Adobe Lightroomの無償提供があったりして、多くのLeicaユーザーは迷いなくライトルームを使っているだろうし、僕もライカに移行するずっと前から、初代からの生粋のライトルームユーザーだ。
一週間ほどCapture One 11の30日無料トライアルを真剣に検証していて、一つの仮説に至った。しかし例えCapture Oneが優れていたとしても、忙しい社会人が使い慣れたLightroomを手放して、習得に何日も費やし、様々な壁を乗り越えてCapture Oneに乗り換えるのは簡単な事ではない。
自分の話で言えば、Capture Oneに移行確定だ。しかし一筋縄では行かない部分もあり話がややこしくなってきている。
真剣な眼差しが向けられているのは、クレヨンしんちゃんのYoutube^_^。Leica S-E (Typ006) + Leica Summarit-S 70mm f/2.5 ASPH (ƒ/2.5, 1/45s, ISO 100) ©2018 Saw Ichiro.
本当はトライアル初日、Capture Oneのディスプレイに表示される最初の一枚を見た瞬間に分かっちゃったのだが、その確信が真実かどうかを今日まで確認していた。いつもいい加減な話ばかり書いてるので(笑)、出来るだけ確定的な事が言えるまで、この記事を書く事を控えていた。
現像処理を緻密に時間をかけてやるタイプの人から、明るさだけ整える程度の写真家まで様々だが、Capture One(以後、C1)はどちらのタイプにもメリットがある。理由はシンプルで、現像云々以前に、読み込んだ直後のスタートポイントにアドバンテージがあるからだ。Rawの色が最初からちょっとだけイイ。もちろんそのままストレート現像したjpgの色味も、当然ちょっとだけベターな結果になる。
over the hill. Leica S-E (Typ006) + Leica Summarit-S 70mm f/2.5 ASPH (ƒ/8.0, 1/500s, ISO 100) ©2018 Saw Ichiro.
ちょっとだけ、というのは実は控えめに書いた。C1でS-Eで撮った一枚を開いた瞬間、お!となった。そしてLightroom(以後、LR)の同じ写真に戻ると、やや残念に感じてしまった。同じRawファイルなのにC1の色がリアルで美しい。
そんなの彩度を上げれば一緒だろ!と思う方も居ると思うが、なんというか、確かに発色がいいのだが単なる彩度の問題でも無い気もする。色同士の分離が良いというのか?印象が違う理由は良く分からない。
食卓で宿題。Leica S-E (Typ006) + Leica Summarit-S 70mm f/2.5 ASPH (ƒ/2.5, 1/30s, ISO 100) ©2018 Saw Ichiro.
Rawファイルは何かしらのカラープロファイルを経由してデジタル・コンバートされた色味が表示される。LRの場合、Adobe Standardか、Embeddedプロファイルを選択出来る。Adobe Standardは眠い地味めな色味で、Embeddedプロファイルの方が発色は良好だ。しかしC1のそれは、さらにもう一段クオリティが高い気がするのだ。
これはつまり、Rawの読み込みをLRでやって、それを一旦書き出してC1でエディットするのでは、意味が無いという事だ。とにかく最初の読み込みと、TiffなりPSDなりjpgなりに変換するRawコンバーターとしてのメリットだ。背面液晶で美しいと思ったのに、LRに取り込んでみて、あれ?、、、汗という経験を持つライカオーナーは居ないだろうか?特に、常に彩度を少し上げる傾向のある方も、C1の絵に拍手を送りたくなるかもしれない。
前回の記事から僕もC1現像に切り替えている。大して変わらないじゃないかと思われる方も居るかもしれないが、この違いが大きいか小さいかは、その人の写真の向き合い方に依存する。もっとも第三者的に見れば、木を見て森を見ない話に終始しているとも言える。(笑)
LRユーザーにとってはちょっと悲しいニュースだが、ゴメンナサイ、解像度もC1の方が紙一枚上の様だ。これは恐らく、読み込み時に自動的に適用されるシャープネスとノイズリダクションの設定値や、それらツールの特性に寄るのだろう。
ただし、解像度に関しては最終的なjpgにどれほど違いが出るかは微妙だ。例えばFacebookの画像上限サイズである長辺2048pxというのは、Leica Sのオリジナルサイズの27%しか活かしていない。このブログも含め、この違いが活きるかどうか。
マスクを使って夕焼けを強調してみた。やりすぎたかな^_^ Leica S-E (Typ006) + Leica Summarit-S 70mm f/2.5 ASPH (ƒ/2.5, 1/360s, ISO 200) ©2018 Saw Ichiro.
Leica S-E (Typ 006)をLRとC1で比較する
左(beforeと表記)がLightroom(Embeddedプロファイル)、右(afterと表記)がCapture One(DNG File Neutralプロファイル)。
真ん中のスライダーを左右に動かす事で比較できる。どちらもRawから何もせずにストレート現像。
冒頭の写真の現像前ストレートjpg。ここまでサイズを落すと非常に小さい差に思えるかもしれないが、この違いは僕の場合、彩度を足したくなるか、ならないかの境界線をまたぐ。解像感の違いも、髪の毛のハイライト部や、黄色いワッペンの部分で、画質劣化を起こすWordpress上でも垣間見れるか。
S-Eがマゼンダに寄る傾向があるのはカメラの問題では無く、LRのEmbeddedプロファイルに寄るものかもしれない。そう言えば、先日ライカ・プロフェッショナルストアの室内写真も、S-EのWBが妙に良いと感じた理由が、C1に寄る現像だった事に気がついた。
こうして並べて比較すると、中間色はC1の方がアンダーに出る様だ。
Leica S (Typ 007)
LRの007 Embeddedの赤の飽和感が物凄い。いくらなんでも強すぎないかな、、、M9で味をしめた確信犯か。一方、青はややアンダーな事もあってC1が鮮やかだ。
ここまでは全部ライカSに限っての話。他のカメラでも同様だろうかと気になって他のレビューを探してみると、不思議な事に、LRとC1と画質の差は無いと書いている人が多かった。中には適材適所でLRで読み込んで、C1で編集するという人も居た。僕が感じた同様の違いを、正確に記述している方も居た。
これは最初、使用しているディスプレイに関係があると思った。僕が使ってるMacBook Pro15 2017モデルの新型レティーナ・ディスプレイでは明確な違いが出るのだが、Windows機の中には良質とは言えないディスプレイを採用している機種も多いし、誰もが新しいPCを使っている訳ではない。レティーナ以前のMacも、この差が出るのかは分からない。僕が発見したC1に関する記述はいずれも古い記事が多かった。
或いは、現像でかなり加工する人は、ツールのわずかな特性以上にどういうエディットをするかの方が変化幅が大きいので、この程度の違いは問題にならないのかもしれない。この手の話は音の世界でもよくある事で、情報が錯綜しているのが常だ。
Leica Mでテストしてみた
ここまで威勢よく書いておいて、どうも煮え切らない表現に修正を余儀なくされているのは、Mで実験した所、一筋縄では行かなかったからだ。
LRのM9、M240Embeddedプロファイルの方が原色の濃度は高く、C1のデフォルトカラープロファイル(Leica M9 Generic、或いはLeica M typ 240 Generic)はどちらかと言うとLRで言うAdobe Standardに近い。そしてM9の場合は、全体的にC1の方が露出がやや明るく出る傾向があり、M240の場合はLRの方が明るめと、出て来る結果は、適用されるプロファイルによりマチマチだった。
M9
左がLightroomのEmbeddedプロファイル、右がCapture OneのLeica M Genericプロファイル。どちらもRawから何もせずにストレート現像。
なるほど、これでは情報が錯綜する訳だ。なんだか面白みが薄い。M9の場合は、LR Embeddedの方が発色濃厚。C1は露出が明るめに出る。解像感はC1の方がやや残るかもしれない。現在のM9の評価は、LR Embeddedの特性による所が大きい気がしてきた。反対にM9の色がtoo muchとお困りの場合は、C1で自然な色味が得られるという使い方もあるか。
M Typ240
LR Embeddedは洋服のピンクが濃厚。グラスの中の露出が結構変わるのは興味深い。どちらも何も調整していない。
M240は、どちらを選ぶかは人により意見が別れる所だろう。C1に移行すると、作品が結構違うモノになるかも。LRのEmbeddedの方が赤が飛び出して来る。ここを嫌っていつも彩度を落す人は、C1の方が適合するかもしれない。M240の場合は、今度はLRの方がやや明るめの露出になる傾向がある。C1のややアンダー傾向により花の紫が出て来る。
M10
後ろの黄色い椅子の色が、もはや別物になってしまう。LRのM10プロファイルは全体的に黄色に引っ張られる。C1の色味はLRのAdobe Standardに妙に近く、マゼンダ寄り。このプロファイル、LRからそのまま移植していないか?ちょっと似過ぎる。
物体の形がちょっと違うのは、C1の方はレンズプロファイルの適用し忘れ^_^。
特定の条件下では、LRのM10プロファイルはシンプソンズ・カラーの問題を引き起こす。これはホワイトバランスカードで補正しても修正出来ない。Adobe Standard寄りのC1のLeica M10 Genericではこの問題は起きなかった。
面白いのは、C1の場合、M10にM9のプロファイルを適用したりM240にM10のプロファイルを適用したり、自由度が高い。(メリットがあるかどうかはさておき。)さらにM240には、V2と表記されたプロファイルの二種が選べる様になっている。恐らく当初のM240プロファルをM9に寄せろという要望が多く、修正版が出たのだろう。V2の方が濃厚。
Capture Oneの現像
こと現像に関して、LRにできてC1に出来ない機能は、今の所見い出せない。柔軟でプロフェッショナルな現像ツールが充実している。
僕が特に感動したのは、Skin Toneエディターとカラーバランスツール。詳しくはYoutubeの解説に譲るとして、一度使い方が分かってしまうと、非常に合理的で革新的だ。特にポートレート、ファッション、ビューティ系の人は手放せなくなると思った。Photoshopと同じように使えるレイヤー構造も柔軟で、マスク関連も個人的にはPhotoshopより使いやすかった。
C1のカラーツールの解説Youtube。これ一本で優れたカラーツールがだいたい理解出来る。長いけど。
明瞭度(clarity)もLRではスライダーが一つあるだけで、個人的にはこれを上げた結果が好みじゃないので、まず使う事はないのだが、C1はこの辺のパラメータも充実していて、自然な結果を作りやすい。
C1はLRより不安定で、よく落ちると書いてる人も居た。確かに僕もこの一週間で、3回、C1のクラッシュを経験した。でも1000枚くらい写真をいじりまくって、3回だ。(Mac OS SierraとCapture One 11環境)確かにLRは一年に1回くらいしか落ちないが、いずれにせよそれほど深刻に感じていない。LRより動作が重いと書いてる人も居たが、それも昔の話の様だ。現行MacBook ProではC1でもSのRawをサクサク扱える。むしろ、次の写真に移動する際に、→を連打してちゃんとグラフィックが追従して来るのはC1の方で、LRの方が待たされる。
C1はLRの様に、ライブラリ、現像と言ったモジュールの概念が存在しない。その写真に対し、やりたいプロセスをいつでも行える点もメリットなのだが、LRに使い慣れた人にとっては、様々な概念が結構違って最初は手も足も出ないかもしれない。
文献も英語ばっかりで、チュートリアル・ムービーも基本、全て英語だ。しかも一本60分あるモノが多く時間を奪われる。ダウンロード出来るC1 ver.11のPDFマニュアルも英語のみ。日本の代理店はC1を積極的に販売する意思は無いらしい。C1 ver.11のマニュアル本もamazonでは一冊も存在しなかった。ここは気合いで乗り越える以外に道は無い。
Capture Oneの問題点ともう一つの結論
C1には一つ問題がある。Phase Oneが自分のカメラを売りたいために、ライバルであるLeica中判モデルの対応を拒否し続けている事だ。Mレンズはほぼ対応しているのに、Sレンズのプロファイルをかたくなに提供しない様だ。自分が得するために他を貶めている内は真に望む成功はないと僕は思っているし、そんな料簡ではAdobeに世界シェアを取られても仕方ないと言いたくなる。
まあレンズプロファイルと言っても、ちょっと周辺減光と樽型収差を補正しているだけ?なので、僕はLightroomを参考にSummarit-S 70mm f2.5のプロファイルを自作したので問題は無いが。
これでほぼ、LightroomのSummarit-S 70mmのレンズ補正と似た感じになる。もっとやってもいいのだが、控えめにしておいた。
レンズ・プロファイルだけでなく、Sのカメラ・プロファイルも用意されない。そのためSにはDNG File Neutralと表記される汎用のカラープロファイルが適用されるのだが、これが実際、問題無い。いや、誰かの変な作為が無い分、ストレートでかえって使いやすいと感じたりもする。
よくよく見てみると、LRにせよC1にせよ、色の問題の多くは、専用のプロファイルが用意されている故に起きていないか?だとするとプロファイルなんか無い方がいいんじゃないかとすら、思い始めてきた。だいたい、Embeddedは誰が制作・提供しているのだろう?
カラープロファイルのさじ加減一つで、そのカメラの特性に大きく影響が出てしまう。いや我々が一喜一憂しているのは、実はカメラ本体ではなくLR等に用意されたカラープロファイルそのものなのだ。
つきつめると、カラーチェッカーでシーンごとに作成したプロファイルに勝る汎用設定は無いはずで、本当はLRとC1の色の違いなどは大した問題では無い。これより先は自作プロファイル以外に無いという、あらぬ結論に至ってしまった。
初心者に親切なのはLightroomだ。合理的な短編日本語チュートリアルも充実している。売る準備が出来ていないCapture Oneは、こちら側に習得してやろうとする「意思」が要求される点で敷居は高いが、求めれば高い自由度で答えてくれるプロの道具だ。いずれにしても簡単な処理ならほとんど学習無しでもLRと同じように使えると思う。
いろいろ断定的に書いてしまったが、自作品が向かう方向にC1が必要かどうか、まずは無料トライアルでご自身で判断して頂くのが一番だ。今後も少しづついじってみて、何か気付いたら追記しようと思う。
Capture One 無料トライアルダウンロードページ
(2018年5月3日:追記)
何故Leicaが、Mと抱き合わせでAdobe Lightroomをわざわざ無性提供していたのか、今になって理由が分かる気がする。単なるサービスや親切では無く、LRのカラープロファイルがあって初めて、M9なり、M240なりが成立するのだ。逆に言えば、LR等のRawコンバーターツール無しでは現代のデジタルカメラは完成しない。
今日はもう一歩進んで、Capture Oneでカラーチェッカーパスポートによる自作プロファイル作成を検証した。
ここにも一つ、Capture Oneへの移行を阻む問題が生じた。C1はLRの様なカラーチェッカーとの親和性が全くない。LRの様に簡単に独自メニューでカラーチェッカーからプロファイルの書き出しが出来ない上に、カラーチェッカー付属アプリでも、C1で読み込み可能なICCプロファイルの書き出しが不可能なのだ!
散々各所を調べたが、どうやら有料のICCプロファイル生成アプリを購入する必要がある。いくつか選択肢があるが、Lumariverと呼ばれるアプリがポピュラーの様だ。
Lumariver Profile Designerの中でも、Pro Editionが必ず必要だ。1ライセンス€100。ただでさえC1は高価なアプリなので、この辺りもさらに敷居が高い。プロ用を謳うなら一刻も早くカラーチェッカーに対応して欲しいものだ。
lumariver.com仕方なくLumariverを購入しなんとかここはクリアしたが、プロファイル作成はLRの5倍くらい手間が多くて面倒だ。
C1用プロファイル作成方法
こうなってくると、C1を人に勧めるには乗り越えるべき壁が多過ぎる気もしてきた^_^。ちょっとだけLRで整えて、あとはお気に入りのプリセットを選んで一発OK!というシンプルなプロセスの方がよほど健全だし、画質にこだわり過ぎるより、貴重な時間は撮影に使った方がいい。カメラの色味の初期設定の面倒を見るのは、写真家の仕事じゃない。
考えてみれば、日向も日陰も朝も夜も夕方もタングステンもフラッシュも、全部一つのプロファイルでこなすなんて、最初から無理がある。それならそれぞれホワイトバランスの様に、きっちり作り込んだ質の高いカラープロファイルも個別に用意して、ユーザーに選ばせる様にしてくれる方が有益だと思う。
仕方無いから自分でそれぞれのLeica S-Eプロファイル・セット一式を制作してみた。まだ試験段階だが、結果は上々だ。Mの現像をC1でやる場合も、独自プロファイルはあった方がいいと思う。十分クオリティを満たしたモノが出来たら、ICCをここで配布したりしても面白いかな。^_^