2020年10月22日 イチロー

APM120 双眼望遠鏡で遊んでみた

また新しいオモチャが届いた。(^^) 平たく言えば、天体向けの双眼鏡のお化けだ。宇宙を眺めると聞けば「は?何のために?」と思われるかもしれないが、それは何のために写真を撮るのか?と問う事と同じで、我々は何か「得」をするために生きている訳でもない。(そういう人も居るが)

究極的には人生の醍醐味は「感動」がキーワードと僕は思っているし、天体観測はあらゆる人間の創造活動と同様の「美の追求」であり「感動体験」に他ならない。今日はちょっと畑違いだが、肉眼で眺める天体の世界を少しご紹介したい。

僕は天体写真はやらないが、ハッセル45Pを空に向けてISO12800でテキトーに撮ってみた。f4のレンズは夜空を撮るには全く不向きだが(^^)、とりあえずは何か写った。特に45Pはフォーカス回し切りで無限遠ピッタリにならず、何も見えない真っ暗闇に向けてのピント合わせはすこぶるムズい(笑)。天の川を挟んで上部にはアンドロメダ銀河、中央下には冬の人気観望スポット、二重星団が写っている。

我々現代人は宇宙との関わりをすっかり失い、自分たちが宇宙空間に浮かんでいる事を忘れて久しい。本来人類は何万年もの間、日が落ちれば天体に想いを馳せ、宇宙からの光を日常的に眺めながら過ごしてきた訳で、今は多分、人間にとってかなり不自然な環境だ。こんなに美しいアートがいつでも頭上に広がっているのに、これを知らないなんてもったいなさ過ぎる!しかも一昔前なら高嶺の花だった素晴らしい双眼望遠鏡の完成品が、今では随分入手しやすくなった。

望遠鏡でなくても、スワロフスキーやライカなど高級な双眼鏡を覗いた経験がある人なら分かると思うが、素晴らしい光学系は息を飲む様な驚きがあるし、天体だけでなく地上風景に向けてもそれは文字通り感動モノだ。ひとたびその光景を見てしまえば、二度と安物の双眼鏡に戻れなくなる常習性がある。

僕が購入したAPM120SDは、12cmEDアポクロマート・レンズのツインで、90°対空接眼部を装備し、天頂付近でも無理の無い姿勢で眺められる。アイピースを交換する事で事実上、無制限に倍率を変更出来る。(光軸が許す限り。)これまで口径10cmオーバーのAPOレンズでこの様な双眼システムを組む場合、世界的に有名な鳥取の「メガネの松本」さんにオーダーメイドをお願いして、一本100万円とかの鏡筒を2本揃える必要があった。

そんな一部の人だけに与えられた超贅沢品だったものが、既製品で100万円を大きく切る価格で利用出来る時代になった。

僕の望遠鏡の履歴は、13cm反射単眼 → 松本さんの10cmアクロマート双眼 → 中国産8cm3枚玉アポ双眼 → 自作7cmフローライト双眼を経験した。双眼機構の肝は全て松本さんが開発したEMSだ。

EMSとは2回のミラー反射のみで大きな望遠鏡の目幅から人間の目幅に変換し、同時に90°対空の正立像を実現するアタッチメントで、これにより二本の望遠鏡並べて双眼視する改造が可能になった。従来のプリズムに比べ像質劣化や光量低下が格段に少なく、EMSの出現により双眼望遠鏡のカテゴリーが本格的に開花したと言っていい。

左が10cmF5BINO。もう何年前の事だろう、松本さんが使用されていた所有物を譲って頂いたのが、僕の双眼望遠鏡との出会いだ。右がその後、松本さんに新調して頂いたBlanca 80EDT BINO。

最近まで所有していた自作Borg71FL BINO。自作と言っても、松本さんの主要機構の他、市販のアルカスイス・パーツを工夫して組み合わせただけだ。Borgのフローライト・レンズと松本EMS銀ミラーとの組み合わせの抜けの良さは特筆モノで、鮮烈極まりない見え味だった。どれもこれも思い出深いが、いずれもカメラなどを買うために手放してしまった(^^)。もったいない事をした。

ちなみに松本さんのサイト内のEMS商品写真の多くは、僕が以前撮影させて頂いたものだ。

カメラは何で撮ったか忘れた(^^)。Sony α7だったかな。

望遠鏡と言えば一般的なイメージは片目観望だが、両目で覗く事がいかに自然で快適な事か、一度体験すれば誰でも納得出来る。やはり単眼ではよく見えないし、そもそも片目じゃ見辛くて長時間見ていられない。両目で見る事で左右脳で補完し合い、実際の集光力の理論値よりもずっと明るく、大きく見える。1.6倍だったかな?まだまだ双眼望遠鏡は一部のマニアの道具だが、今後ますます双眼視が主流になっていくはずだ。

最初は集光力重視だったのが目が肥えていくにつれ、像質重視、お手軽な小型BINOに変わっていった。しかしやっぱり大口径レンズで、遥か彼方の深宇宙をもっと良く見たい!という願望が再び強くなり、でも像質は落としたくない、でも超高級品は無理!という事で、APM120SDは完璧なソリューションだった。

12cm口径の集光力は肉眼の293倍、極限等級12等だが、その二本分の集光力 ✕ 左右脳内コンポジットの威力は、体感的に倍の口径を凌駕する。

APMはLeicaと同じくドイツメーカーだが、APM120SDは日本製OHARA FPL-53特殊EDレンズを使用している。僕は元々、望遠鏡は国産フローライトが最高と思っている派だが、それに匹敵するらしい。

日本の代理店、国際光器さんのおはからいで、僕がオーダーしたAPMが届くまで、なんとご親切にデモ機を送って下さった。当面使ってて良いと言われる。国際光器さんの懇切丁寧な応対に頭が下がるばかりだ。心より感謝申し上げます!

国際光器さんのAPM120SDのページ

デモ機は日本製SDレンズでは無く、次期販売予定のセミアポと呼ばれる廉価版だが、それでも地上風景も天体も十二分に感動的だった。背景が明るい空で木々を覗く意地悪なシチュエーションでは、周辺にパープルフリンジが確かに出る(^^) 月や惑星など明るい天体も色は付くが、でもそれ以外ではセミアポでも像質に全く不満を感じなかった。もちろんSDレンズと見比べればいろいろあるだろうが、そんな細かい事よりも人間の目幅を大きく超えるため、APMに限らず双眼望遠鏡の立体感は凄まじいものがある。

山梨県の乙女高原は、紅葉が美しかった。APM120(x37)では、遠くの木々の先端に実った木の実や、その付近に舞う羽虫を物凄い解像度で観察出来る(^^)

一般的な12cmBINOと比べれば、APM120SDは圧倒的に小型軽量なのだが、そもそも12cmツインともなると一般的な双眼鏡のイメージとかけ離れた、巨大なダンボールが届いてビビる。APMには15cmモデルもあるが、その大きさと重量は恐らく洗濯機並で(^^)、一般的なマンションや賃貸の日本家屋で保管する事や、乗用車で運搬する事を考えれば、余程思いつめない限り12cmが限界サイズと思った。(12cmでも既に家族はドン引きだがw)

APM120SDの重量は10kg弱あり、アイピースx2、鏡筒が向いてる位置を示すiPad、専用の架台も5kgオーバーで、それらを合わせると耐荷重25kgのGitzo 4型三脚(GT4552TS)でも限界に近い積載量だ。

望遠鏡の種類により使用目的は異なる。200倍を超える倍率で主に月面散策や、火星や土星など小さいモノを拡大して観察するのに特化したやつ、大砲の様な巨大な反射式で、深宇宙に点在する星団や星雲、銀河など、肉眼では暗くて見えない淡い天体の詳細構造を観察するモノ、APM120はリッチフィールドと呼ばれる30倍〜程度の低倍広角双眼で、天の川流しや、星雲星団の美しさを肩の力を抜いた感じで楽しむものがある。

通常、望遠鏡の視界は倒立像や裏像になるため、視界を右に移動するには鏡筒を左に動かす必要があったりして、ここが目的の天体の導入を難しくしている要素の一つで、地上風景を眺めるのに望遠鏡が使われない理由でもある。双眼のリッチ・フィールドビノの最大のメリットは、一般的な双眼鏡と同じ肉眼で見たままの成立像であり、人間工学的にとても自然で快適だ。快適だからじっくり宇宙を散策出来る。

リッチフィールドBINOも12cm双眼ともなれば、暗く淡い天体も守備範囲は広く、付属のUF18mm 65°アイピース(37倍)でも月面のクレーター観望などは十分に面白い。初心者に見せるなら月面が一番で、おおお!と皆、感嘆の声をあげる。(^^) 100倍程度までは光軸が耐えられる仕様との事で、ちょっと無茶して5xバローレンズで183倍でも試してみたが、非常用としてはなんとか使用に耐えそうに感じた。いや、セミアポではちょっと厳しいかな、、、

火星や土星を観察するには最低150倍くらいは欲しいが、そもそも観察出来る太陽系の惑星は数個しか無い。一方、ディープギャラクシーの場合は観望対象が数百、数千個ある。僕はそれほど惑星に興味は無いのだが、時々ちょっと見たい事はあるし、友人に見せるとなるとやっぱり木星や土星が喜ばれる(^^)。たまに見るだけだが、国際光器さんに150倍程度まで耐えられる調整をお願いした所、使用アイピースを預ける条件で、快く引き受けて下さった。

ちなみに、100倍が見れます!みたいな倍率を売りにしている安物の望遠鏡は、本当のゴミなので決して買ってはいけない。100倍以上が必要なのは惑星など一部の天体だけで、深宇宙の面白いオブジェクトの大半は、40倍〜70倍程度がメインになる。しかも倍率はアイピースとの組み合わせでどうにでもなるが、物凄く暗くて汚い像が一応見えるのと、言葉を失い目を離す事が出来なくなる衝撃体験とは、天と地ほどの違いがある。

望遠鏡の倍率よりも、見掛け視界が広かったり、ブラックアウトしにくい余裕のあるアイレリーフを持つアイピースの方がずっと重要度が高いし、レンズの研磨精度などスペック上に現れにくい事の方が、大人が本気で楽しむには大切だったりする。精度が高いレンズはレンズを眺めている事を忘れて、素敵な映画を見ている様な体験が出来るが、残念ながらチャイナ・レンズではそれは難しい。

もし子供に望遠鏡を買い与えるなら、スコープテックがコスパ最強だ。初めて使う望遠鏡がゴミで、それっきり天体をやめてしまう様な悲しい体験を誰にもさせてはならないと、強い情熱を持って制作されている。大沼社長の誠実なお人柄が、その商品に完璧に反映されている。

 
 
 

夜空には面白いモノがたくさん浮かんでいる(^^)

これらはSkySafariという神アプリの画面だ。望遠鏡を向けた先に追従してくれる最強のガイドで、鏡筒の焦点距離とアイピースの焦点距離を設定して、実際の視野円に天体がどの様に見えるかまで正確に分かる。天体マニア御用達アプリだ。

SkySafariを利用した導入システムを実現するために、垂直軸と水平軸のエンコーダーを装備した架台と、それらを接続しiPadとWifi接続するNexus2システム一式が必要になる。Nexus2はバッテリー内蔵で、接続は非常にシンプルでカンタンだ。

宇宙空間を迷子になりながら、星の並びを辿って探すのに今までは散々苦労してきた。このシステムに頼ったら最後、もう自分で導入は出来なくなりそうだ。(^^) iPadを見ながらサクっと行ったり来たり、次々と一時間に何十個も導入出来る。カーナビに一度慣れてしまうと、自力で地図で調べる気力が失せるのと同じだ。

この写真はNASAから借用したペルセウス座の二重星団。まさに宝石箱をひっくり返した様なメジャーな天体だが、写真ではNASAでさえその感動を伝える事は難しい。反対に、写真の様に見えずガッカリな暗い天体も多いが、両目で50倍程度で視界いっぱいに眺めるそれはド迫力だ。まるで目的の天体のすぐ側まで接近して、宇宙船の窓から覗いている様な錯覚に陥る。

この写真を壁一面に引き伸ばしたら、もしかしたら近い感覚になるのかな。

こちらもどこかのサイトから借用したM37。僕は70倍程度で眺めるM37が大好きで、その淡麗でひっそりとした佇まい、いつも静かに、控えめに居る感じがイイ。肉眼で見ると全体的にもう少し青く淡く、女性的だ。ネットでみつけたM37写真はどれもその良さがなかなか伝わらないのはなんでだろう。実際の生の光を直接見ている事に価値がある?生の光と言っても、対象によっては200万年前の光だったりするが(^^)

国際光器さんオリジナルの専用架台、ブルドッグ2は前後天地完全バランスを達成していて、クランクノブをユルユルにしていてもフリーストップで実に快適だ。自作の時はこの辺りに非常に苦労した。ただ架台自体が結構な重量があるためか、デモの個体は水平回転軸がやや渋く感じられたので、自分のモノが届いたらグリスなどで調整してみたい。

架台は市販のカメラ用三脚に直接乗せるだけで、エレベーターや延長ピラー無しでほぼ天頂まで向ける事が出来る。三脚の足を少し気にすれば完璧な天頂も問題無かった。恐らく天頂付近の死角はゼロと思うが、どうしても困ったら地球の自転で15分待てば相手が移動してくれる(^^)。

iPadホルダーは、アマゾンでみつけたステーをちょっと工夫するだけで、架台に取り付ける事が出来た。

APM120SDは一般的な31.7mmサイズアイピースに対応しているが、現状では複数所有している広視界の2インチアイピースが活かせない。わざわざスペックダウンするためにアイピースを全部買い換えは結構キツイし、広角低倍が魅力のリッチフィールド・ビノなのに2インチが使えないのはもったいない。メーカーさんは、アイピースサイズをユーザーが選べる様にして欲しい。

しかもメーカーは推奨していないが見掛視界100°のイーソス13が、うまくすればどうも合焦しそうなのだ。Swan33mmもピンが来るのは間違いない。

現在、本国メーカーに接眼部を2インチフォーカサーに置換してもらえないか問い合わせ中だ。(15cmモデルは2インチなので、仕様的には可能と思われる。)多少ケラれても良いので、これが実現すればこの点でAPMを躊躇していた双眼ファンにはちょっとしたニュースになる。

それからブルドッグ2架台にはなぜかハンドルロッド(パン棒)のオプションが無い。これが無いとボディ本体を直接押したり引いたりする訳だが、フォークマウントの台座の凹みとAPMボディ側の台座のサイズに若干の遊びがあり、ビノを結構固く固定しても架台の遊びの中でカクっと泳いでしまい、エンコーダーとskysafariとのズレが生じる原因となる。

ハンドルロッドを架台に接続すればさらに快適に使えるはずなので、この点は自分で改造してみようと思う。ビノテクノさんに、ハンドルロッドの単体販売がある様だ。

あとは本体天面の持ち手ハンドル位置に若干問題があって、普通に持ち上げると物凄く対物側にバランスが偏り、片手で持ち上げると僕の手首のグリップ力ではレンズが真下を向いてしまう。左手の支えが無いとフードを床にぶつけてしまいそうで、重量が重量なだけに危険だ。ハンドル部はビデオカメラ用など社外品に交換してバランスを見直そうと思っている。

気になった点はあとは架台が重いくらいかな(^^)、これも板面に複数穴空け加工して多少軽量化出来ないか企み中だが、いずれにせよ12cm国産アポ・ツインで、この重量とこの価格。このビノはハイランダーで口径不足に悩む層や、EMSビノの光軸調整が面倒に感じるお気楽ユーザー達にとって孤高の存在なのに変わりは無い。

いつもお世話になっている、山梨県乙女高原の金峰山荘。オーナーの水上さんは仏の様なお方で、そのお心配りに毎度行く度に日本人で良かったと思う(^^)。標高1500mあり、乙女高原は東京からアクセスが近い、ベスト天体スポットの一つに数えていい。

星をやる人は何故だかみんないい人ばかりだ。望遠鏡を持っていなくても、新月の週末に遊びに行けば広場にズラっと並んだ望遠鏡でみな親切に見せてくれるはずだ。

今後は当面、新月近辺が忙しくなりそうだ(^^)