左から、Gitzo マウンテニアGT1542、GT2331、システマティックGT4552TSと、一番右がINNOREL RT90C。
僕が何のためにこのブログを一生懸命書いているのか、3年もかかってようやく判明した。誰かの役に立つならまあいっか、という体の良い言い訳を利用して、自分の無駄遣いを正当化するためだった。(笑)
僕が選んだ雲台は前回詳しく紹介したので、今度は三脚を物色した話。それと動画撮影だけでなく天体の大先輩のお写真をご紹介しつつ、望遠鏡用の三脚も再考してみる。
音楽仲間から物撮りを頼まれる機会は度々あって、浪費を正当化する絶好のチャンスだ(笑)この時もGitzo GT4552TS。Sigma fpL, 105mm F2.8 DG DN MACRO ©2021 Saw Ichiro.
先日のムービー撮影では、普段は望遠鏡で使ってるGitzoシステマティック4型の大袈裟な三脚をメインに使用したが、いくらカーボンとは言えやはり重いし固い。一日中、限られたスペースで頻繁に足を広げたり畳んだり、セッティングを変えまくるのに相当消耗した。しかもシステマティックのセンターポールを持っておらず、ちょっと高さを変えたいだけで3本の足を毎回調節するのがしんどかった。
Sigma fpLなら今回の用途なら1型で十分なので、機動力重視のセンターポール付きの軽量三脚を調達するのが今日の最初のお題だ。
以前GitzoマウンテニアGT1542をヨドバシカメラで触らせてもらった時は、足が細くて猛烈に軽いのにそのガッチリとした剛性感に感動した事がある。三脚にうるさいオジサマのウンチクは多少知っているし、完璧を目指したりあらゆる状況を想定したらそりゃ大型がベターに決まっているが、そもそも強風下で長時間露光とか僕は一生やらない。(^^) 風の日に足全部伸ばして超望遠使いたいとかワガママ言わない限りw、僕の用途では他のブランドなら2型相当、Gitzoの場合は1型で不足は無いのではないか?という仮説を立てた。
あとは全て手持ち。葉山より。X1D II 50c – Hasselblad, XCD 3,2/90 ©2021 Saw Ichiro.
どんな状況でも自分の都合を優先するのか、或いは環境の都合に合わせてこちらを柔軟に変えても良いのかによって、三脚に求める能力は大きく変わる。僕の場合は後者で、その時のレンズとその時の道具で撮れるモノこそ一期一会で尊いと考えている僕にとっては、レンズも単焦点一個しか持ち歩かないスタイルが好きだし、1型で困ったら必要なだけ足を下げれば良いのがアマチュアの特権だ。三脚より雲台の方が僕にはずっと深刻だったりする。
0型もいじってみたが、流石に上から押し付けると足全開だとちょっとクニャっとしてしまい、いくら軽いとは言え流石に心もとないかな?と思った。
音響が何故かハッセル中判デジタルをぶらさげているのを見て、多くのカメラマンさんが声をかけて下さった(^^) X1D II 50c – Hasselblad, XCD 3,2/90 ©2021 Saw Ichiro.
ちなみにうちの家系で代々伝わる教えに、右手をご覧くださいと言われて右を向いている様では人と同じモノしか見えない。その時は左を向かなければならないというものがある(笑)。ただの屁理屈と思いながらも、プロがみんなして同じ方向を撮っているなら僕は違う方しか興味がない(^^)。
GT1542とほぼ同スペックのトラベラーGT1545Tは、マウンテニア(1.28g)よりさらに軽く収納高が短くて魅力的だ。何せLeica M240+ズミルックス50ASPHとほぼ同じ1kgとちょっとなのだ(雲台を除く)。これなら三脚を広げる面倒を乗り越えて、稼働頻度が上がるメリットが大きい。ただマウンテニアにはあるセンターフックがトラベラーには省略されていたり、開脚部がだいぶ肉抜きされたりして、両者の違いは結構いろいろある。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P ©2021 Saw Ichiro.
こういう高価な道具は、Leicaと同じで買う瞬間だけ鼻血が出そうになるが、買ってしまえばどうという事もない。でもその後は取り出す度に道具の素晴らしさに毎回感動するし、その感動は所有する限り続く。人は感動するために生まれてきたのだ、僕の元気な活動時間は残り10年か15年か、もしかしたら明後日までか知らないがw 短い人生、三脚ひとつケチっている場合ではない!と買う口実を自分に言い聞かせてみる(^^)。
マウンテニアなら1型で事足りるかもしれないという期待感が大いに湧くが、トラベラーは触った事が無い。ましてや同等スペックの他社製でGitzoと同等の実力を持っている保証はどこにもない。
手持ちで三脚を持ち歩く事なんて僕の場合はまず無いし(^^)、既に十分小さいし軽いので、その分基本的な剛性重視という事で僕はマウンテニアGT1542を選んだ。マーキンスQ3と台座幅がぴったりでベストマッチだ。
左は僕が長年愛用してきた、というかほとんど使ってなかったw、GT2331と言うとっくに廃盤となっているアルミ製2型だ。これが重い。写真では分かりづらいが現行の1型は物凄く細く、指先だけで持ち上がるほど軽いのに剛性感はGT2331に全然引けを取らない。いやむしろ、それぞれ1段だけ足を伸ばした状態で比較してみると現行マウンテニア1型の方がねじれ剛性も含めて上じゃないかな。現行1型は只者ではない。
マウンテニアのロック機構も手首でクイッとねじるだけでガッチリ締まる。トラベラーのロック機構よりも早い段階で最高の剛性に到達するそうだ。足をワイドに開くためのストッパーを持ち上げると、必要なタイミングでスプリングで勝手にストッパーがセットされる。(GT4552TSは手動)畳んだ時にセンターポールと足のカーボンが接触しない様、センターポール先がゴムリングで保護されていたり、あらゆる所に細やかな配慮が行き届いていて、この三脚の足をナデながら酒が呑める(^^)。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 4/45P ©2021 Saw Ichiro.
身長170cmの僕のアイレベルまで、マーキンス雲台とカメラの高さも合わせると、ちょっとセンターポールを伸ばせば届くし、センターポール無しでも覗き込むのに不自由は無い。ただ一番下の足径は14.7mmという事で見た目にもかなり細いので、積極的には使いたくない。風があれば簡単に揺れを拾うだろう。足を全部伸ばしてアイレベルで使いたい人は2型トラベラーの方が精神衛生上いいと思う。1型マウンテニアと重量差は大差無い。
1型を選べるのは既に4型を所有しているからでもあって、オールマイティに使うならやはり2型が無難という考え方は理にかなっていると思う。僕は軽いミラーレス前提で1型を選んだが、スペシャルな軽さと引き換えに、今後大型のカメラを購入した時に1型で本当に問題無いか一抹の不安が残る。
X1D II 50c – Hasselblad, XCD 3,2/90 ©2021 Saw Ichiro.
何度か実際に使ってみたが、特に俯瞰バーを付けて撮った時なんかも三脚の事が度々頭をよぎる。それでも毎回まず1型に手が伸びるのはやっぱり軽さの恩恵だし、この気楽さは他に代えられないモノがある。撮れた写真も今のところ問題は無い。
ビデオ雲台をハンドルで操作すると、1型では流石に自重が軽すぎて三脚ごとガタガタ動いてしまうので、ビデオ雲台メインなら三脚にもっと重量が必要だ。その方が遠慮なく振り回せて使いやすいと思う。僕の仮説、1型で本当に問題無いかどうかは、もうちょっと使い倒して様子を見てみる事にする。
Gitzoの最大の欠点は付属のケースがペナペナで、ほぼ三脚と同じ長さのため雲台を付けたまましまうと足がはみ出る。(^^) 高価な三脚なんだから、ケースくらいもうちょっとマシなの付けてよ。
Sigma fpL, Carl Zeiss Planar T* 50mm F1.4 ©2021 Saw Ichiro.
望遠鏡用の大型三脚を物色する
使用用途が天体観測となると、話は全然変わってくる。これは限界への挑戦だ!!
いつも乙女高原でお世話になっている、天体の大先輩の田畑さんの望遠鏡を覗かせて頂いて一番感動したのが、レンズの性能もさる事ながら巨大な足から来る剛性感により、200倍オーバーの像が全く揺れずに、木星や土星が完全に静止していて実に美しかったのだ。子供が三脚に触ろうが蹴飛ばそうがビクともしない。(^^)
カーボン三脚なんかが普及して軽さばかり正義と思っていたが、極限が求められる状況では足や架台は重ければ重いほど良いという基本を改めて実感した。僕の双眼望遠鏡、APM120は三脚に乗せる積載物が20kgオーバーだ。圧倒的トップヘビーなのは否めない。田畑さんの望遠鏡を覗かせて頂くまでは別に気になっていなかったが、倍率50倍程度でもGitzo GT4552TSでは結構視界が揺れている事に気がついた。
僕の天体写真ではショボ過ぎるのでw、田畑さんの作品をいくつかご紹介する。と言ってもこれは何ていう天体なのかな、眼視で見る事は多分不可能な対象なので僕は知りもしない(笑)copyright Tabata Daisukeさん。→ エリダヌス座の魔女の横顔星雲と言うそうです。肉眼で見る事はまず出来ない天体だ。(IC2118)
こちらは冬の天体で最もメジャーなオリオン大星雲だ。眼視では色までは見えないが、肉眼でも視界いっぱいにその詳細構造を楽しめて、見事な景色だ。それにしても地上からここまで写せる事が凄い。もちろんこの辺は全部田畑さんの作品だ。
これも何かなw?バラ星雲?違うかも。バラ星雲なら眼視でも頑張ると片鱗は見える。人間の目の集光力では全てが白黒だが、びっくりするほどでかい天体だ。ケフェウス座のIC1396と言うそうです(笑)マニアック!!
それにしても数々の素晴らしいお写真を快くお貸し下さり、誠にありがとうございます!
写真一番奥のシステムが、乗っかっている赤道儀(地球の自転を相殺する架台)がなんと自重25kg!それを乗せているのが自重10kg以上あるタカハシJFメタルという三脚で、恐らく耐荷重は100kg以上あると思われる。タカハシという日本ブランドは望遠鏡界のフェラーリで、世界最高峰の望遠鏡を販売する(価格も最高峰)。
特に天体写真は長時間露光した写真を何枚もコンポジットするため、絶対にブレが許されない最も厳しい要求がある訳だが、タカハシ三脚は足が引き延ばせないモデルでも16万円するし、重さにも価格にも腰が引けてしまう。
手前真ん中の三脚も同じく天体用のセレストロンというメーカーで、タカハシと並べると全然その太さの実感が沸かないがw、セレストロンも50mm径あるのでGitzo4型(径36.6mm)と比較してもかなり重厚だ。でも三脚単体での販売は無い様だ。
真ん中の左の黒いのがメチャクチャ細く見えるがなんと足径40mmだそうだ。左がタカハシ。そりゃ惑星が止まる訳だ。地震が来たら机よりタカハシの下に避難した方がいいw。奥のステンレス三脚がセレストロン。天体の世界ではいかにデカい三脚を使うのか改めて思い知った。(笑)
スコープテックさんの38mm径の三脚も、田畑さんご推薦だ。
流石に田畑さんの巨大な丸太三脚と25kgの赤道儀は、車の積み下ろしだけでも腰の骨が砕けるので(^^)、なんちゃって天体ファンとしては動画撮影でも使える様に、などと軟弱な事を考えて、取り合えず以前から気になっていたINNOREL RT90Cというチャイナ製大型カーボン三脚を試してみる事にした(自重2.7kg)。
左がINNOREL RT90C、手前が4型なのに僕の手持ち三脚中、一番短くてコンパクトなGitzo システマティックGT4552TS。
流石にパイプ径40mmのデカさはGitzoで言う所の5型相当なのかな、握った感じはGT4552より2回りデカく感じる。耐荷重40kgと謳うだけのものがある。(ちなみにGT4552TSはパイプ径36.6mm、耐荷重25kg)大型雲台を付けたまま収納出来るクッション付き三脚バッグまで付属していて、ちょっと前までは考えられないコスパが実現していて満足感が高い。
トッププレートの大きさもかなり違う。INNORELのトッププレートは美しいアルミ削り出しだ。ここは写真に写り込む所では無いし、暗闇で架台や雲台を装着する際には、黒天面のGitzoより合理的と言える。ただ難点は、足のロック機構がINNORELはプラ製?でここだけはっきりとGitzoと品質差があり、コストダウンの跡が見られる。
付属のセンターポールは一番太い足の40mmと同径で素晴らしい。ただし、センターポールをつけたまま収納すると、足のカーボン部分とポールの角が思い切りヒットする(笑)。流石にGitzoの様な心配りは無いので、乱暴にガンガンぶつけてるといつかカーボンが割れて、望遠鏡ごと崩壊するのだけは勘弁なので(^^)、持ち運ぶ際はちょうど良いゴムバンドでも100均で探してきて、センターポールの先に巻いておいた方がいい。
望遠鏡を乗せて実際の実力をGitzoシステマティック4型と比較実験した。Innorelは1段足を引き伸ばし、同じ高さで比較するためにGitzoは2段半引き出した。当然、Gitzoが圧倒的に不利な状況だ。ところがなんと、何度試してもGitzoの方が揺れが早く収まる!ねじれ剛性もGitzoが一枚上手だった。実験結果に目を疑い、何度もクソ重い望遠鏡と架台を上げたり下ろしたりしたお陰で、筋肉痛になった。(笑)
恐らく原因はINNORELのチープなロック機構だったり、他にもGitzoには目には見えない一日の長があるのだろう。見た目の大きさもこれだけ違うし、40mm径で耐荷重40kgと宣伝していながら耐荷重25kgとするGitzoに及ばない今回の結果は、スペックでは本当の事は何も分からない教訓だ。
性能は値段なりだった訳だが、INNORELはレベリングベース付き、センターポール付き、立派なケース付きでGitzoの1/3以下のプライスだ。これはGitzoにとっては大変な驚異に違いないし、見た目はGitzoに負けないゴージャス感はある(^^)。まあ普通に使う分にはINNORELでほとんどの人は満足と思う。今回は相手が悪かった。
しかし信頼性を求めるならば、やっぱちょっと無理してでもGitzoを選んでおけば間違いなさそうだ。望遠鏡用は、また気長に探すか(^^)。
by 田畑さん。天体観測のロマンが写り込んでいて、大好きな一枚だ(^^)。