ゴトン!と8kgのバッテリー・ケースが大きな音を立てて転がり、直後にそれに勝る音を立てて、ガチャン!と120APO-BINOがスライド台座ごと地面に落下した。ケーブルで接続されていたマツモト式AAS傾斜センサーも吹き飛んだ。一瞬、思考停止、、、。
しかし、起きてしまった事は仕方がない。暗くてよく見えないのでとにかく現状把握の前に、全ての荷物を室内に入れることにした。
場所は長野のイチローVillaのコテージ。TTS-160にマツモト目幅スライダーを装着、Askar 120APOツインを乗せている。ちょっと屋根の下に移動しようと、横着してBINOを乗せたまま、木の段差をゆっくり乗り越えようとした時だった。
機材を明るい室内に移動した。さて、何からどう確認しよう。左鏡筒は、美しい3枚玉が割れている最悪の事態になっているかも知れない。怖くて見れないので、とりあえず新しい缶ビールとベビースターを開けて飲み直すことにした。笑
鏡筒7kg x2 + スライド台座(多分3kg程度)で、約17kgの物体が架台から丸ごと落下したのだ。精密な光学機器がタダで済むはずがない。
すぐに松本さんにメールしようかと思ったが、まだ明け方の4時だ。しかも松本さんは当時入院中だし、思いとどまった。
恐る恐る確認してみる。スライド台座のビクセンアリガタには、BINOごと落下する事故を防ぐために、松本さんがスライド・ストッパーを装備して下さっていた。しかし今回はアリガタがスライドして落ちたのでは無い。固定していた部分のアルミが、2点留めの2箇所とも欠け落ちて破損して、接眼側が跳ね上がる形で、レンズ側に落下したのだった。なんと恐ろしいことか、、、
ところが!奇跡的に何もかも無事だった。外傷がどこにも見当たらない。左のフードキャップは、痛々しい汚れ傷?が付着していたが、拭いたら元通り綺麗になった。こんな事があり得るだろうか?
まさに文字通りの不幸中の幸いだったが、いくつか要因が思い当たった。
- 地面が木の板だったこと。しかも中空のコテージなので木がたわむ状態。
- フードを伸ばした状態で、対物レンズ・キャップを締めていたこと。そして120APOのキャップが金属製で、当たり負けしなかった。おまけにフードの固定ネジを締めてあったので、フードが完璧なクッションの役割を果たした。
- アルミシートを巻いていたこと。アルミを巻き込んでフードがスライドしたため、アルミは見事にクシャクシャになったが、それが挟まってフードがドンツキまで突き当たらなかった。或いはその衝撃が大幅に緩和された。
- 左鏡筒はドンツキギリギリまでフードが縮んでいたが、右側鏡筒のフードは、少しだけ縮んだ状態だった。対物側から落下したことで右と左の2段階のフードクッションが働いた様だ。
さらにこのBINOは天頂を覗く際には、地べたに座り込む必要がある。つまり、耳軸の高さが限界まで低かった。そしてアイピースやiPadなどの装備は念の為外した状態だった事も、総重量を下げる結果となったし、アイピースが2階のコテージから下階の原っぱに吹っ飛ぶ被害も免れた。
スライド台座の光軸は流石に大きく狂っていたが、ものすごくシンプルな初期光軸調整機構があるので、5分で元通りになった。鏡筒も焦点内外像等も確認したが、少なくとも僕の目には、光軸ズレは全く感じられない。
翌日には、何事も無かったかの様に復活。この日到着したお客さんに、いつも通りの素晴らしい月面を楽しんでもらう事が出来た。
今回の事故の最大の原因は、TTS-160のビクセンアリミゾの噛み込みが浅すぎるのが原因だ。そもそもビクセンアリガタの台形の傾斜角度がロスマンディのそれよりも角度が浅いので、浅い噛み込みでは、より外れやすいのだろう。
上の段がロスマンディ、下の段がビクセンと、アイディアは本当に素晴らしいのだが、TTSシリーズは改善を検討すべきかもしれない。
後日マツモトさんにご報告したところ、責任の半分は自分にあると告白して下さった。ビクセンアリミゾに2cmのパイプを渡して目幅スライド機構の分の高さを確保していたが、搭載物の重量がテコの原理で働いた可能性があるとの事だった。
Askar鏡筒の純正プレートは、120まではビクセンアリガタで、140からロスマンディ・プレートとなっている。重い鏡筒を支えるには、やはり固定器具の質量が必要なことを身をもって学んだ。すぐにロスマンディ・プレートを注文したのは言うまでもない笑
いくつか選択肢があったが、長すぎても重いし、そもそもネジ穴がピッタリ合うものを探すのは至難。結局これを注文した。
長穴なので無加工で装着できる可能性が高い。(結局、長穴も2mm届かなかったので、病み上がりの松本さんに再びお世話になってしまった大汗)
ユニバーサルロスマンディ取り付けドバイセイルプレート、望遠鏡アクセサリー、b210、17.7cm – AliExpress 18 https://ja.aliexpress.com/item/32954309425.html?channel=twinner
チャイナのAliExpressに注文したので、一抹の不安はあったが予定より数日早く到着した。
2cmのポールの代わりに、1cm厚のチーズプレートを二枚重ねで高さを稼ぐ事にした。
こちらは日本のアマゾン。https://amzn.to/3WA5BRl
この所ちょっと他の事に集中していて、ようやく松本さんにお送りしたのでまだ完成品の写真は無いが、見た目も精悍で重厚、高剛性な台座になりそうだ。だいぶ重くもなったけど。
二軍落ちとなったビクセンアリガタ。先端ネジが脱落防止機構。見事に二箇所、アリガタのアルミ自体が欠けてしまっている。ギリギリ端っこでクランプしていた事も要因だったかもしれない。
僕は過去に市販の大型双眼鏡を三脚ごと倒して、お釈迦にした苦い思い出がある。しかもほぼ同じ場所で笑。その時はここからもう少し上がった広場で、地面が砂利だった。落下の衝撃で双眼鏡は傷だらけになり、接眼部がもぎとれた。あの時は三脚の重要性を痛いほど学んだ。
またやってしまったかと一時は肝を冷やしたが、この経験をシェアする事で誰かの道具を守るキッカケとなるならば、これも尊い出来事と思う事にする。(^^)
(2024年7月24日追記)
松本さんがさらに考察を送って下さったので、是非ここでシェアさせて頂きます。
元のアリガタ(vixen規格)が肉抜き構造だったことも関係しているでしょうね。外圧(上に接続した高質量のモーメント)による、図のような変形が考えられますね。アリガタが完全無垢構造だったら、起きなかった事故かも?該当のアリガタは中央だけが厚くはなっていましたが、両脇が薄いので、変形に対する抑止にはあまりなっていなかったと思われます。アリガタの微妙な変形と欠けが重なったのでしょうね。
確かに超軽量と引き換えに、このアリガタの肉抜きは徹底していた。アリミゾ、アリガタは大切な道具を保持する要だ。皆さんの道具を再チェックしてみてください。