Zeiss50-BINO / FUJIFILM GFX100S, GF120mm F4 R LM OIS WR Macro ©2022 Saw Ichiro.
台風も去りすっかり風が止まった夏の夜、雲間に見え隠れする月が綺麗だった。こういう景色を双眼望遠鏡で覗いてみるとミラクルワンダーランドを楽しめたりする。大物を出すほどでは無いが、ひと仕事終わった事だしちょっと見てみようかと、ビール片手に(^^)Zeiss 50-BINOをベランダに引っ張り出してきた。
Carl Zeiss JENA 50/540。ねじ切りは松本さんが加工された。 / FUJIFILM GFX100S, Contax Carl Zeiss Makro Planar T* 100mm F2.8 ©2022 Saw Ichiro.
Zeiss 50-BINOは元々、贅沢にも20cmF7-BINOのファインダーとして制作された。対物レンズはとっくに廃盤となっているCarl Zeiss JENA 50/540。当時から特に高価なレンズでは無かったらしいドイツ製2枚玉アクロマートだが、精悍なのはシルバーの外見だけではない。見る度に星像の鋭さに驚かされる。
Masuyama 32mmで5° 17倍 射出瞳3.0mmで見る月面は、アポの必要性を疑うほどにキレッキレだ。色収差など僕の目には分からない。F10.8とはかくも効くものか。今日は神奈川の海辺のシーイングは結構いいらしい。
この絵はどなたか忘れてしまったが、ネットで拾った(^^)。素晴らしい。
気を良くしてアイピースをMasuyama26mm 4° 21倍 射出瞳2.4mmに変えてみる。月明かりに照らされた黒い雲の濃淡が、水墨画の様に美しい。それらが肉眼を超えた超立体感で月の手前を横切り、その向こうから月が強烈な輝きを放っている。
巨人の視界は多分こう見えるのだろう(^^)。初めて双眼望遠鏡を覗く者は、目前のかつて体感した事のない3D視界に絶句し、アイピースから目を離せなくなるのが普通だ。すぐ近くの木星も、この辺りの倍率から小さいながらも縞模様が見えてきた。老眼も始まり僕の目は全く性能が低いが、片目でよく見えなくても両目だと見えるから不思議だ。
このBINOにはなんとフォーカサーが無い。鏡筒をねじる事で螺旋状のスリットに従って鏡筒自身が前後スライドする仰天の機構!松本さんの作品はいつも驚きに満ちていて、彼のやるカッティング・エッジな斬新性を楽しむためだけによく制作速報を眺めていた(^^)。手前のノブが目幅スライドだ。
雲と月の対比の構図としては、17倍の方が面白いかな?などととっかえひっかえしているうちにすっかり雲がどこかに消え、スカッと晴れてしまった。迷わずパワーメイトx2、x4を試してみる。
Masuyama 26mm PowerMate x2 2.05° 41.5倍 射出瞳1.2mm
Masuyama 26mm PowerMate x4 1.02° 83倍 射出瞳0.6mm
83倍まで上げると、視界の端の月のエッジによく見るとなるほど僅かな青を帯びている事が分かる。気になるかと言えば、うるさい人も居るだろうが僕的には写真ならともかく、自分ひとりで見る分にはどうでも良い。(マニアはこのために100万円を惜しまない。(^^))木星は色収差は確認出来ない。この辺りでは木星の縞模様が直線では無い事が分かり、像は大きくは無いが北極、南極の色の濃淡が見て取れる。
月面は83倍でも全景が見渡せるが、85°アイピースの広視界の中で目をぐりぐり動かしてやっと、視野円に全景が入っているのが分かる感じだ。目の前は全て山脈とクレーター、砂と岩石の世界が広がっている。
この素晴らしい地図も拝借させて頂いた。(^^)Yu Kogumoさん、ありがとうございます!
中でも危機の海周辺がクレーターの影が濃くて美しい。月の地図をiPhoneで調べながら、これがクレオメデスか、アポロ11号が着陸したのは、静かの海のこの辺か、などと地図を確認しながら回った。何のために?もちろん、そのうち気軽に月旅行に行ける様になった時のためだ。(笑)
ちなみにアポロ11号のその後アメリカは、アポロ17号まで合計12人の宇宙飛行士たちが7度も月面に降り立ったことになっている。ほんとかな(^^)
この鏡筒は元々アルマイト処理されていて、黒かった。それを無理やりヤスリで削り落としたのは、アルマイトされているアルミは、そうでない地肌丸出しのアルミに比べて放射冷却率が10倍も高い事が分かったからだ。世の中の望遠鏡の多くが白く塗装されているが、樹脂塗料は理屈上はアルマイトよりさらにひどく夜露と光路中の陽炎の原因となる事が分かり(裸のアルミの50倍!)、実験的な意図と、シルバーのZeissレンズヘッドにインスパイアされたデザイン的な意図もあった。想定以上に大変だったので、もうアルマイト落としは懲り懲りだが。(^^)
結果として、アルミむき出しにして陽炎が消え去ったかどうかは、元々クリアに見えていたので良く分からない(笑)でも先日、海外で写真展などの経験もある備前焼ギャラリーオーナーの親友が、このBINOを見て開口一番「これ超カッコいい!!」と指摘してくれた。フフフ、流石お目が高い。
そう言えばこのBINOはいつもヒーター無しでしか使っていないが今の所夜露の被害は無い。結構イイかも?
MATSUMOTO式中軸架台。随分長い事憧れていた。この使い方は製作者の本来の意図とは異なるが今後いろいろな用途に応用出来る。次期ロットの制作がいつになるかも分からないし、未来のためにも一台確保しておきたかった。水平回転エンコーダー内蔵。
Zeiss 50-BINOは松本式中軸架台を片持ちで使っている。水平回転軸は重心を軸上に寄せるほどシルキースムーズな性能を発揮するが、片持ちの場合は重心が片側に偏るため、快適に使用するためには反対側に同等のウェイトを置く必要がある。
でもあれこれ持ってくるのが面倒なので(^^)この程度の倍率ならBINOだけ乗せる事が多いし、またこれはどの架台でも同じだが鏡筒が軽過ぎるためパワーメイトを乗せるとアイピースの背が高くなり過ぎて、何か対策を施さないと高仰角では縦軸がクランプフリーで使えない。
このズボラな使い方だと快適なのはこの倍率辺りまでだろう。元々低倍で使うつもりなのでこれでOKだが、惑星を強拡大するなら微動装置があっても便利かもしれない。まあ5cmじゃ強拡大しないか。
反対側には、このBINOに似合うシンプルな片持ち操舵ハンドルもつけて頂いた。アルカスイスで脱着可能だ。こちら側にモバイルバッテリーやiPadを載せる事でバランスが取れる。
スマホクランプ。モバイルバッテリーもクランプ出来て便利なので2個買った。底面がアルカスイス規格準拠なのでどこにでも固定出来る。
噂によればスコープテックの次世代経緯台ZEROが評判もコスパも高く、微動装置のオプションがあるし耐荷重7kgという事らしい。ZERO経緯台は元社長の大沼さんからいろいろと教わっているし、強度設計には先日の観望にご一緒した田畑さんも確か携わっていたはず。微動ハンドルのオプションもあるし、これほど軽量ならBINOでも使えるかもしれない。
松本さんの名言「常識的にやってたら、常識的な重量になってしまう。」というお言葉通り、このBINO台座も型破りにシンプル化されている。長焦点の鏡筒2本+EMS+目幅スライド機構付きウェイト付き台座全て一式、2インチアイピース2本まで含めてなんと5.3kg!持ちやすいハンドルの恩恵もありこれなら片手で楽勝だ。重いとそれだけで持ち出すのが億劫になってしまう。チョイ見BINOの最重要ポイントは手軽さなのだ。
Zeiss50−BINOの台座。市販のアルカスイス・プレートを利用しているが、ギア式目幅調整機構が備わり、クランプを緩める事なく手前のノブにより適度な重さで片側鏡筒をスムーズにスライド出来る。このノブの延長ロッドも制作して頂き、長い重量物を乗せても細い暗がりに指を突っ込まなくても済み、回しやすい。
鏡筒スライド式台座として、これ以上の軽量化が考えられるだろうか。センターポールも下から2点ネジ留めされているだけだが、回転する事なく強固に固定される秘策が盛り込まれている。さらに、きっと何かの役に立つでしょうと、センターポールの先端にネジまで切って下さっていた。早速小型ウェイトシステムで便利に使わせて頂いている。流石だ!
これもあまりにカッコよくて思わず携帯に保存してしまった(^^) どなたの作品だろう。
たった5cm口径でも双眼になるとこんなに楽しい。廃盤のZeiss 50/540は今は入手が難しいが、TOAをも凌ぐ光学性能と言われるタカハシFOA60Qや定番のFC76シリーズ、Borg FL72など現代版小口径フローライトレンズで松本さんにBINO制作をお願いしたら、最高峰の小型BINOになるに違いない。でも究極の性能にこだわらなくても、リーズナブルなアクロマートでも実際十分楽しめるし、小口径なら鏡筒によってはズミクロン一個分くらいのプライスで一式お願い出来るのもある。
懐かしい写真が出てきた。10cmF5-BINO。2014年に撮られていた。これにも素敵な思い出が沢山ある。
チョイ見のつもりが気づけば2時間経っていた。ちょっと大人の小型双眼望遠鏡の楽しみ方。次回はウイスキーにするかな、月を肴に。(^^) なんと素敵で贅沢な時間だろう。