これね、ずーと気になってた鏡筒。と言うのもFPL-53二枚玉15cmアポという事でフローライトに匹敵する星像の鋭さとコントラストの高さをもってして、もしかしたら系外銀河などのDSO視認に対しても20cmアクロマートに迫るのではないか?或いは凌駕するのか?という疑問の答えをどうしても自分の目で確かめてみたかった。
笠井さんは値上げする一方。今ではこの実験をするためには2本で120万円の費用がかかり、同じOEMと思われるTS-Optics Doublet SD-Apo 150も、極端な円安でケツの毛まで抜かれて鼻血も出ない(^^)。そんなある日、当ブログにお声がけ下さったオオカミ王ロボさんが150SED BINOをお持ちだと言われる!早速、翌週の新月に観望をご一緒出来る事になり、とうとう15cm vs 20cmサイドバイサイド比較実験の夢が叶った。(ありがとうございます!)
念の為注釈しておくと、深宇宙の対象(DSO)の視認において、アクロマートでも十分楽しめると言うのは常識で、そこはもちろん僕も賛成だ。(実際に2年間、僕もアクロで超楽しんでいるw)特に低〜中倍率ならアクロで十分と思っている。
ただ、あまり言及される事の無い、アポクロマートの特性がDSOの視認にどれほど優位性を発揮出来るのか、わざわざDSOのためだけにアポを選択する価値があるのか、それとも本当に優位性はDSOにはほとんど無く、月面や惑星のためだけのAPOなのか。
このあたりの真実を自分の目で確かめてみたかった。特に射出瞳1.0〜1.4mm辺りのM51や104、81、82の強拡大など、惑星と同様、100倍オーバーで見る銀河には、収差の少ない高コントラスト鏡筒は、銀河の腕や星雲の詳細構造の視認に極めて有効な、そんな気がしてならないのだ。単なる変態マニアの興味だ。笑
ちなみに僕は今は20cmの方のオーナーだが、心の中で自分の道具が勝って欲しいとか、そういう優越感の類のつまらない希望はゼロだ。むしろ15cmアポが肉薄、或いは20cmアクロを凌駕してくれた方が、ネタとして面白いと思っているが笑、いずれにしても客観的な事実を知りたい。
山梨県乙女高原は琴川ダム湖岸広場P、標高1500m。夕方5時ごろ集合して、マイナス13°の吹きさらしの駐車場でオッサン二人で朝の5時まで12時間観まくった。笑 1歳しか違わない同年代の彼も決して、もう帰りたいとか寒いとか言わない(^^)。朝の4時過ぎに、僕の方が疲れてきて音を上げた。我ながらクレイジーな二人だが、僕に負けない情熱家の御仁に出会えてかなり嬉しい。(^^)
150SEDの最初の印象は、お世辞抜きにカッコいい!そして、マジでデカい(^^)。特に二本並ぶと圧巻で、写真では伝わりにくいが間近で見ると凄い迫力だ。かく言う20cmももちろんデカいのだが、剛性の高い市販の15cmF8は、限界の軽量化を試みた手作り20cmF7とほとんど見た目のインパクトが変わらない。垂直回転軸が20cmの方が低い事もその印象を助長している。
ただ見た目とは裏腹に、1本11kg(9.8kgでした)という150SEDの重量は、持たせて頂いたが意外とあれ?こんなもん?という感じで、肩の高さの架台に乗せるのも特段負担に感じなかった。見た目から想像するよりも軽いからだと思う。バラバラにした20cmを毎回組み立て、バラすより格段に楽そうだ(^^)。これなら日常的な遠征も全然OKと思った。
この重厚な二本を乗せる架台はSkyWatcher EQ6だったかな?経緯台モードのGoToで使用されている。(彼の主戦場は惑星だ。)EQ6の上に自作のフォークマウントを組まれていて、ロボさんの工作技術が素晴らしい。EQ6+フォークの重厚感、サイズ感は20cmツインを乗せているTTS160以上で、TTSがやたら細くスマートに見える(^^)。
20cmF7は今日はTTSには乗せているだけで、実際は完全手動のPushToモード。水平エンコーダーと傾斜センサーAAS-2で鏡筒が向いている方向をiPadのSkySafariと同期しているシンプルな構成。
今晩はどういう訳かEQ6のGoToの導入精度が思わしくないらしい。彼が一つの対象の導入に手こずっている間に、こちらはひょいひょいフリーストップで近所を6箇所くらい見て回れる(^^)。ただ、新調したNAV-17HWとマスヤマ32mmが余りにも重量差が有りすぎて、交換の度にバランスを取り直すのが面倒だ。一長一短。
15cmが乗っている三脚は、憧れのSP400-MORE BLUE G50-PRO-STD 大型カーボン三脚「スペシャルエディション」。写真のイメージより太くて重厚。これなら15cmツインでも問題無さそうだが、持ってみるとやはり驚くほど軽い。欲しい、、、。
さて肝心の結果は、ここからは僕の現地のレコーダーによる録音メモと拙い記憶を元に、二人の会話のやりとりを出来るだけ正確に実況中継形式で書いてみる(^^)。
150SEDのアイピースのメインはMorpheus 12.5。(同じF7辺りを狙って途中からレデューサー的なレンズを入れた。)20cmF7はほとんどニコンNAV-17HWで、多くの天体を比較した。時々、ニコンNAV-12.5HWも使った。
h+χ(エイチカイ)二重星団
「20cmは微光星の数が違いますね!」
「20cmを見た後だと15cmは少し寂しく見えますね。(恐らくF8の射出瞳がそうさせているので、倍率を少し下げると15cm本来の魅力を引き出せそう。)」
「点光源はやはり口径の威力が大きいですね。」
M37(散開星団)
「こちらは割と互角ですね。」
「確かに。両者違いを感じません。ちょっと20cm+ニコン17mm(82倍)は倍率が高すぎますが。」
「星像の小ささは、アポは鋭くて気持ちがいいですね。でもアクロマートが肥大しているかといえば、眼視においては先入観ほど違わないとも思いました。」
「それにしてもモーフィアス、めっちゃ覗きやすいですね!これはいい(^^)」
Pon Brooks彗星
「良く見えます!尾まで薄っすら見える。かなり低空だけど。15°以下しか無い」
(あれ、これは15cmで見たっけな?w)
M42(オリオン大星雲)
「これは勝負あったんじゃないですか?20cmの詳細が見え方が凄いです。」
「確かにこの倍率で見ると拡大率も違いますから、迫力ありますね。15cmの倍率を上げて見てみませんか?」(アイピース変更)
「あれ?同じくらいの倍率で観ると、15cmも近づいて来ました。」
「ほんとだ!肉薄してるんじゃないでしょうか。」
NGC2903(しし座の鼻先の銀河)
「結構でかくて面白い!腕が見えそう。初めて見ました!」
「15cmでも少し倍率を落とした対象をしっかり視認出来ますね。」
NGC3395,3396(衝突銀河)
「シミは見えた。マスヤマ32では二個分離して見えない。17mmで分離して見える。そらし目で。」
(15cmではどうだったかな、、、汗)
NGC4038(アンテナ銀河 からす座)
「ケツが2つに分かれているのが見える。望遠鏡を揺らすとそれが心眼で無いと分かる。」
「15cmでもそらし目で分かれてるのが視認出来るが、20cmはアイピースを覗いた瞬間に、居たと分かる違いがありました。」
NGC4485、4490(コクーンギャラクシー まゆ銀河 りょうけん座)
「17mm 二個がハの字に分離してるのがはっきり見える。結構面白い拡大率もいい」
「分離してる。めっちゃいい」
「あれ、20cmツイン、僕の40cmドブより見える気がする、、、ミラーしばらく洗ってないからかな笑」
「M106もいいM51も腕が見える。15cmだと焦点距離の違いでやや小さく暗いかな。」
「M101 結構高度が上がってきた。17mmで腕が見えそう。割といい感じ」
「シーイングがさっきよりだいぶ良くなって来た!」
基本、僕からは先に感想を言わずに、ロボさんのお言葉を聞いてから僕の感想を述べるよう心がけていたのだが、ロボさんの客観的な判定が実に正確かつ公平で、全ての判定で僕も同意だった。
他にも沢山見た気がするが、数日経つとほとんど忘れてしまって記憶が怪しい笑 オオカミ王ロボさん、何か覚えていらっしゃる事、誤り、異論がある点などフォローお願いします!笑
しかし数時間見比べまくっていたが、だんだんどっちでも良くなってきた。笑 どちらのBINOも最高に楽しいのは間違い無い。
M42眼視のイメージ。Askar 120APO。Stacked69_M42_3_0s_Bin1_585MC_gain252_20240314
僕が知りたかった答えとしては、DSOの視認性においては、アポだからと特別に星雲・銀河のコントラストが明瞭になる感じはしないかな?と思った。それよりも射出瞳径が許す限り、対象を大きく見る事の方が視認性にとって重要度が高いと思った。
恒星と違って星雲や銀河などの面光源は、口径の差に寄らない場合が少なくない。例えば20cmで見えない場合、見えない理由が暗すぎて(背景とのコントラスト差が低すぎて)見えない場合は、60cmドブでも見えない。暗さプラス小さくて(細かすぎて)詳細が見えない場合は大口径(長焦点)で格段に見やすくなる可能性がある。
20cmの視認性が高いと感じる対象はいくつかあったが、つまり20cmの方が同じ射出瞳で倍率が高いので視認し易いという事を恐らく意味していて「勝負あった」と彼が表現したM42も、対象に光量があるので射出瞳を落とすネガがほとんど問題にならず、15cmの倍率を20cmと同等に上げる事で肉薄したと感じたのではないか?
彼の総括的なまとめは、概して視認限界に近い暗い対象は、やはり口径5cmの違いは凌駕するどころか、追いつく事も難しいというものだった。と言う事は、DSO散策がメインの場合は、同じ予算なら口径を妥協して高性能レンズを選択するよりも、アクロマートで良いから口径優先というのは、これまでの常識の通りの結論と言えそうだ。
NGC4038(アンテナ銀河 からす座)Askar 120APO. Stacked34_NGC4038_10_0s_Bin1_585MC_gain450_20240310_235706.
ただ、帰ってこのレポートをまとめながら、もう一度じっくり考えてみる。僕にとっては貴重な経験だったのは間違い無いが、二人のやり取りを改めて眺めてみると、なんだかアスリートの競争の様な捉え方をしてしまっている事に気付いた。現代に生きる我々は日々、スペック競争、広告競争の渦に巻き込まれ、もっと大切なモノを忘れかけている事に、今更ながら気が付いた。
眼視による天体観望は、望遠鏡とアイピースの組み合わせが織り成すアートだ。その日その場所でその道具でしか見る事の出来ない、かけがえのない生の光の造形。アートに正解は無いし優劣も無い。その美には無限の楽しみ方があるはずだ。
僕は先月12cm鏡筒を買ったが、それは20cmとはまた違った趣を味わいたいからだ。ただ見える、見えないだけじゃなく、それぞれの鏡筒でそれぞれの対象をさらに美しく引き立たせる魅せ方を工夫し、今自分たちが考える「素敵」な解を照らし合わせた方がもっと面白いし、もう一歩踏みこんだ至福の観望体験に至るのでは無いかと、改めて思ったりもした。
と言う事でロボさん、ちょっと作戦を立てて、もう一度やりませんか?笑 15cmのスイートスポットをもっと活かした使い方を模索してみたいし、APOに見慣れるほど眺めてからアクロを覗けば、また違う感想になるかもしれない。
と言うか、一晩ビノを交換しませんか?^ ^
wikipediaより、NGC5139オメガケンタウリ。
だんだん比較も飽きてきて、途中から純粋に観望を楽しんだりした。
特に印象に残ったのは、この2つ。
M57(久しぶりにリング星雲 こと座)
「ちょっと20cmで見て下さい!リング星雲、色付きで見える!」
「ほんとだ!青いです!しかしよく見えますねえ、クッキリハッキリ。」
「あ!15cmでも色つきだ!」
「はっきりと色がついて見える。キレイな水色に見える。外側は黄色と言ったらちょっとあれかなあ、まあでも濃い部分は周囲の星と比較すると明らかに水色。こんなに色が見えたのは初めてなので、17mmアイピース射出瞳2.4mmというバランスが絶妙なのかも。」
NGC5139 オメガケンタウリ
「初めて見た!クソデカい 17mmでも視界いっぱいに密集してる!」
「ヤバ!星の密度感半端ない。」
乙女高原のいつものキャンプ場からは見えないので、これまで一度も見ようとした事も無かったのが、すぐ近くの湖の駐車場は南が開けてて余裕。100°アイピースの視界の真ん中60%くらいを巨大な球状星団が覆ってる。(17mm、1.24° 82倍 EP=2.4mm)高度10°以下の低空なのでコントラストは淡いのだが、今宵一番の度肝を抜かれた光景だった。
M4さそり座
「オメガケンタウリを見たあとではめっちゃ寂しい。まあ単体では結構立派な球状星団と思うけど、割とまばらに見える 小さい。小さくないけど。」
そして夏のいて座付近を一通り散策してから、マイナス14°の楽しい宴をお開きにする事にした(^^)
オオカミ王ロボさん、さぞお疲れの事と思いますw。体調を崩されませんよう。途中、大沼さんのお宅で温かいお茶をご馳走になった。お二人とも、どうもありがとうございました!(^^)