2017年8月30日 ichiro

好きな写真家:ソール・ライター

今年、渋谷で大規模な写真展が開かれ、日本でもちょっとしたブームになった感のあるソールライター。かく言う僕も写真展の直前に初めて彼の作品を見てその魅力に引き込まれ、写真展の知らせを知ってすぐさま駆けつけた。

 
by Saul Leiter


by Saul Leiter

彼の多数の作品が展示されていて、中央には彼の使っていたLeicaが鎮座していた。Leica M4、レンズは沈胴ズミクロンの次の第二世代、Leica Rigid Summicron 50mm/f2.0Mだ。(これを第一世代にカテゴライズする人もいてズミクロンはややこしい。英語圏ではType2と呼ばれるのが一般的か?)


映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』より

彼の道具のそれぞれシリアル番号まで僕は知っている。M4が1272827、ズミクロンが2160005だ。Leicaシリアルナンバーリストによれば、彼のM4は1970年製、レンズが1966年製という事になる。たまたま年代の近いRigid Summicronがちょうどヤフオクに10万で出ていて、僕はすぐに落札した。人の真似をして同じ道具を買う、そんな買い方をしたのはこれが初めてだった。僕のは2116583、1965年製だ。

しかし、おかしいのだ。展示されていた彼の作品は、どれも40年台から50年台の作品、つまり、M4もRigidズミクロンもまだこの世に無い時代の作品なのだ。画作りも気をつけてみれば、どうもライカでは無い様に見える。当時のライカレンズは最先端の解像度と引き換えに、ボケがぐるぐるになったり、二重線になったり、ボケだけ取り上げれば”美しい”と形容されるものでは無いのだが、彼の作品のアウトフォーカス部に、それらの現象が一切見られないのだ。


by Saul Leiter


by Saul Leiter

超写実的なライカとは対極の、夢の中に居るような柔らかい表現。ライカというよりむしろZeissに近いと思った。そもそも50年台の作品としては妙に絵が美しい。つまり少なくとも渋谷で展示されていた作品群は、ライカでも、35mm版でもなく、中判カメラだったのではないか。

彼の若かれし頃の写真を見つけた。Graflexをいうカメラを使っている。恐らく、こんな所なのだろう。これはアメリカの中判らしいが、詳しい事はよく分からない。Rolleiも使っていた様だ。


by Saul Leiter

それにしても、渋谷の個展ではライカで撮った作品は一枚も無いはずなのに、何故ライカを展示していたのだろう。ほとんどの人はあれはライカで撮った作品と誤解してしまう。カッコいいから?今回の個展では無かったが、いずれソウルライターのライカで撮られた時代の作品も公開されるだろう。その日が待ち遠しい。

まあこんな経緯があり僕が購入した固定鏡胴ズミクロンは、僕にとって意義の深い存在となった。これをボディに装着する時、いつもソールライターが頭をよぎる。そんな素敵な想いと共にこの美しいレンズを眺めている。これからも長い付き合いになりそうだ。

実は僕は50mmズミクロンはこれが3個めだ。ドイツ、ベルリンのLeicaショップでSummicron 50/f2.0 第三世代(1970年製)を手に入れて楽しんだし、現行のSummicron-M 1:2/50 (2012年製)の実力を試したくて、しばらく所有していた。この3つの中では固定鏡胴ズミクロンは一番古いのだが、僕が手元に残したのはこいつだった。

第三世代ズミクロンは、解像力は驚くべきものがあったが、発色がやや地味めだった。当時はソニーα7に付けて遊んでいたので、より色が薄く感じて手放したが、派手な発色のM9やM10ボディではまた違う感想になるかもしれない。固定鏡胴ズミクロンも色味は分からないが、ボディがライカだからか、今はそれがかえってN.Y.的に見えたりしてネガティブ要素と感じない。流石に現行ズミクロンは非の付け所がないレンズだったが、古い固定鏡胴ズミクロンも解像力は新世代に負けていない。頻繁に撮影者を驚かせてくれる。

1965年に作られた僕より年上のオールドレンズが、時に現行のズミルクス50mm ASPH.をも上回る解像力を見せる事自体、凄い事だ。最短1mというのは時々困るが、それを実現する事で設計上、失ったモノがありそうな、そんな事を詮索するほどに、この古いおじいちゃんレンズは優秀なのだ。ズマロンほどのビンテージ感の主張は少ない。M10との相性も素晴らしい。


by Saul Leiter

ソールライターの作風は、油絵の様な写真を撮る。しばらくシャープネス、解像度ばかりに傾倒しかけていた僕にとって、全く違う価値観を与えてくれた。よい時に来てくれた。僕が無茶をしてAPO-Summicron-M 50mm f/2 ASPH.に突き進むのを、ソールライターが思い留まらせてくれたとも言える。しかし今度は、滲むレンズが気になってくるから困ったものだ。

冒頭にリンクした、映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』のDVDを買った。僕はこの映画が大好きだ。酒を飲みながら何度見ただろう。アンリ・カルティエ=ブレッソンの映画は、結局一度しか見なかった。ソールライターの作品も素晴らしいのだが、音楽がイイのだ。素朴で無欲な彼の人柄から産まれる、穏やかな美の世界が、なんだか妙に心地よく、日本人の心に響くのだ。

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