今日は事件を2つ語らなければならない。一つは遠征始めて以来、20cmF7 BINOの最重要パーツ、フレームを忘れた事が現地で発覚、全く使えなかった事(汗)、もう一つはとうとう交通事故を起こしてしまった事だ。相手はシカ。(大汗)山道を飛ばす事が如何にリスキーな事か、昨日の僕と未来の誰かに知ってもらうために一部始終を書いてみる。
僕は若い頃、アルファロメオを3台も乗り継いでサーキットやレーシング・スクールに通っていた時代があって、峠道や雪道は大好きだ。無茶な走り方をしているつもりはないが元々ペースは遅い方ではない。でも山は動物との接触事故が危険な事は重々承知している(つもりだった)し、星仲間が実際シカを跳ねて一台お釈迦にしている。
しかし昨晩はギリギリまで仕事をしていて、出発が深夜12時になってしまった。乙女高原はICを降りてから1時間一般道を走る必要があり、どうしても2時間半を要するので夜明けまでたったの1時間。富士山麓の全国育樹祭記念広場なら、飛ばせば深夜2時前には到着出来るという事で、遠征先は富士に決定。そもそも無謀なスケジュールで気持ちが焦っていた。
先月の遠征から望遠鏡の足回りは車に積みっぱなしだったので、何の疑いもなく対物レンズやアイピースだけ積んで慌てて出発してしまった。いつもと違う積み方で。忘れやすい椅子やiPadなどは何度も確認したのに、まさかあんなにデカいフレームを忘れているなど全く思い至らなかった。20cmF7のフレームとは、対物レンズと接眼部を連結するセンタープレートだ。そういえばセンタープレートだけ邪魔なので倉庫にしまっていたのだ。
昔から音楽制作のお手伝いさせて頂いていた後輩から、ある日シカを頂いた(笑)「イチローさん、シカ要りますか?」「は??」
順調に全国育樹祭記念広場に到着、と思いきや、なんと直前で冬季閉鎖で足止めを食らった。仕方無くしばらく周辺をウロウロしたが、空が開けた場所が無いし、そもそもどうにも空が駄目だ。これなら神奈川と大差ない。という事で急遽、目的地を富士山を挟んで反対側の西臼塚駐車場に変更。富士山半周に40分。結局、残り時間は1時間となってしまった。これでさらに焦ってしまい、普段よりもついアクセルの踏み込み量が増えてしまった。
暗闇の先にシカが見えた時にはもう全く車を停止するのは間に合わない。シカを左にかわしたが逆に奴はこちらに向かって走り出し、過ぎ去ろうとする車の運転席側のドアに横から彼が体当たりする格好となり、接触した。結果的にこの程度で済んだのは技術云々を超越して、単なる運だ。それでも凄い音がした。
これがもし車の慣性で正面からシカに突っ込んだら、恐らくシカも助からないし、大破したフロントガラスと共に室内に飛び込んできた巨大な動物を顔面にくらったら、目を開ける事もブレーキを踏み続ける事すら出来ないのかもしれない。今回はたまたま最悪の事態にはならなかった。彼もすぐに草むらに入った様だし、今から僕が彼のためにしてやれる事は何もない。彼の怪我が軽い事を祈りつつ、とにかくすぐ目の前の目的地に向かう事にした。
相手が動物とは言え、事故とは気が動転するものらしい。急ブレーキで助手席に置いてあった荷物が足元に吹っ飛んで散乱している事は、西臼塚駐車場に到着してから気がついた。もし望遠鏡を裸で椅子に乗せていたら無事なはずは無い。
もうこんな時間だし、2月だし星屋は誰も居ないだろうと思ったのと、駐車場の地形が昔の記憶と違った様に感じて、既に2組居たのにうっかりハイビームで入って行ってしまった。(ゴメンナサイ)
車を降りて接触場所を確かめてみると、凹んでいる事は分かったが大した事はなさそうだ。それより奴は明日から今まで通り生活出来るだろうか。ひょっとして死んだりするのか?などと考えると、後味の悪さの方が精神的に重い。(後に明るくなってから見ると、結構ドアがガッツリ凹んでいる事が分かり心も凹んだが、窓が無事で寒さに震えずに自走可能なだけ感謝すべきか。)
気を取り直し、とにかく急いで望遠鏡を組み始めて、ここでようやくフレームが無い事に気がついた。万事休す。全て出したが、そのまま全て片付けた。
もう帰ろうかとも思ったが、このまま帰ったらシカを怪我させて、移動時間も交通費も何もかもを無駄にしただけというマインドは、かえってセルフイメージを落とす。まだ双眼鏡があるじゃないか。心配したり、気持ちを落とした所で事態は何も好転しない。よし、自分の馬鹿さ加減には呆れるばかりだがとにかく今は事故の事はすっかり忘れて、双眼鏡でしっかり見届けてから帰る事に決めた。
朝の帰宅の際、さっきの恐怖心もあり相当ゆっくり走っていたのだが、なんと再びシカが全力疾走で直前を横断した。またもやABSが作動するブレーキを踏まされたが、今度は正面衝突の危機だった。あと5km/h速かったら今度こそ跳ね飛ばす所だった。こんな飛び出し方をされてはどんな運転をしている人でも事故に巻き込まれる。
「今のは無理だろ!ふざけんな!!」とシカにキレた所で仕方ない。ゆっくり走れよ、と神様が警告してくれてると思った。皆様も山道の動物にはくれぐれもご注意を。
最近新調した椅子。最大高は低くなったが格段に荷物が小さく軽くなった。今回はメインを忘れたので出番は無かったけど(笑)
テレコン・ビノにヒーターを装着する
やっと始めた時刻は既に春〜初夏の夜空だった。春の天体は僕は滅法弱い。市街地では春は目立った天体がほとんど見えないので多くの人は天体熱が冷める時期だし、大体寒くてこの時期の遠征は数えるほどしか経験が無かった。高倍率で詳細を見るより先に、まずは全体像をじっくり把握する時間にした。
実視野30°?ほどもあるテレコンビノは地球から見える宇宙の全貌を理解するのに最適なBINOだが、今日もすぐに夜露で曇ってしまった。そこでいつもアイピースに使っているUSBヒーターをテレコン・ビノに巻いてモバイルバッテリーをポケットに忍ばせてみた所、サイズもピッタリ。これがうまく行った。全然見辛くならないし、朝まで再び曇る事が無かった。USBケーブルが煩わしいけど。
K-Nebulaさんの真似をして、双眼鏡で立ったまま気ままに流すには、iPadを首からぶらさげるタブレット・ショルダー作戦がとても都合が良く使いやすかった。
Nikon TC-E2は当然ながらフォーカス機能が無く、僕の近視ではピントが微妙に合わず星像が美しく無い。この問題は昔から何とかしたいと思っていたが、よいアイディアを思いついた。
Leica M型カメラのファインダー視度補正レンズを接眼部に貼り付けてしまうのはどうか。ブランド純正は異常なプライスだが、コシナの同等品が格安で購入出来る。
僕は中判カメラに移行してしまい、Leica M型は手放してしまったが、補正レンズはまだ持っていたのを思い出して引っ張り出してきた。実際に乗せてみると、接眼部の直径18mmに対してLeica視度補正レンズが13mmで、ちょっと見口が狭くなってしまう。周囲も若干蹴られている様だし、貼り付けるならレンズに直接ボンドをつける感じになってしまう。
右がNikon TC-E2、左はKenko KNT-20 BINO。どちらも乙女高原仲間の友人が制作して下さった。Kenkoは口径がNIKONの54mmに対し66mmもあるが見口が非常に広いので目幅の問題が起きない(多分)。フル口径は射出瞳の関係で活かしきれていないはずだが、実際Nikonを超える見え味だったりする。こちらもやはりピントの問題があるし、どちらもノンコーティング。
という事で見口18mmの視度補正レンズを物色してみると、NIKON FAシリーズ用がどうやら内径18mmの様だが、どこも品切れ。
コシナの視度補正レンズがツァイスイコン(内径17mm)に対応しているとの事で、これは人柱になってみる価値はありそうだ。-3dptもあるので強度の近視の方も行けるかも。一個とりあえず注文してみようかな。
西臼塚駐車場は気温もマイナス3°程度で、完全な無風。狙っていたNANGA WHITE LABEL ムーンロイド type1は今年のモデルは残念ながら既に完売の様だったが、型落ちがメルカリで出てたので安く済ませた(^^)。上に放り投げたらフワフワ飛んで行ってしまいそうなほど軽いし、長時間着ていても肩こりとは無縁だ。暖かさもイメージ通りでこのまま外で眠ってしまえるほど余裕だった。
メインの望遠鏡が無いと、新たな発見が実に多い(^^)。もう長年所有しているはずのテレコンビノとこんなにじっくり向き合ったのは今回が初めてだ。今までいい加減にしてきたりゅう座、やまねこ座(地味!)、こじし座(地味すぎ!!)、へびつかい座、へび座などを勉強した。やはり星図で見るのと、実際の空で本物の宇宙スケールで見るのとでは、記憶の定着力が違う。
途中からLeica Noctividに切り替える。こっちもヒーターを乗っけて使ったが、一度も落っこちなかった。
イマイチ視度の合わないテレコン・ビノに対して、Leicaのやる星像の鋭さに改めて感動した。これは美しい。アルビレオが分離しているのがx8でも綺麗で、今まで双眼鏡で見た事が無かったヘルクレス座の可愛いM13やM92の見え方などを楽しんだ。おおぐま座のM81、82などは小さいけど形までちゃんと視認出来るのも意外だったし、アンタレスの隣のM4も結構大きくちゃんと見えた。いずれも双眼鏡で見ようとすら思った事が無かった。
しかし実視界7.7°って意外と視野が限定的で、もちろん倍率とのトレードオフだが、もうちょっと広く見たい欲求にいつも駆られる。やっぱり松本さんにAskar FMA180 BINOをお願いするか。Masuyama32mmと合わせると7x 12.4°得られるが、Leica Noctividとの併用は贅沢に過ぎる気もして躊躇している。
NoctividとFMA180との視野の違い。
視界も12°あるとしし座の頭も、北斗七星の柄杓もすっぽり収まり、星座を追うのに丁度良さそうにも思える。倍率も7倍しか無いので、座ったまま膝の上に乗せて手持ちで上から覗き込む感じでも使えるかもしれない。
空の判断基準
空の状態を区別するために、今日のこの場所では肉眼で何等星まで見えてるのか手軽に把握したい。そのための便利なエリアが無いか探していた所、もってこいの星座があった。こぐま座。
北極星が見える場所ならだいたいいつの時期でも見られるし、四角形を形成する星が、左上から2等星、3等星、4等星、5等星(4.9)と大変都合が良いのだ。もちろん、光害が酷い方角などもあるし高度も低めなので万能では無いが、一つの指標にはなる。
ゼータ星とイータ星のちょうど真ん中の星が5.7等級なので、準6等級と見立てて、これが肉眼で見えたら相当素晴らしい空と言えるが、関東近郊ではちょっと厳しいか。ちなみにこの四角形の中は一個(19 UMI)を除いて6.0等級より明るい星は無い。
ちなみに今日の西臼塚駐車場は僕の視力では4等星がギリギリ、5等星は心眼で辛うじて見えるか?というレベルだった。北側が最も暗くて、南や東側は高度40°以下は真っ白で何も見えない。以前はこんなに光害ひどかったっけ?
いつもナビゲーションに頼ってばかりいるので、かみのけ座って肉眼でも存在が分かるんだ、などと明るくなるまで結構楽しめたが、本丸を使えなかった消化不良は拭えない。近日もう一度リベンジに乗鞍辺りまで遠征してみるか。今度は時間的に十分余裕を持って。(^^) ああ、板金屋に電話しないと。とほほ。
凍った本って、見たことありますか(笑)
それにしても夜明けの富士をLeica Noctividで覗いてみて、畏怖の念すら覚える雄大な美しさに絶句した。ここは星よりこっちの方が凄い。(笑)
文字通り、天まで届く雪の壁がそびえ立っている。小さすぎて写真では見えないが、絶壁を背負った中腹の山小屋の如何に小さく危うい事か。事前に双眼鏡で観察すれば、ここを冬季に登るなど自殺行為と分かるはず(^^)。7合目付近では結構吹雪いている様で、吹き下ろす風に巻き上げられる粉雪が朝日を浴びて輝いている。文章や写真ではその神々しい光景を1mmも伝えられないが、いつまでも双眼鏡から目を離す事が出来なかった。