初めて訪れた愛知県のスターフォーレスト御園(「ぎょえん」かと思ったら「みその」だった)は、昔から数々の有名天文イベントが開催されている聖地で、深い緑が実に美しいエリアだった。標高は700mと過ごしやすく、イチローも20cmF7 BINOを携え2泊3日でフル参加させて頂いた。
無計画に思いつきで行動する僕の場合は、必然的にいつも単独遠征でぼっち観望が基本となる。だからこの様な知見の豊富な先輩方とご一緒するチャンスは本当に貴重だったりする。
初日は大雨。ワイパーが最速状態の土砂降りの日に天文遠征したのは初めてだ。(笑)60人以上参加されていたが初参加の僕は全員初めましてだし、天文歴50年以上!の方など沢山いらっしゃって、日本の眼視観望の最先端を成す御仁達と言う。僕の様なナンちゃって天文ファンが足を踏み入れて叱られないかとても不安だ(^^)。
今回はご親切にも天文リフレクションズの山口さんがお声がけ下さり、参加させて頂ける事になったのだが、まだ外は雨だし完全アウェイの状況だし、さて、今晩は何をしよう(笑)
一人でモジモジしている僕に暖かく話しかけて下さった先輩方が何人かいらして、このブログを読んで下さった方もいたりして(ありがとうございます!)いつの間にかビール片手にワイワイ大騒ぎとなっていた(^^)。
2日目の昼間は日焼けするほど日差しが出て、太陽望遠鏡を何台もはしごしながら見せて頂いた。太陽を見るシステムは大変高価で僕にはご縁が無いが、どれもこれも見事な見え方だった。日出ル国に生まれ育っておいて、太陽を知らないなんて勿体ない。太古より八百万の神の頂に君臨する天照大御神様は、本尊のあちこちから巨大な炎が吹き出していて圧巻だった。
Fujifilm GFX100Sを持って行ってはいたが、今日もいつにも増して写真をやる気が無い(笑)ほぼiPhone。皆さんの愛機をもっと撮っておけばよかった。
この日は太陽観望と合わせて、僕にとってもうひとつ大きなイベントがあった。
人類が自動車を発明した当初、最重要項目だったはずの安全装置の理念、つまり3ペダルのクラッチ機構は、どんなに慌てようが正気を失おうが、前に進もうという明確な意思がドライバーに無い限り、決して誤って発進する事の無い極めて優れた安全機構だった。
しかし時代と共に当時の理念の記憶は薄れ利便性を追い求めた結果、2ペダルのオートマティック車が主流の現代では、不幸な事故が後を絶たない。
こうした退化の一面を併せ持つ事象はオーディオの進化の歴史でも散見されるが、当時の対物レンズと接眼レンズの設計思想にも、僕の知らなかった崇高な相互関係理念がかつて存在し、現代の正常進化の影で別の何かが失われている側面があるのかもしれないと思った。
僕などは安易に実視界の広さばかりに目を奪われ、視界の狭い古いアイピースにこれまで全く興味が無かったのだが、どういう訳かアクロマート対物レンズの色収差の欠点を補う、或いは緩和するオールド・アイピースがあるらしい。
僕の20cmF7は、幸運にも同じ対物レンズが同じ対象を向いて2本並んでいる。アイピース比較実験に双眼望遠鏡は実に都合が良いのだ。(^^) そこで、どのアイピースがこの対物にベストマッチかをじっくり実験させて頂いた。
その中に見事にアクロ対物の色収差が消え、高コントラストの美しい見え味を披露してくれるアイピースがいくつかあった。
Eliza 10倍 (25mm) 顕微鏡接眼レンズ
Carl Zeiss Jena P10/18 (25mm)顕微鏡接眼レンズ
五藤ハイゲンス25mm
Carl Zeissハイゲンス25mm
オルビィスあるいはスコープテックAH40mm
これらはいずれも相性が良かった。特にEliza 10倍、Zeiss Jena P10/18、五藤ハイゲンス等が頂上決戦を争う結果だったが、その中で特にアイレリーフも長く視野も広いCarl Zeiss Jena P10/18の左右ペアを、31.7mm変換スリーブと共にNickさんが安く譲って下さった。焦点距離の近しいMasuyama 26mmと比較しても、PowerMate x2と合わせてニコンNAV-12.5HWと比較しても、視野の広さは現代アイピースの圧勝だが、なんとコントラストも解像度も大昔のドイツ顕微鏡レンズが上回っているかも?狐につままれた気分。
これで月や惑星を眺めるのが今から楽しみだ。Nickさん、貴重なモノをありがとうございます!
シベットさんとNickさんから、これらのアイピースを沢山お借りして実験させて頂いたのだが、お二人の知見の深さに脱帽!実に様々な事を教えて下さり、僕にとっては今回のイベントで最大の収穫だった。
シベットさんによれば、今回は持って行かなかったCarl Zeiss 50/540は、現在世界的に枯渇していてアクロマートのリファレンス?とも言うべき優れモノなのだそうだ。それが二本もうちに転がっているというのに、なんという宝の持ち腐れ(笑)これで見る月が素晴らしいとは感じていたが、この像質を追い求め様々な実験や改造を繰り返される方がおられるとは想像していなかった。今度改めてそのつもりで覗いてみる。
Carl Zeiss Jena P10/18はZeiss 50/540とも相性バッチリの様で、図らずも対物も接眼もZeiss製となった。またベランダで酒でも飲みながら(^^)、当時の技術者達の哲学に思いを馳せるのもまた一興だ。
Zeiss 50 BINO(Carl Zeiss Jena 50/540)とCarl Zeiss Jena P10/18。
各所から抜けが良いと絶賛され、以前から気になっていたキタカル(北軽井沢観測所)さんのラベンデュラ・シリーズも一式お借りして、じっくりと昼間の景色を眺める事が出来た。一つひとつ手作業で組み上げているそうだ。いずれも上記オールドアイピースの頂上メンバーに肉薄する性能がある事が分かった。
キタカルさんの愛機。自磨鏡/鏡筒の20cm・F10ニュートン反射 + EQ8赤道儀。カッコいい!!
今検討しているマクストフBINOはどうしても焦点距離が長くなり過ぎて、低倍率を出すために長焦点アイピースが必要になる。次の小遣いでラベンデュラ40mm or 50mmを注文させて頂く予定だ(^^)。
シベットさん、Nickさん、キタカルさん、この場を借りて深く御礼申し上げます!
一人ひとり機材紹介タイムが終わる頃には、また雲が広がってきた。僕も20cmF7 BINOについて少し喋ったが、緊張して何を喋ったかはよく覚えてない。(笑)この後、通り雨の可能性もありカバーをかけて雲間を待つ事にした。会場では様々なワークショップが開かれていていずれも興味深かったが、僕は今晩いつ晴れてもいい様に、ガッツリ仮眠する事にした。何時まで粘ったとしても8時の朝食に起きなければならないのだ。(^^)
夕食後いよいよ、星が見えてきたと誰かの報告に、会場に歓声が湧いた。
僕の隣は、天文雑誌等で昔から執筆されていたり、この世界の有名人の津村さんが50cmドブソニアンを広げていた。あっと言う間にクルマから望遠鏡を下ろして、速攻で観望開始出来るスタイルが確立されている。僕がアライメント失敗?したりしてモタモタやっている間に、雲間を縫って短時間に次々と手動導入して行列の方々に披露されていた。
とにかく今見えるものは何でも見せる。刻一刻と移動する雲の切れ間から、見えそうな対象を即座に導入する引き出しの多さ。なるほど、これが大ベテランの御技だ!
スターフォーレスト御園には所狭しと望遠鏡が並んでいた。まさに天文の聖地だ。2F?のドームに60cm望遠鏡もあるらしいが、僕は立ち入るのを忘れた(^^)
近くにTSA-120の方もいたし(想像より大きかった)、TOA130 BINOや、巨大な30cmフローライト屈折!や60cmオーバーのドブソニアンや憧れの反射双眼望遠鏡など、僕も覗いてみたい望遠鏡だらけなのだが、振り返ると僕の20cmF7 BINOにも行列が出来ている(^^)。
早く何かを見せてあげたいと焦ったが、薄雲がかかっていてM51も106も101もイマイチ。球状星団はまあまあだったが、それよりもセッティングにモタモタしていて、星が顔を出した賞味一時間のタイムリミットの中、20cm双眼の良い所をちっともお見せ出来なかった。(ゴメンナサイ)
この空の条件でも津村さんの50cmでM51を見せて頂き、腕がはっきり見えて大口径は流石だった。その後、すぐにまた厚い雲に覆われてしまいその夜は再び雲間を垣間見る事は無かった。
この所、大勢で双眼望遠鏡をシェアする機会に何度か恵まれたが、双眼視をシェアする事の難しさを今回も感じた。
100円入れて眺める展望台双眼鏡は、日本人平均の目幅64mmに固定されているそうだ。行列が出来ている様な場合は、基本は64mm固定で痛み分けするのがベターではあるのだが、60mm前後の人や68mmオーバーの人はこれでは双眼視出来ない。
EMSの使い方をご存知の方にはご自身の調整に任せて居たのだが、その後に覗いて見ると、目幅ヘリコイドを片側だけで合わせようとして見口が上下にとんでもなくズレていたり、どう考えてもおかしいフォーカスになっていたり、光軸以前の問題で暗闇で慣れていない方が触ると大抵、とてもまともに双眼視出来ていたとは思えない状態で覗いていた事が分かる。これでは双眼の本当の素晴らしさをシェアする事は難しい。
EMSの調整は決して難しいモノでは無いが、きちんと使いこなすには明るい時間帯での練習と慣れは多少は必要だ。
マツモトさんのサイトより
目幅ヘリコイド式は単独遠征の場合はシステム全体の軽量化、高剛性化のメリットが絶大だが、目幅を変える度にピントの再調整が必要になる。大勢でシェアするシチュエーションではやはり手軽な鏡筒スライド式が必須と今回も痛感した。
アライメントしたのに対象が大きくズレる問題は、実際は間違えたのでは無く、観望エリアが愛知県だったので、基準となるGPS設定がそもそもズレていた可能性もある。普段は神奈川近県だけで観望していたので、そんな事にも帰宅後まで気付けなかった。さらにどうも見口の高さが合わずおかしいと思ったら、片側のニコンNAV-12.5HWのテレビュー見口ゴムキャップが脱落して、その辺に転がっていたトラブルなんかもあり、色々反省だらけだ。
30cmフローライト屈折望遠鏡のオーナー、眠り猫さんが、なんと葉山の観望会にこの300kgオーバーの巨大な物体を持って行きますよと仰って下さった。これは楽しみ過ぎる!お顔出しOKを頂いたのでご紹介。
チラっと覗きに行った時には、残念ながら全天曇ってしまった後で、何も眺める事が出来なかった。
これを翌日の昼までに撤収完了するには、明け方4時から撤収作業を開始する必要があるそうだ。汗 これを一台のワゴン車に全て積んで遠征するらしく、80kgの20cmツインで腰が痛いなんて言ってる自分の軟弱さを恥じると同時に、眠り猫さんの情熱に舌を巻いた。このピラーなどほとんどお台場に立っているガンダムレベルじゃないか。恐ろしや、、、
女性はもちろんだが天文フリークのおじさま達と出会う度に思う事がある。どの方も、ちょっと驚くほど皆さん本当にピュアで愛らしいのだ(^^)。特に、星や望遠鏡の話をお話されてる笑顔を思い浮かべるだけでこちらも笑ってしまうほど、本当に嬉しそうに一生懸命語って下さる。
ただ静かに、美しい星空に想いを馳せるためにこれだけのエネルギーと情熱を注ぐ方たちだ。宇宙愛はすなわち地球愛=日本愛=人間愛と多分同じ事だし、我々愛好家の天体観測は「美」の追求に他ならない。どの様な哲学や人生観をお持ちか聞かずとも想像出来るし、彼らが素敵な天文ライフを送る事を願わずにはいられない。
今回も貴重な出会いを沢山頂いた。天リフ山口さん、仲良くして下さった皆様、どうもありがとうございました!
追記(2023/05/24)
目幅機構について松本さんに相談していたところ、そう言えばもうひとつ面白い解決策があった事を思い出した。
松本さんのサイトより
これはAPM120SD等、市販の大型双眼鏡に採用されている方式とほぼ同一で、2回反射のEMSにさらに2回、計4回反射を許容する事が出来れば、手元で手軽に、1-2間を直感的にクルっと自分の目幅に合わせる事が出来る。この写真では実験のため簡易的なプリズムが使われているが、全て銀ミラーで対応すれば、追加の2回反射の影響などほとんど考慮しなくて良いのではないか。(それよりマクストフ純正の2回反射面の方が気になりそう)
この時の光軸調整は下向きの第一ミラーで行うが、通常のEMSとの決定的な違いは極端にXYノブをいじっても像の回転が生じない。2と3は一体型固定で使用するので、光軸のシステム全体がとてもシンプルに完結する。
重量が嵩む大袈裟な鏡筒スライド機構も不要となり、松本さんの極めてシンプルな中軸架台のアリミゾに鏡筒を直接セットするため、システム全体の高剛性化、軽量化を実現しながら、子供でも操作出来るほどシンプルに目幅問題をクリア出来る。しかも目幅調整の際の光軸移動も恐らく他のどのシステムよりも極小だろうし、低い位置にアイピースをセットするため、大型のアイピースに交換しても天地バランスの変化が緩和される副作用まである。
随分前にこの仕組みを教わってはいたが、これは真剣に検討すべきアイディアと今更ながら気がついた。