中口径のEDレンズ双眼が欲しいと思い始めてから約2年、紆余曲折を経てようやく実現に至った。最高級レンズである必要はないが、ちゃんとした基本性能があって、軽量でコスパの高い鏡筒を物色していたが、Askar APOシリーズの登場により一気に進展した。
製作はもちろん鳥取のメガネのマツモトさん。今回も色々と無理難題をお願いしてしまった。(^^)
- 無塗装のシルバーEMSが欲しい。w
- TPOに応じて中軸架台と、目幅スライダー台座の両方に乗せたい。
- 専用鏡筒ケースにEMSを装着したまま収納したい。
- できれば操舵ハンドルも鏡筒一体で管理したい。
- 月面散策ツアー2024に間に合わせたい。
しかし彼は今回もいずれも完璧なソリューションと共に、超特急で文句無しの双眼望遠鏡を製作して下さった!ありがとうございます!
松本さんの製作速報より。どんどん出来上がっていく速報を眺めるのが、至福の時間だ。(^^)
鏡筒バンドの底面を16mmカットして頂いた。それによりD=179mmを達成した。何故Dを可能な限り小さくすべきかと言えば、人間の目幅に向かう光路の横移動を最小限にする事で、EMSの第一ミラーに当たる光束を可能な限り小さくするためだ。そのためのあらゆる創意工夫が、この架台にも盛り込まれている。
今回は鳥取には鏡筒バンドと片側のフォーカサーだけお送りしたので、松本さんは本体を一度も触る事なくこのBINOを完成された。
10cmアクロ、8cm3枚玉、7cmフローライト、20cmF7に5cm Zeissと続き、僕にとってこれで6台目のEMS双眼望遠鏡となる。プリズム双眼のORION 10cmとAPM 12cm完成品を含めたら8台目かな?思えば随分と沢山素敵な体験をさせて頂いた。そのほとんどで松本さんにお世話になっている。いつもありがとうございます!
Askar 120APO BINOスペック
120mm口径、焦点距離840mm、F7の120APOの重量は本体が5.7kg、鏡筒バンド+ビクセンアリガタ込みで6.5kg。ちなみにFounder Opticsの10cm3枚玉、FOT106の重量が6.7kgとの事で、重厚な10cm鏡筒と変わらない。
ここから松本さんの改造が加わり、純正の10cm延長筒、2インチアダプター撤去して、代わりに90ΦのEMS接続アダプターを追加。鏡筒バンドを16mmカットx2で、ちゃんと測っていないが一本6kgと仮定する。EMS-UXL目幅ヘリコイド付きが1本1kg程度なので、アイピース無しで鏡筒一本7kg、BINO本体重量はトータルで14kgとなる。
重量級アイピースx2を乗せて一本約8kg x2、中軸架台2.4kg、松本式ハーフピラー1.5kgを加えると、三脚の負荷は約20kg弱となる。F7あるのに、以前所有していたF5.5のAPM120SD+ブルドッグ2経緯台と変わらない重量で収まるのは、中軸架台の恩恵が大きい。
僕の場合、10cm以下の双眼を散々眺めてきたので今回は12cmにしてみただけで、口径8cmや10cmでもこれと全然変わらない感動体験が出来る。FPL-53等の高級レンズを使うとどうしても鏡筒コストが上がってしまうが、近年のFPL-51の3枚玉シリーズはDeep Galaxyを見ても良し、月や惑星を見ても良しと中心から周辺まで申し分の無い性能がありながら、かつ圧倒的なコスパだ。2本揃えなければならない双眼望遠鏡にとても都合が良い。
Askar 103APOやSVBONY SV550にEMS-ULを合わせたら、さらなるコスパと手軽さで同じ体験が出来るので、口径などより兎にも角にも、もっと多くの人に双眼望遠鏡の快適な宇宙ダイブを楽しんで頂きたいと願っている。絶対感動するから。(^^)
他にも様々な便利オプションを作って下さった。Askar鏡筒は運搬ハンドルが長いアリミゾになっていて、これが無限の応用が出来て大変便利だ。松本さんも絶賛!アリガタにアルカスイス・パーツを接続する事で、iPadもここに固定出来るし、iPad自体をウェイトとしてスライドさせる事で、重量差の大きいアイピースのバランス取りにも使えそうだ。
写真は傾斜センサーを乗せる台座。ベルクロでセンサーを貼るだけ。
EMS-UXL
松本さんに無理を言って、史上初の無塗装EMSを製作して頂いた。ハウジングだけ先に送って頂き、自分で研磨して、中を墨塗りをしてからミラー組み立てのために返送した。しかしあまりの僕の素人仕事っぷりに呆れて、結局松本さんも仕上げの研磨をしてくださったらしい。笑
もちろん本来の目的は、本体表面の放射冷却率を下げて露点温度に到達する時間を引き伸ばす作戦だが、実際にEMSのミラーが曇ったのを確認した事は無い。(笑)単にシルバーEMSがカッコいいと思っただけというのが本当のところだ。このあとシルバーフィルムで鏡筒全体をホイル巻きにする予定なので、きっと似合うはず。
当初はピッカピカの鏡面仕上げを考えていたのだが、アルミの経年劣化でくすんでいくのもなんだが悲しいし、ガンメタの質感もカッコいいかな?と言い訳をしながら、面倒になって途中で磨きを放棄した。笑
大型のEMS-UXLにするのか、より軽量・小型のEMS-ULにするのかも、散々迷った。松本さんもかなりの時間ディベートにお付き合い下さったし、毒を食わば…のK-Nebulaさんにもご意見を伺ったりした。
南天ツアーにいつかこのBINOを持っていきたい意図でお願いしたので、とにかく軽量化を追求するのも意義ある選択だ。一方で、巨大な第一ミラーによる口径食の少ない圧倒的な低倍視界の明るさが、UXL最大のアドバンテージでもある。
途中までは、鏡面仕上げを目指していたが、やっぱりやめた。笑
一つにはNikon NAV-17HWが余りにも長くて重く、それを支えるEMSとしてULのサイズだと若干の不安があった事もある。
それにUXLなら将来的に15cm〜の鏡筒を追加した時にも応用出来るだろうし、何より、泣いても笑ってもUXLはもう残り10組ほどしか作れないのだそうだ。涙 松本さんは多くを語らないが、UXLの意義を世界が理解した時、手に入らなくなったこの大型EMSはプレミアが付く貴重品となるだろう。120APOはせっかく3.3インチのフォーカサーだし最後は、迷いなくUXLを選択する事にした。
天候とスケジュールがなかなか合わずに、実はこれでゆっくり星を眺める事が未だに出来ていない。風景を眺める限り色収差は皆無では無いし僕自身、アポクロマートの像を少々見慣れてしまっているが、その見事な像質は満足感の高いものだ。その恐ろしく明るい視界と常識を逸脱した立体感に、一般的な双眼鏡しかご存知ない方が覗いたら仰け反るレベルと思う。
(2024.04.26追記)
昨晩、満月の翌日に月を眺めるチャンスがあった。中心から70%より外側に月の輪郭を持ってくると緑の色収差が確認出来る。Masuyama 32mm、NIKON NAV-17HW、NAV-12.5HWのいずれも似たようなもので、70%より内側では偽色は見られない。80%かな?
昨日、Askar 120APO-BINOは歴史に残る名機ですね!というコメントを頂いたが、あくまでTSA120の半額程度のリーズナブルな鏡筒という事で、過度の期待は禁物だ。(^^) まあ、これらアイピースはいずれも限界を超えた視野を有する広視界アイピースなので、その分は多めに見てあまり細かいことは気にせず楽しむ方が幸せになれるだろう。
実は、片側の鏡筒の内側だけ無反射布を貼ってみている。ちょっとフードの外し方が分からずに、レンズを付けたまま作業してみたのだが、この作業によって内側のレンズに大量の埃が付着してしまい、いきなり対物レンズの内側に汚い拭きムラを作ってしまった涙。作業自体にリスクがあるし、左右を見比べてみると昼間の景色でもほんの僅かな違いしか出ない。何十枚もコンポジットしたら撮影では差が顕著になるかもしれないが、眼視用途にはやらなくても良いと思った。
マツモト式・中軸架台
左右から垂直回転軸に直接クランプする中軸架台は、大型鏡筒を2本搭載出来る架台として、僕の知る限り望遠鏡史上最小、最軽量と思われる。1本10kgオーバーの15cmF8 x2でも楽勝だそうだ。架台重量は一般的なフォーク架台の半分程度(2.4kg)だが、運搬の嵩張り方は1/5以下だ。これ以上に遠征に適したBINO架台が他にあるだろうか?
中軸架台のアドバンテージの一つは、一切の動力に頼る事なく指一本でスーッと動かし、止める事が出来る完全クランプ・フリーを実現する。大きなビデオ雲台に乗せて、天地アンバランスのまま巨大な油圧の力技でねじ伏せて運用しようとする(一部の)海外勢に対し、自然の摂理に抗わずに調和、共存する非常に日本的な思想がその根底に流れている。
リリース当初から様々な改良が加えられていて、中軸架台は既に成熟しきっている。どんなに振り回しても物理的に光軸に影響せず、鏡筒完全固定式の安心感は絶大だ。松本さん御本人は、分かる人だけ使ってくれればイイなんて言って彼のサイトでは重量すら記載が無いが(^^)、確かに通常のフォーク架台など実際に散々使った人こそ有り難みが身に沁みる製品だ。
欠点があるとすれば、鏡筒固定ネジと干渉するため高仰角に向けたまま垂直回転軸のクランプを締める事が出来ない(^^)。工夫すれば出来るかも?なので低倍で対象を導入して、その位置のまま高倍率アイピースに交換するような使い方には向いていない。まあ、水平エンコーダーと松本式傾斜センサーにより、望遠鏡がどこを向いているのか正確にiPadに表示出来るので、水平に戻してアイピースを交換してから、またヒョイと導入すれば終わりだ。
もちろん、鏡筒固定式なので目幅の変更はEMSに装備されるヘリコイドの伸縮で対応する。(ピント位置まで移動してしまう)EMSオーナー同士なら数秒で交代出来るが、大勢で双眼をシェアする用途にも中軸架台は不向きだ。
残念ながらこの地球の宝も、松本さんはもう作らないと仰っておられる。みんなで嘆願すればまた作ってくれるかも?
三脚足の位置によっては天頂はこの辺まで。まあ海外遠征ならこのくらいで妥協して、てっぺんの対象は待てば良いという考え方もある。
三脚に接眼部が接触し天頂に向かないので、当初の予定通りマツモト式ハーフピラーもお願いさせて頂いた。在庫最後の一本だった。
延長ピラー+ワンタッチ・アダプターでトータル24cmにカットして頂いた。中軸架台→ピラーアダプターまで、全て外径80Φのストレートとなる。現在製作して頂いている真っ最中。
松本式延長ピラーは径8cm、厚みが1cmもある。剛性は申し分無いだろう。
三脚
さあ、機は熟した!いざ、MoreBlueさんの大型カーボン三脚スペシャル・エディションをポチろうとして、!なんとまさかの完売、、、(泣)深い悲しみから2日間立ち直れなかったw。欲しいと思ったらすぐに手に入れないと、後になってはどうする事も出来ない教訓。
まあせっかくあるのだから、当面は手持ちの強化型ステンレス三脚を使えと、神様が教えて下さっているのだろう。もちろんステンレス三脚で全く不安感無くちゃんと使える。重いけど。(7.8kg)William Opticsの取り扱いが終了したが、同じOEMと思われるスマートなピラーがTS社から販売されていた。
これはピラー径が10cmなので、もしかしたら延長ピラー無しで直接中軸架台を乗せるだけで、天頂まで向くかもしれない。高さ950mm – 重量 8 kgと飛行機遠征には厳しいが、軽量カーボン三脚+24cmピラーより振動に強いだろうし、日常用途にはカッコいいし有りかもしれない。599ユーロ。(約10万円)
専用ケース
デフォルトで装着されている10cm延長筒を外したスペースに、EMSごと収納する事に成功!中のウレタンを切り刻みまくってやっと入った。丁度、ケバブを切る要領だ。ケバブ切った事無いけどw。
EMSを装着したままケースに収納することで、3枚玉のフロントヘビーをほどよくキャンセルしてくれてバッチリ持ち手センターに重心が来る。
鏡筒は一本づつ管理するので持ち運びも楽勝だ。組み立て、バラシもヒョイっと外してケースにしまうだけ。何の手間も無い。ああ、楽ちん(^^)
EMSアダプターに直接装着された操舵ハンドルが、収納時もEMSの保護カバーとなってくれる。EMSは中で壁に接触する事なく、まるで中空に浮いた状態の様に安全に運搬出来る。
望遠鏡を振り回す操舵ハンドルも、ウエイトなんか付いていると運搬には重いし嵩張るしいつも困るものだが、こちらは2点留めで剛性も完璧、長いポールも無く一切の無駄が無いため追加重量も最小限で、一体のまま運搬する仕様だ。たかがハンドル、されどハンドル。僕にとってこれこそまさに理想郷。
このハンドルのアイディアはAskarフォーカサーの品質あっての事らしい。シルキースムーズなだけでなく、ドローチューブの剛性が十分に高いために実現した。フォーカサーのノブを左右対称にするのも、4つの黒ネジを外して、ひっくり返して取り付けるだけの超カンタン仕様だった。Askarスキw。
汎用目幅スライダー台座
中軸架台で使用する時は鏡筒固定でEMSの目幅ヘリコイドを利用し、TTS-160(自動導入架台)に乗せる時は平置き台座に鏡筒2本乗せて、鏡筒ごとスライドさせ目幅の違いに対応する。一人で遠征する時は最小の荷物で済む中軸架台で、観望会など大勢でシェアする時はスライド台座と、なんと贅沢な仕様だろう!
これがまた斬新なスライダーで、これ以上の合理化は不可能と思える。アリミゾ台座に直接タイヤを付けて、45度の切り込みの入ったレールを走るため、仰角に関わらず常に一定の圧がかかる。旧来の重厚で複雑なスライド・メカを敢えて使わず、クレイフォード式フォーカサーと同じ原理で滑らかに大きな鏡筒が左右に移動し、ガタやバックラッシュが皆無という、実に松本さんらしい挑戦的な仕様だ。
さらに目幅リミッターまで付けて頂いた。二人で観望する際、広い幅と狭い幅でピンポイントで設定しておけるので、交代する際にさっと双方の目幅に瞬時に移動出来て大変便利だ。
月面散策ツアー2024
そしていきなりぶっつけ本番で、イベントでこの120APO BINOを使用した。昨年も開催した葉山芸術祭のツアーで、昨年は300人も来て下さった。外れものの僕が出来る、本当に数少ない社会への恩返しのつもりのイベントだ。昨年は20cmF7 BINOを出したので、金色の巨大なBINOのインパクトはあったが、お客さんに応じて細かく目幅を調節してあげる事が出来なかった。
まだ調整不足で最初の方が手間取ったが、初日の途中から徐々に安定していった。初日は60人の方に美しい月を見て頂く事が出来た。
月面散策ツアーについては、そのうちまた別記事を書いてみようかなと思っている。早くAskar 120APO-BINOの広視界で、満点の星空を流してみたい。
“We don’t stop playing because we grow old, we grow old because we stop playing.”
“年をとったから遊ばなくなるのではない。遊ばなくなるから年をとるのだ。”
by Bernard Shaw