て非なるもので、左右両端にクランプを装備したプレートを一個の大きな幅広クランプで噛み込む方式に進化した。
ちょっと素人が真似できる工作では無いが、初期調整すら不可能なほどに物理的に光軸が動く余地がなく、スライド時も光軸があさっての方向に吹っ飛ぶ事も無くなり、おまけに圧倒的な剛性を得て一挙両得。このスライドシステムが、このBINO計画の核となった。グリスを塗ってもきっと素晴らしい感触になるだろう。
もう一つのトピックが、対物と接眼部をそれぞれ独立してアルカにクランプさせる方式だ。仮に今後、対物レンズをBorg 72FLやタカハシFC-76なんかに交換したとしても、多少の焦点距離の違いを克服し自由に配置、固定出来て、レンズは加工なしにステップアップリングを用意するだけという、素人でも対物レンズを交換出来る夢のBINOモジュールシステムとなっている所が、こいつの隠れた革新性でもある。
運搬時に荷物になる操舵ハンドルと運搬ハンドルをアルカクランプで付け替えて共有するのは、僕のアイディア(^^)。我ながらこれは使いやすい!
この日使用しているチャイナ製架台は小さくて軽くて良いかと思ったが、このBINOを乗せるのはちょっとオーバースペックの様だ。不快な振動が少なくないし、全体的に動きが渋い。スムーズに動かないので、ここは普通にビクセンのHF経緯台にしようかと松本さんに相談中。
超お手軽BINOは、ひょいとカメラ三脚とBINOだけベランダに出して、すぐ見れるのが最大のアドバンテージ。出来るだけ煩わしい配線などをしたくない。深い紙巻きフードがあれば夜露で曇る事が無い事は分かっていたので、電熱線も使わない。
Askar 120APO BINOに続き、今回も無塗装EMSのハウジングを送って頂き、頑張って磨いた(^^)。鏡筒も全部軽く磨いて、素人テキトー仕事ではあるが(遠目からはw)美しいシルバー双眼望遠鏡となった。
出典:gooding & company https://www.goodingco.com/lot/1971-ducati-desmo-silver-shotgun/
僕がシルバー鏡筒を趣向するのは、暗闇で視認しやすいとか、樹脂塗装が放射冷却に不利に働く事が分かった事もあるが、それより人間の余計な装飾を排し、必要から生まれる造形美こそ最もピュアで美しいと感じたりもする。都内に暮らしていた若かれし頃、店頭に展示されていたイタリアのDucati “Silver Shotgun”と呼ばれる美しいビンテージ・バイクに一目惚れし、危うく長いローンを組みそうになった経験がある(^^)。シルバーむき出しのアルミ工業製品に強い魅力を感じる僕の趣向は、この時から来ているかもしれない。
色はともかく、このBINOの外見がスッキリしているのは、無駄に重くてゴツいフォーカサーが存在しない事が大きい。前述のアイ・フォーカサーの突然の出現により、長年の懸案が一挙に解決した。ストロークが20mmもある上に、チャック式のアイピースクランプのお陰で、脱着時の光軸移動が事実上、皆無。
特に大きいBINOだと暗闇で遠くまで手を伸ばして手探りでフォーカスノブをいじる所を、眼の前で手元で微調整出来るのは言うまでもなく直感的でベターだ。しかもオリジナルのEMSスリーブと変わらないほど軽量と来た。これは本当に素晴らしい!このフォーカサーの完成度は、BINOだけでなく今後の望遠鏡のスタンダードになり得ると思った。気になる人は今すぐ一時退院している松本さんにメールした方がいい(^^)。
このアイフォーカサーとアルカスイスを駆使した軽量システムにより、70ED BINOはUF30アイピースx2込みでトータル5.7kgを実現した。軽いAskar 120APOもEMSもアイピースも抜きで1本6.5kgある。全ては松本さんのご尽力のお陰だ。いつかこのBINOを連れて、絶対にオーストラリアに行くぞ!(^^)
ちなみにEMSはUL。ULも1セットくらい所有していなければ松本ファンを名乗れない(^^)。
このフィルターフォルダも実に作りが良く、剛性が高くマグネットで吸着し完璧に遮光する。あいにく僕の場合は20cmF7 BINOとAskar120APO BINOでBorgのフィルターフォルダを使っていて、こっちに移し替え得るのは逆に手間がかかるが(^^)、まあ小口径でフィルターを使う事もそんなに無いかな?
運搬ケースにCelestron 4-8インチ天体望遠鏡ケースを選んでみたが、これはちょっと失敗だった。高さが少し足りずにアイピースつけっぱなしで収納出来ない事は分かっていたが、全体的にふにゃふにゃで保護性が低い。アイピース・ケースとして使っているこっちと同じモノにすればよかった。こっちはかなり壁が厚いがその分重い。
そんなに焦ってどうするの?もっとゆっくり、リラックスしてスローライフを楽しんでもいいんじゃない?それと正反対の生き方をしている僕は、そんな楽しみ方に憧れている。(^^)
低倍率でゆっくりと宇宙を流すのに特化した70ED BINO。このBINOでやってみたかった事の一つは、モバイル画面では無く本と向き合いながら星を散策してみたかった。実はアマゾンでとても良い本をみつけたので少しご紹介。
この本のユニークな所は、個々の天体の必要十分なインフォメーションが、一口メモと共に見開きで眺める事が出来る。SkySafariは導入には欠かせないし便利には違いないが、画面内の移動や拡大、情報確認や観望記録のために一晩中画面をタップし続ける事になる。手袋なんかしてたら尚更それが煩わしく、ちょっと気になっても面倒で情報や写真など最近はほとんどわざわざ見に行く事も無い。そもそも満天の星の光を浴びながらずっとモバイル画面を眺めてる事がアホらしくもある。
そんな流れでこのアナログな本に、最強デジタルツールに対して、とっても価値あるアドバンテージを僕は見出すに至った(^^)。この合理性が気に入り過ぎて、これの日本語翻訳版の「スカイアトラス フィールド版」の古本も手に入れてしまったが、そっちには写真は一枚も無く、新しい英語版の方が様々な工夫があって見やすかった。
僕が今日まで10年以上、天文の趣味が続いているのはEMS双眼望遠鏡のお陰なのは間違いない。EMSの発明により、楽に座ったまま天頂付近を心ゆくまで散策し、倍率の自由を得て、極上の宇宙を正立像かつ両目でいつまでも眺めていられるようになった。松本さんに改めて心から感謝すると共に、一日も早くご病気から復帰され、人々に宇宙の感動を末永く届けて下さる事を願って止まない。