映像の世界ではAdobe、音の世界ではAvidと、それぞれ代表的な企業がほとんど同時期にサブスクリプションに移行した。一種の流行りだ。プロ連中はそれがまさに生きる糧だから、サブスクリプションを受け入れる以外にない。しかし購買層ピラミッドの大多数を締める、アマチュア、ハイアマチュア、セミプロの人達は、本当にアプリを使うために半永久的な負債を承諾するだろうか。
サブスクリプションは、圧倒的にメーカー側にメリットがある。今までは、企業が提供する新機能に魅力があれば、ユーザーは買う。無ければ買わない。主導権は消費者にあった。しかし一度でもサブスクリプションの成約に成功した企業は、今後末永く、新モデルを買うか買わないか、その選択権をユーザーから奪う事が出来る。
僕の様な怠惰な人間は特に危ない。数年経って、写真の趣味もなんとなく飽きた頃には、恐らく僕は、毎月アドビに1000円払い続けている事などとっくに忘れたまま、ほとんどアプリを使ってもいないのに残りの人生の間中、カードから引き落とされ続ける事になる。そんな人が世界中に溢れる。
この世の常として、収入が安定すると人は堕落する。サブスクリプションで経済的な成功を収めた企業が、最初の数年はともかく、今後も今までと同じ勢いでイノベーションを開発し続けるとは、僕は思っていない。
現にLightroom6からCCに移行させるために、アドビはほんの小さな機能を一つ追加しただけで、あとはまるっきり同じアプリだ。すでに企業は最初から、ユーザーにメリットを提供する事よりも、サブスクリプションを契約させる事の方が先行してしまっている。
サブスクリプションで無くても、一度世界的に成功を収めたディベロッパーの上層部が、すっかり創業時のモチベーションを失い、機材の中身がどんどんコストダウンされ粗悪化されて行くのを、僕は音の世界で目の当たりにしてきた。社長は今では南の島でワインを楽しんで暮らしている話まで知っていたりする。
Leica M10 + Leica Summilux-M 1:1.4/50 ASPH. (ƒ/8, 0.5s, ISO 100) ©2017 Saw Ichiro.
一方、Appleコンピューターは新機種が出ると、過去のOSを排除する。OSが新しくリリースされると、過去のアプリは動作保証されないから、サブスクリプションを拒絶した過半数のユーザー達は、今のOSから次に進む事が出来ない。新OSへの移行が出来ないから、新しいMacを買う事が出来ない。
携帯電話のキャリアは、似たようなサブスクリプション・ビジネスで巨万の富を築いたが、スマートフォンは人々にとって非常に大きなイノベーションだった。だから受け入れられた。しかしコンピューター、アプリの世界では、それほどのインパクトがあるだろうか。
CPUのスペック的にも、アプリケーションがもたらすイノベーション的にも、現代は既に飽和状態にある。現状のコンピューターでほとんどのユーザーは事足りる。だから新しいMacを買う事は、もはや「マスト」では無い時代になってきた。今後ますますそうなる。
結果、サブスクリプション・ビジネスは、アップルの経営まで脅かすのではないか。そしてサブスクリプションを採用した企業はことごとく堕落し、もはや国際競争力を失うのではないか。代わりの若手の第三者の新星アプリなども出現するだろう。そんなスパイラルがふと、僕の頭をよぎるのだ。アドビの様な大企業は、そんな事にはならないと信じたいが。。。